朝の新聞配達とトラック運転手で、睡眠時間3時間だったボクが会社を作るまでの話

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ボクは、薄汚れて今にも崩れ落ちそうな団地の踊り場にいた。


階段から転げ落ち、大の字に倒れて階段を背もたれにしながら夜空を見上げていた。

借金を返すため、トラック運転手の残業手当だけでは足りず、朝の新聞配達を始めたのだ。



朝刊とはいっても、新聞販売所での作業は夜中の3時から始まる。戦争のように競い合って、チラシを新聞に折り込み、自転車やバイクの前と後ろに山積みにして担当エリアに配る。


ボクのような新人は地域を覚えるのが大変だから、地図を見なくてもすむ「エレベーターの無い団地」がまわってくる。

役所の規則で「4階まではビルにエレベーターをつけなくて良い」らしく、古い団地はほとんど このタイプだ。

しかも4階まで上がると、上では隣とつながっていないので再び1階に降りて階を登る、の繰り返し。


「まったく、なんて頭の悪い、なんて配達する人間に配慮のない作りなんだ」



 



この日は夏場だったので、夜中でも汗がふきだす暑さだった。



団地の階段は暗く、特に新聞をこじ入れる各家の扉は暗黒の入り口のように光が無かった。

この暗がりにゴキブリがひそんでいることも多く、不用意に扉に近づくと羽を広げたゴキブリ野郎の襲撃に遭うので注意が必要である。


とは言っても、時間との勝負なので、この日も急いで4階の扉に新聞を差し込もうとした。瞬間ーー



ぶ~ん、と羽音を立てて大きな大きなゴキブリが顔に向かって飛んできた。驚いて後ずさり。しかし後ろに床は無くーー



体をひねりながら階段の上に落ち、バウンドしながら踊り場まで落ちた。途中でゴキブリは「ジジッ」と鳴いたので、正体はセミであることがわかった。しこたま体を打ちつけ、痛みはあったが骨にダメージはなさそうだと感じた。やれやれ。まだ新聞配りは続けられそうだ。



 



見上げると、満天の星空だった。



映画やテレビドラマに出てくる、とってつけたようなキレイな星空だったので思わず笑ってしまう。大きな星が輝いてなんだか本当に神様が見ているような気になった。




いい機会だから尋ねてみたい。なんでボクは今、こんな所にいるんだろうか。人が寝ている時、どうして新聞配達しなきゃならないんだろう?


「神様、ボクにもきっと生きている役割がありますよね?」


もちろん答えなどなかったが、痛みの中に美しく輝くたくさんの星がきらめいていて。手を伸ばせば届きそうな、でも果てしなく遠い希望・・そうか。


その時、なぜだか。そこにボクは、大きな宇宙の意思を感じた。どうせ信じた道なら、苦しくてもその道を行け。


「まだ道はつづいている」と・・





ボクは音楽での成功を夢見ていた。



バンドを組んで、スーパースターになろうとしていた。


それはきっと、子供時代に付けられたレッテルに対する反抗だ。「落ちこぼれ」「あんたなんかに何もできやしない」すりこみと暗示は強力で、ボクは周りの大人たちの思い通りのクズ人生を歩もうとしていた。


しかし自我に目覚めた時をハッキリと覚えている。


中学校の英語の時間に「ジーニアス」という単語に出会った。文章の中か、辞書の名前だったかもしれない。


とにかく「ジーニアス」天才ーー その言葉は強烈にボクの心を惹きつけた。




 



「あんたなんか、私の子じゃない!」


母親の言葉が痛かった。


「あんたなんか、私の子じゃない。私は小さい時から成績優秀だった。学年では常にトップ。いい学校に行って、いい職業に就いたわ。お父さんだって、大きな船の機関長よ。うちの家系はみんなそうなの! 学者、医者、大学教授。親戚のひーちゃんや、じゅんこちゃんを見なさい。また学年トップになったって言うじゃないの! あんたみたいな低能はうちの家系にはいません。なんの間違いなんだか・・ 優秀になれとは言ってない。せめて普通になって!!」


その言葉は深く深く、こどもだったボクの心に刻み込まれた。だから小学校の卒業文集にボクは小ちゃく


「ふつうの人間」


って書いた。せめて ふつう、と呼ばれたかった。おじいちゃん、おばあちゃんと暮らしていた頃は平和だった。田舎だったからか、成績も5段階評価のオール4ぐらいだった。


でも、おふくろと暮らすようになってからはテストで80点でも怒られた。自信を失くし、どんどん落ちて。こぼれていった。





そのボクが「ジーニアス」という言葉に出会った時の衝撃は本当に大きかった。



「いつか、きっと。ジーニアスという名前をつけたグループを作ろう。何の名前かはわからないけど、ジーニアスという誇りを持った名前で素晴らしいことを成し遂げるんだ!!」



その思いだけを支えに生きてきた。


周りに反発して、うちの家系や親戚が誰もやらないバンドマンとしての成功を目指した。一時期、成功しかけた。でも転落し、借金しまくって今、ここにいる。この汚い団地の階段に横たわり、夜空の星をながめている。



ここは地獄のような気もするけど、世の中にはもっと悲惨な人も、国もある。上には上があるように、ころげ落ちようとすればまだまだ下に行けるのだろう。


ボクにあるのは、あの星のようにきらめく、そして遠い、希望だけだ。





 



夜中の2時半に起き出して新聞配達。



それが終われば近くに停めてあるトラックに乗り込み運転手の仕事だ。


残業して帰ってきてクタクタの体を横たえるとまたすぐに新聞配達。


永遠に続くメビウスの輪。そこまで働いても、給料のほとんどはサラ金の返済に吸い上げられる。漫画でやってた多重債務者だ。そのうち悪徳業者に保険金でもかけられ突き落とされるのだろうか・・・




転機が訪れたのは、そんな絶望一歩手前のある日のこと。



うちの奥さんがサラ金の「T 富士」に支払いに行くと自動支払機に「ストップ!」の文字が。

「あなたは支払えません。過払い金の可能性があります。下記へお問い合わせください」


問い合わせてみると、100万円以上残っていた借入金は返済の必要なし。


それどころか、過払い金が200万円以上あるらしい。とりあえず一時払いで30万円ほどが戻ってきた。

「残りのお金は当社弁護士管理のもと、公的に・・」ウンヌン。


T 富士はこの時期、破産手続きを行っていた。


グレーゾーンの法外な利息について、消費者側に立った判決が次々に出され、サラ金各社はどんどん窮地に追い込まれていた。


このT 富士の一件でうちの奥さんは知識を得た。うちの借金は過払い金で、これ以上返済の必要はないんじゃないのか?




 



「弁護士に相談しようよ」



と言われてもボクは、


「いや、借りたものは最後までちゃんと返さないと・・ グレーゾーンだろうが、契約した時にサインした責任がある」


と、どこまでもお人好しだった。

それでも説得されて、渋々弁護士事務所を訪れたボクは腰が抜けるほど驚いた。


「これらはすべて過払いです。もう支払う必要は無いどころか。おそらく何百万、ヘタすると何千万という単位でお金が戻ってくるかもしれません」


開いた口がふさがらない間抜けな顔をさらしたボクは、そのまま弁護士に一任すると、その日から借金は無くなった。


さらに2ヶ月もしないうちに、ン百万円というお金が過払い金として戻ってくることがわかった。




 



ボクの音楽仲間はもっと早い時期に自己破産した者が多かった。



借金生活が苦しくて返済を続けられず、司法が消費者側の味方になる前に力尽きた。


ボクは新聞配達とトラック運転手のダブルワークでなんとか支払いを続けていたので、大きなボーナスを受け取れたようだ。


「ここまで戻ってくる人は少ないですよ」と、弁護士も驚いていたくらいだから。




 



ところが世の中というものはそう甘くない。



多額の戻り金、とは言っても弁護士がそこから自分の取り分をゴッソリ持っていったし、多くのサラ金は、うまい言い逃れで過払い金の減額を要求してきた。「うちは、これだけしか払えません。倒産寸前なので」というような理由だったが、今ではまたTVコマーシャルをバンバン流していたりする。。


さらにボクは多方面に迷惑をかけてもいたので、その人たちへの弁済などをすると、結局手元に残ったのは200万円ほどだった。



それでも今までは給料、アルバイト料のほとんどを返済に回していたので、借金が0になり。

さらに貯金が200万円できた。これを天国と言わずして何と言う?


それからは貯金もみるみる増えていった。


借金に追われていた時には考えられもしなかった、未来について考えることも多くなった。

これから、どう生きるか? 




考えてみれば、だ。



ボクは常に自分の運命を誰かにゆだねてきた。

プロデューサー、ディレクター、音楽業界周辺の人々・・ いつか、誰かが迎えにきてくれると思っていた。


「お前は才能がある。ゆこう、スターの道へ」


今考えると、なんてアホで乙女チックな考えだ。


王子様を待つ、シンデレラじゃないか!


そして20数年、待ち人来らず・・ 気がつけば、こんな地獄の住人になっていた。

宝くじが当たったらマンションを買おう、という人と同じぐらい現実味の無いふざけた空想に賭けた人生だったのかもしれない。






アーティストには、スポンサーがつかない限り浮かび上がれない。


運がどうの、才能がどうの、と業界人は言うが大嘘だと知っている。


ババ抜きのカードのようにボクたちは切られてスポンサーの前にズラリと並べられる。

さあ、お好きなカードをどうぞ。






スポンサーは顎をなでながら、どれどれとたくさんあるカードの1枚を選ぶ。



たいていの場合は、若くてルックスのいい女が選ばれる。


次に若い男。音楽を聴くのはその後なので、男で、さらに年齢がいった者にチャンスとやらがめぐってくることはない。


たまに気まぐれな大穴が訪れるが、それは順番待ちに疲れ、あきらめてニューヨークなんぞに逃避行した女性アーティストのもとへ届くビッグチャンスだ。



その他の者がスポットライトを浴びようと思うなら、自分のファンを何千人かに増やしてライブハウスもホールも満杯のソールドアウトにして、インディーズデビューで話題をかっさらうしかない。





「スポンサーがつかないなら、自分が金儲けしてスポンサーになるしかない」



ボクは、初めてまともな、現実的な戦略に行き着いた。



「起業しよう。ビジネスで成功して、自分の音楽に、自分でお金を出して世の中に出すんだ。自分の夢を、音楽を守れるのは自分しかいない!」


心の声だった。深い悲しみと悔しさ、絶望の中に見えるかすかな希望から絞り出した叫びだった。



 


それからのボクは・・・



貯まったお金を使ってはビジネスの実験を繰り返し、お金を失うという繰り返しだった。せどり、雑貨商、買取。さまざまなビジネスをかじってみるが、うまくいかない。


トラック運転手を続けながら、突破口を模索し副業に失敗してまた運転手で金を貯めるの繰り返し。アフィリエイトって、儲からないなぁ。難しい・・と頭をかきむしった。


嫌で嫌でしょうがない毎日の仕事からなかなか抜けることができなかった。



結局、知識もないままビジネスに乗り出すからうまくいかないのだと、わかるまで相当な時間がかかった。そして何人もの福沢諭吉とサヨナラした。



知識を得るため、本を読んだ。ビジネスのうまくいってそうな人に会い、話を聞いた。その中で浮かび上がってきたのは・・・


もはや日本だけで考えていても、レッド・オーシャンの過当競争の中で利益の薄いビジネスで傷つくだけだ、という結論。


これからは、日本だけで考えず世界を巻き込んだビジネスーー 貿易がいいらしい、という情報。


しかしそうは言っても誰がボクに貿易を教えてくれるんだろう?




 



いろいろ調べているうちに、貿易。


それを詳しく教えてくれるビジネス・スクールに出会った。


これだ! と思って飛びつこうとした。


ところが。入学金に50万円もかかる。そんなに払ったら事業資金がほとんど残らないじゃないか!





一度はあきらめた。


でも、気になる。


夜中、目が覚めて考える。


考えて、考えて、どうしても学びたいと考えて、50万円を払い、そのビジネス・スクールに入学した。





 



もう後がない。



年齢的にも、これ以上年をとってからでは挽回できないかも知れない。

金銭的にも、何度も貯金したお金を食い尽くしていては勝負できない。これに賭けよう。


この判断が吉と出た。


死に物狂いで世界中の商材を探し、2つの海外製品の輸入総代理を獲得し、起業すると、トラック運転手の仕事を辞めることができた。


また、高額な入学金を払って学びに来る仲間たちと最高の友人になった。


頭も良く、センスも良く、性格も良い生涯の尊敬できるビジネス仲間と出会った。


そして、背中を追いかける先輩や先生ができた。



彼らには何度も、いろいろな形で助けられた。



精神面でも、ビジネス・ノウハウでも、金銭面でも。



結果的に、ボクは払った入学金の何十倍ものお金を、このスクールを通じて得たことになる。


すべては案ずるより産むがやすし。これだ、と思ったら行動するのが運を好転させる方法なんじゃないだろうか? たとえ今がどんな状況でも、絶望の淵にいて、もうすぐ断崖絶壁から落ちそうでも。。



あきらめて手を離さなければ、意外なところから運が開けたりするものだ。絶体絶命の裏側に、大きなチャンスが張り付いていたりするーー


もうだめだ、あきらめようかな。と思った時「いや、もう一度だけやってみよう」と思い直すと、絶望の向こうからーー フッと心の声が聞こえることがある。



「大丈夫、まだ道はつづいている」


と。





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Ikematsu 【kaz】Yoichi

株式会社 ジーニアス インターナショナル という貿易会社をやっています。 会社経営とバンドマンの二足のわらじ。ロックンロール社長です^^どちらも手を抜かず、音楽とビジネスの融合を目指しています☆

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