母の思い、僕の気持ち ~ウカーれ!! 母と僕の合格祈願
僕は先日の大学入試センター試験の国語で玉砕し、2次試験で奇跡の1200人抜きを果たすべく勉学にいそしむ高三生。
「ただいま」
ある晩帰ると、母がカールをつまみに缶ビールを飲んでいた。
「あんたのためにウカール買ってきたんやけど、おいしそうやから我慢できず食べてしまったわ」
おかえりのかわりに陽気な言葉が返ってくる。
「それウカールじゃないし」
10%増量、とかいてあるカールの袋には全く合格祈願の様相はない。
「ん? カールとウカールは同じじゃないの?」
カール=ウカール だと思っていたらしい。
「ウカールは絵馬とか書いてあるし」
「そうなん? だから安かったんかぁ・・・。大丈夫! カールはみんなウカールやし 。半分あげる」
勝手な解釈をして、特売で買ってきたのだろうカールの袋を差し出した。
「半分も残ってないやん」
「三分の一かな!?」
母はポンポンと手をたたき、手を合わせながら言った。
「うかりますように」
「そんな、息子に渡す前に我慢できなくて食べてしまったカールにごりやくないやろ」
と、僕はあきれながらも、だいぶ軽くなった袋を受け取った。
母は、太るから、と、寝る前に度々飲んでいたビールを数年前にやめた。
それでも、何か面白くないことがあったときか? ストレスがたまっているときか? たまにお菓子をつまみながら、ビール缶をあける。
今日のビールは僕のせい? 僕の受験に不安があって、それがストレスになってビール缶に手をのばしたのだろうか? そうなら、カールを食べたことぐらい目をつぶってあげなきゃいけない。
ずっとそこだけを目指してきた志望校のセンター試験の結果はかんばしくなかった。
母は、
「1つおとしたら」
と言った。
中学から高校になり、親との会話が減った。話しかけられるのが煩わしく思うこともあり、自分の部屋で過ごす時間が長くなった。日ごろちゃんと話してないから、大事な時に、自分の気持ちをうまく伝えるすべがわからない。怒るだろうか、反対されるだろうか・・・
僕は視線を落したまま、エアコンの音にさえかき消されそうな声で言った。
「そこ目指して勉強してきたから・・・受けたい」
無謀も思える僕の言葉に、母はしばらく黙っていたが、僕の目をまっすぐ見て、静かに言った。
「なら、そうすれば。まあ、ダメだったらもう1年頑張ればいいし」
ぼくが落ちたら、母のビールを飲む回数は増えるのだろうか? いや、予備校生を抱え、節約のためたまのビールも我慢するだろう。
あのカール、やっぱりウカールやったわ。と笑って言えるよう頑張ろう。
部屋に持ち込んだカールをつまみながら、僕は赤本の表紙を開いた。
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