貧乏こそ神 我が母まいくばあの話(第42回)

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二~三時間はじゅうぶんに経過した頃でしょうか。それは神仏のお導きか、たしかに川のちょうど真ん中あたりに小ぶりの岩がある。祠こそなけれどなんだか神々しい雰囲気の岩であります。見ればなんと穴あきの石がいくつもお供えしてある。
うわさどおりの耳島様がそこに鎮座しておられたのです。

(前回ここまで)


(今回ここから)

三人は歓喜勇躍。
「着いた着いた、これじゃこれじゃ!ここじゃったー!ここなのじゃー!」ひとしきり山中深く歓声がとどろいたのち、本日のメインイベント。件の小石を父がふところから取り出し、その岩に供えて一同一心にお祈りをしたのであります。祝詞を唱えるわけでなく、ただ頭を垂れて息子の耳の治癒を祈ったのです。その帰りの足取りの軽さは言うまでもありません。

さて、数日経っても僕の耳は相も変わらずのままでしたが、ちょうど頃合い良く新宮へ行く用事ができたのです。たぶん祖父母の店の煙草の仕入れか酒商組合への用事だったと。田舎からすれば新宮は都会。そこには評判の耳医者がいる。この機会に行ってくるかということで僕は学校を休んで、いつものおなじみ三人組で出かけたしだい。
M耳鼻科と看板があるその病院。これまで村の診療所しか行ったことのない僕はその「耳鼻科」なるものに興味やら恐れやら「いったい何をされるのだろう?」と不安で小さくなっておりました。さらに恐れを倍加させたのが耳鼻科独特の臭いというか、村の診療所とはちがった薬剤のにおい。
こりゃ、なんかへんなことをされそうだという不安が押し寄せてきましたが、それに浸る暇もなく診察室へ通され、否応なくその独特の、診療所とは異なる歯医者のような形状のイスに座らされた。
頭に円盤状の丸い鏡を付けた医師が僕の左耳を覗き込んで言いました。
「看護婦さーん、◯と◯」(治療用具の名前でしょう)
何をされたかといえば左耳を上にしてそこに液体を流し込む。少しして左耳を下にしてアルミ製の皿にその液体を出す。これを二~三回繰り返したでしょうか。
耳に液体が大量に流し込まれるさまをイメージしてくださいませんか。ほーら、気持ち悪いでしょ。そんな感じを数回も・・・

するとドロッとしたものが出る出る出る出る・・・

医師曰く、「これはネ」
僕たち三人は固唾を飲んで次の言葉を待ったのであります。
「これは」
・・・・・・
「耳くそが固まったんやネ」
・・・・・・
「もうだいじょうぶや」
・・・・・・
「おかあさん、これからはまめに耳掃除してあげて下さいネ」
・・・・・・                                       
なんじゃい!原因は耳くそかよ!それが詰って圧迫感のようなものを感じていたのかい!しっかりしてくれよ母ちゃん!というわけでこの一件落着と相成ったのでありますが、
しかしあとあとふり返りますれば、耳島さまにお参りして数日後に、ついでに病院へ行ける用事ができたということは紛うことなきお導き、霊験があったのだ!と思い至ったしだいなのです。
昔は民間療法とか、さらには自然崇拝というものがたいへん尊重されました。それらは人間の力の及ぶべきもない不思議な力を持ち、実際の生活に根付いていたのです。我々が今でも神仏を頼るという心の奥底には、ご先祖から受け継いだ「祈りのDNA」のようなものが根強く残っているのだと思います。

今では生い茂っている川を遡ってのお礼参りも叶いませぬが、この遠くの地から頭を垂れてお礼を申し上げたい。
「おかげさまで耳はすっかりよくなりました。その節はありがとうございました」

これにてトンザ三人組の「騒動シリーズ」一件落着でございます。
メンバーの一員であった父はすでに鬼籍に入り、向う岸から「おい、あんまりわしのこと情けなく書かんといてくれや」と地団太を踏んでいるかもしれません。
まいくばあの実の父母、そして養父母はさらにその前に亡くなっておりますが、孫が昔の物語を掘り起し、耕し、著していることを笑って許してくれるでしょう。

とてもいい時代でありました。


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前沢 しんじ

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