犬に咬まれた妻の笑顔

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※野良犬が隣の鶏小屋に入り込み悪戯をする。そのために、飼い主が罠をかける。その罠に野良犬がかかる。妻は真夜中に助けにいく。自分の手をかませて安心させて罠を外してやるのである。

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 夕方から降り出した雪が、久しぶりに薄らと積もっていた、しかも真冬の夜明け方のことである。

「今の犬の鳴き方は普通ではない」と言うなり「ちょっと、行って見てくる」と一言、二言残すなり寝床から抜け出していった。私はこんな時間にと思いながら、眠気に勝てずそのまま寝込んでしまった。

 というのは、私の家の寝室が、隣の鶏舎になっていた。風向きによっては悪臭が、家に中にいても感じ取れていた。文句を言いたいが私の方が鶏舎を建てた後に建てたことで文句はいえなかった。

 鶏舎の買い主がいなくなると、野良犬や近くの山から獲物を狙ってやってくる。買い主は戸締まりをしているが、場所が広いためにあちこちに隙間があり、鶏が狙われていた。買い主は困り果て、捕獲のために毒入りの饅頭や生け捕り出来るように罠をかけていた。

 犬の好きの妻が、野良犬の異変に気づいたらしく、真夜中に聞きつけて起き出して行ったのである。私を何度も揺すり起こしたと思うが、晩酌して眠った起きる物でないのをしっていた妻は、諦めて自分一人で出向いて行ったのだ。

 私は話は聞いたことがあるが、罠にかかった犬を外してやるには、自分の腕を犬に噛ませて、野良犬を安心させて罠を外さなければ、犬は敵対して噛みついてきて外させないらしいと。きっと妻のことだから、無我夢中で自分の痛みなど考えずに、自分の生身を野良犬に噛ませて、はずしてやったのだろう。

 私が妻が鶏舎から戻ってきて目が覚めた。見ると妻の腕に血の滲んだタオルが巻かれままなっていた。「犬も悪いけど、非道いことをするもんだねえ。早く気がついたら助かったけどねえ」と一言いいながら笑顔を見せてくれた。神々しい笑顔を見て眠気が吹っ飛んだ。夜の明けるのを待って病院へ駆け込んだ。

五針縫ったが、一言を愚痴は聞かれなかった。


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古岡 孝信

昭和17年生まれ、74歳。元高校教諭。 筆歴・新日本文学賞「夏の家」全労連文学賞「消える山」新風舎文学賞小説部門最優秀賞「離婚式」全国農業新聞刊「花迎え」鳥影社刊「夏の家」「オープン・スクール」 三作とも全国図書館推薦「夏の家」「オープン・スクール」の二作品全国点字図書発刊など

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古岡 孝信

昭和17年生まれ、74歳。元高校教諭。 筆歴・新日本文学賞「夏の家」全労連文学賞「消える山」新風舎文学賞小説部門最優秀賞「離婚式」全国農業新聞刊「花迎え」鳥影社刊「夏の家」「オープン・スクール」 三作とも全国図書館推薦「夏の家」「オープン・スクール」の二作品全国点字図書発刊など

古岡 孝信

昭和17年生まれ、74歳。元高校教諭。 筆歴・新日本文学賞「夏の家」全労連文学賞「消える山」新風舎文学賞小説部門最優秀賞「離婚式」全国農業新聞刊「花迎え」鳥影社刊「夏の家」「オープン・スクール」 三作とも全国図書館推薦「夏の家」「オープン・スクール」の二作品全国点字図書発刊など

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