『イラスト奮闘録。イラストレーターになりたい、と走り続けた日々の物語』第19章「活動再開。イラストエッセイ本を作る」

前話: 『イラスト奮闘録。イラストレーターになりたい、と走り続けた日々の物語』第18章「イラスト人生、上手くいかない時は」
次話: 『イラスト奮闘録。イラストレーターになりたい、と走り続けた日々の物語』第20章「本の出版とテレビ出演。きっと色々な形で、花は咲く」

その1「春・人生のリハビリ期」

2014年の春、8年間働いたアート施設での
副業を辞め、要介護度5だった父も病院に預けると、
生活のリズムが一変して、空き時間が増えました。

なので「新しい事を色々始めたい」と言う気持ちと共に、
再びイラストの営業活動に力を入れたり
コンテストなどにも応募し続けましたが、残念ながら
どれも全く効果がない状態でした。
また「介護ブログ」を基にした作品も、各出版社に見て
頂きましたが、こちらも全く手ごたえがありませんでした。
「やはり占いを鵜呑みにしてはいけないかも」と、
痛感する日々でした。

収入は先細り、不安も多々ある日々でしたが、
それでも副業を辞めて良かったと思える事も
ありました。それは父の病院に、毎日通えたからです。
この頃の父は、もう自力で動く事すら不可能に
なっていました。言葉もほとんど発せず、目も見えず、
ただ病院のベッドの上に横たわっているだけの状態です。
それでも耳は聞こえるし、頭もちゃんと冴えているので、
お見舞いに行っては家の近況や世間の情勢など、
面白い話を色々聞かせて慰めていました。

そしてそれは、春の陽だまりの様に
心穏やかな日々でした。本当に凪のように静かな、
そして限りある貴重な日々でした。


その2「夏・介護日記をブラッシュアップする」

春先に各所に持ちこみ営業をした、介護系の作品でしたが
見事に仕事に繋がらず玉砕し続けました。
なのでその後は、一旦営業を辞めて作品を
ブラッシュアップする事にしました。
元々ブログに綴っていた介護の記録は、忙しい時期に
「忘れないように」と、メモ書き程度に簡単に
まとめていた程度のモノだったので、文体も内容も
バラバラでしたし、絵も拙い状態で詳細に欠けていたので
一度全部をきちんと整えて、作り直してみました。

こうやってリニューアルした全62編(当時)は、
きちんと仕上がった時点で満足してしまい、
その後は営業に出ず、そのままブログ上での公開に
留まっていました。ところがそのブログを、のちに
一緒に本を共に作る事になる編集者さんが
見つけてくれる事になります。


その3「秋・再びイラストマップを描く」

連日父がいる病院に通う内に、ふと
「この道を通るのは、きっと病院に来ている
今しかないだろうな」と思い付きました。
そして急に「折角だから、久しぶりにイラストマップを
描いてみようかな」と言う気持ちが湧きました。

この作業の真意は、単調な病院通いを
飽きずに続ける為にも役に立つし、出来上がった
作品は「来年のふたり展の時にも飾って活用できる」
と思ったからです。
実に4年半ぶりぐらいに、封印を解いて描くマップでした。

そうこうする内に、新たなお仕事の依頼や、
展示会のお誘いなども少しずつ入ってきました。
それらは以前からお付き合いのある編集者さんや、
友人が紹介してくれた企業の方など、今での
人脈から来る依頼でした。
再びお仕事を頂けて、活動を続けられるありがたみを
しみじみと実感した日々でした。


その4「冬・ブログの書籍化と、怒涛の編集作業」

あれは2014年12月25日のクリスマスの日。
サンタならぬ、初対面の編集者Fさんから届いたのは
一通のメールでした。そこには
「介護ブログを書籍化しませんか?」と書かれていました。

春先に、数十社に企画を持ち込んだこの介護作品。
しかしどこからも全く相手にされなかった、あのブログ。
その後ブラッシュアップはしたけれど、ずっと寝かせた
ままでした。あれが…あれがついに、日の目を見る!?
数々の営業の末、書籍化がどんなに難しいものかが
身に染みてわかっていたので、この申し出は非常に
ありがたい反面「えっ、いいの!?」と、半ば疑っても
いました。まさに捨てる神あれば、拾う神ありです。

かくして、空けて2015年1月半ば。
無事に出版社内での稟議が通り、発売予定日も
4月半ばに決まったとの連絡を受けました。

しかし喜ぶのはまだまだ早かったのです。
なぜならその時点で、既に入稿まで2か月程しか
時間がなかったからです。まず担当さんと
「どのような形式の本にするか、サイズは?枚数は?」
と、そういうレベルからの打ち合わせが行われました。
しかしなかなか双方のイメージが一致せず、話し合いは
繰り返されました。果たして…間に合うのか?

しかも担当のFさんは、漫画形式のコミックエッセイは
何度も手掛けていても、「文章とイラスト」と言う形式の
イラストエッセイを本にするのは、初めてでした。
加えて私にとっても、本の制作は初めての経験です。

Fさんは「全64話分を、全てマンガに描き直すのは
どうでしょう」と提案し、それに対して私が
「漫画を描いたことがない私が、2か月弱で64話分を
描くのは無理ですよ」と言う様な交渉を、根気強く進めて
お互いの理解を測り続けました。
時には歩み寄る事に限界を感じる事もありましたが
しかし「いやいや、この作品を他に持ち込んでも、
企画は通らなかったじゃないか。ここで頑張るしかない」
と思い直し、粘り強く交渉を続けました。

その甲斐あってか、ようやく「こういう感じの構成で、
絵のサイズはこうで、描いていきましょう」と、具体的な
道が見えてきたのが、3月に入ってからでした。
当初の入稿締め切り予定日まで、あと20日です。
そして告知された本の発売予定日までは、
実に1か月半しか、時間は残されていませんでした。
それはこの先、非常に大変な作業を予感させました。

何を焦る事がある、そもそも作品の大元は
既にブログ上で完成しているのだから、それを
そのまま「本」と言う形にはめ込めばいいじゃないか…
と、思われそうですが、これがそう単純な事では
ありませんでした。

まず本のサイズを決め、それに合わせて
文章の文字数や、イラストのサイズを決めます。
しかしなかなかキリが良いように文字が収まらないので
加筆修正を余儀なくされました。特にイラストに関しては
元々の原画が、紙の縦横や大きさがバラバラだったのです。
(本になる事を想定して描いていなかったため
サイズを統一していなかったのです)

これも単純に「拡大縮小すれば済む話じゃないか」と
思われそうですが、絵は拡大すると線が汚くなるので
拡大はご法度です。かといって部分的に縮小しても、
今度は線の太さにばらつきが生じて、見にくくなって
しまいます。なのでおよそ200枚近くあった
イラストの約半分を、自主的に描き直しました。
更に単行本用に新たなカラー原稿も書き足すと、
限られた時間内での作業は、本当にギリギリになりました。

こうなるともう「自分の本を作れる!」と言う喜びよりも、
「間に合わないかもしれない!」と言う、焦りの方が
強くなります。
最後は睡眠時間もあまり取れず、両目が疲労のために
ものもらいになったり、ストレスから若干体調を崩したりも
しましたが、それでも「死んでも倒れている時間はない!」
と奮い立ちます。
なぜなら少しでも妥協した作品が世に出たら、
私の名前を冠した物が、中途半端な状態でずっと
出回る事になってしまう。それだけは絶対に避けたい
との想いで、必死でした。

しかし今思うと、私以上に担当・Fさんの方が
不慣れな私を誘導しつつ、作業を間に合わせなければ
ならない状態で、大変だったろうなと思います。
お互い最後は「一体いつ寝ているのだろう?
しばらく徹夜では?」と言う苛酷な状態でした。

ずっと机に座りっぱなしで、お尻が痛くなったりしながらも
とうとう晴れてめでたく本が作られて、出版の運びとなりました。
余談ですが、後日恐る恐るFさんに「もしあの時
原稿が間に合わなかったら、どうしたんですか?
発売延期でしたか?」と問うと「発売日はずらせないので、
ページ数を少なくして、出版したと思います」と、言う
恐ろしい返事が返ってきました。

後日、同じように本を作った事がある友人たちに、
この事を話すと「こんなタイトなスケジュールは、
普通ありえないよ」と口々に言われました。
本当に今でも「約1か月で1冊の本を作ったに等しい。
よく間に合ったな」と思うのですが、自分の名前が出て、
後世にまで残るかもしれないと言う影響力の大きな
仕事だったので「下手な物は出せない。死ぬ気で頑張るしかない」
と言う、気迫が自分を支えていた様に思います。

それにしても、それ以前の数年が鳴かず飛ばずで
時間に余裕があっただけに、もっとうまく忙しさが
分散してくれたらよかったのに…と、思います。
でも得てして、前にも書きましたが不思議な事に
イラストのお仕事は忙しさに波があり、いつも一気集中して
忙しさがやって来ます。
元々モチベーションを上げる事がなにより
大事な職業だけに、気力がある内に
一気に書き上げた方が良いのかな…という気が
しなくもないのですが。

でも必死に頑張った事の成果は、きちんとした形になって
返ってきました。


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