マクドナルドで役立たずだった僕が、仏像彫刻家として生きて行くまでの話

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どんくさい僕のアルバイト生活




「オイ! この店はどないなっとんねんー!」


店内に響き渡る声で、客の男は怒鳴り散らした。


「ビッグマックに肉が入ってへんやんけー!」

「え!?  す、すみません!」


レジカウンターで先輩が平謝りしている。


やってもうた!

そのビッグマックを作ったのは僕だ!


高校一年生の僕は、

初めてのアルバイト先のマクドナルドで大失態をおかした。

ビッグマックに肉を入れ忘れたのだ。

よりによって、ボリュームが売りのビッグマックに……。


「ヤスモトー! お前こっち来い!」

「ひ〜! すんませんでしたー!」


僕は昔からどんくさかった。

今に始まったことじゃない。



水泳を始めたときだってそうだ。

4つ年上の姉はいつも優等生で、水泳部でも名を残すほどだった。

そんな輝かしい人物の弟として、中学一年生の僕は皆から注目された。


「おー! あのヤスモトの弟か! 待っていたぞ!」


と顧問の先生は歓迎し、


「キャー! ヤスモト先輩の弟ね!」


と3年生の先輩にはもてはやされた。


入部初日、熱烈に歓迎された僕は、強制的にタイムを計ることになった。

皆が期待している。

まだよく知らない同級生たちも僕に注目した。

「え? あの人すごい人なの?」って。


や、やめてくれ。


しかし、

僕の声は届かないまま

顧問の先生が僕をスタートラインに立たせた。


「よ~いっ!」


……結果は悲惨なものだった。

「潮が引くように」とは

こういうことかと思うほど、周りは僕に関心を持たなくなった。


それでも僕は、一応水泳を続けた。

もちろん、大会にも出た。

地区大会で優勝した僕らは、

奈良県の大会に出場することになったのだ。


そこで僕は、伝説を残すことになる。


100メートル、平泳ぎ。

スタートラインに8人の選手が並ぶ。


その中に僕がいた。

顧問の先生が睨みをきかせてこちらを見ている。

僕の心臓は飛び出そうなほどバクバクと動いていた。


「よーい!」


審判が手を挙げる。


いい結果を出さなければ。

名誉挽回しなければ。


行くぞ!


僕は勢いよくスタートを切った。


うおおおおおおーーーー!

よし!

いいぞ!

快調だ!

今まで感じたことのない爽快感!


あれ!?

ライバルたちの気配を感じない。

すげー! もしかして、僕、ぶっちぎり!?

いいぞ!

これで、今までの失態を帳消しにしてやる!

僕をバカにしてきた奴ら、ザマアミロ!

わははははーーーー!


僕は勢いに任せ、50メートルの壁に両手でタッチした。

そして、華麗にターン!


そのときだ。


スパーーン!!!


誰かに頭をどつかれた。


「気づけやーー!」


鬼の形相をした審判だった。


どうやら僕はフライングをし、それに気づかず50メートルも泳いでいたらしい。


ああ……。

僕は……、僕はなんて、どんくさいんだ。


水泳部でも、アルバイト先でも役立たずな僕。

結局、マクドナルドでのアルバイトは半年で辞めた。

その半年間で一人前にできるようになった仕事といえば、ゴミ捨てくらいだ。

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