ホームレスと交際0日婚をした私がやっと見つけた幸せの形 ⑦急ですが結婚しました

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たまのぶはホームレスとして、当時は主に恵比寿駅東口にある通称「たこ公園」に住んでいた。たこの形をした遊具があったので、その名前がついていた。


たまのぶは早朝、サラリーマンが出勤する前に起き、夜遅く、終電の頃に公園の土管に寝に帰る。昼間は近くに借りたコワーキングスペースでWebサイト構築の仕事をしていた。つまり、たまのぶがホームレスをしている事は、そこに住んでいる他のホームレスか、終電を逃したサラリーマンか、恵比寿駅そばの高級マンションに住んでいる住人しか認知できない生活をおくっていた。それはホームレス実験をして人に迷惑をかけないという、たまのぶなりの配慮だった。


風呂は24時間営業のフィットネスクラブを契約し、そこのシャワーを使っていた。運動も出来るけど、ほぼシャワー専用だった。服はアウトドア用品の速乾性のシャツを2枚持っていて、洗ってもすぐ乾くのでそれ以上の着替えは不要という事だった。


一方の私は、アーティストハウス「ColorFul」というシェアハウスに住んでいた。浅草にある色んなアーティストやクリエイターが集まる楽しいシェアハウスで、最大の特徴は、ある企業がスポンサーになっているので家賃がゼロ円だったという事。私は、コミュニティーFMのラジオパーソナリティをしていたので、その肩書を評価されて入居していた。


つまり、私たちは交際ゼロ日婚というだけでなく、家賃ゼロ円カップルでもあったのだ。


そんな私たちが結婚前に考えていた将来設計は、とりあえずは現状のまま別々に住んでいて、そのうち一緒に住んでもいいねというフワッとしたものだった。


ある時、私は、こんな風にたまのぶに話しかけた。


「たまのぶは自由に飛び回ってていいね。好きな時に好きな場所に行って好きな仕事が出来る。ほとんどお金も使わずに移動して、ほとんどお金を使わずに生きていける。私もそういう風になりたい」


たまのぶは、私の方は向かずに、こんな事を言った。


「大きなシゴトじゃなくて、小商いを沢山したらいいんじゃないかな?」


その口調が、とても優しかった。それが私には嬉しかった。この頃のたまのぶは、どこまでも優しかった。


「私もそうなりたいな」


そんな事を素直に思い、口に出した。


「僕の師匠の板和さんが『小商いだったら、誠実さと少しの努力で出来る』って言ってたよ。白濱なら出来ると思うし、1人で無理だったら僕もいるし」


   ※   ※   ※


2015年11月25日、ついに私たちが婚姻届を出す日が来た。戸籍を取り寄せるのに思ったより時間がかかったのと、たまのぶが大船渡に遊びに行き、戻って来たタイミングがこの日だった。


私が住んでいるColorfulに前日一緒に泊まり、朝、一緒にバスに乗って上野に向かった。婚姻届はどこの役所に出しても良いので、一番近くにある台東区役所に行くことにした。そうしたら、本当に偶然、万寿くんに出会った。万寿くんは、私たちがコタツで婚姻届を書いた時に隣に居た人だ。そんな人と婚姻届を提出する日に出会うなんて。私は不思議な偶然の巡り合わせに驚いた。


「あれ、たまのぶさん。何してるの?」


「婚姻届を出しに行くんだよ」


「ええっ!?」


「じゃぁね!」


たまのぶとわたしは、敢えてそっけなく別れた。後ろから万寿くんの「まじっすか!」という声が聞こえた。ごめんね万寿くん。そして寄り道せず真っ直ぐ区役所に向かった。


区役所の人は淡々と手続きを進めてくれて、「本籍地をスカイツリーにするんですよね、住所のここの部分、要らないですよ」と優しく教えてくれた。私は二重線で訂正をし、ハンコを押した。後でたまのぶと「ハンコを持ってきておいて良かったね」と笑った。


区役所の人に「よくそんな事よく分かりますね?」と聞いたら、ニコッと笑って「スカイツリーにする人、まぁまぁいますからね」と答えてくれた。私はその「ニコッ」が嬉しかった。ああ、この人は、少しだけかもしれないけれど、忙しい事務の合間に私たちの結婚を喜んでくれているんだ、と思って嬉しかった。


こうして私たちの婚姻届は受理された。


その場でfacebookに結婚した事を投稿しようと話し、区役所のイスに座って写真を撮った。何枚も撮ったのだけど、たまのぶが少し恥ずかしがって、沢山撮った中の1枚だけ笑っているように見える写真を選び「急ですが結婚しました」という感じの文面で投稿した。すぐに沢山のイイねや驚きのコメントがつきだし、通知がしばらく鳴り止まなくなった。

私たちは、それを見ながら区役所のイスでしばらくダラダラ過ごした。とても幸せな時間だった。

最終的にいいねは444。コメントは193件ついた。



今にして思えば、この時が私とたまのぶの幸せのピークだったのかもしれない。


私たちは、この1週間後、北海道に新婚旅行に出かける。それは、つきあい始める前からの約束だった。

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