価値観や意見の合わない人

色々な会社を渡り歩いて来たが、どこにでもとても変わった人はいるものだ。

人の心にズケズケ入ってくる人。自己開示がとても苦手な人、すぐに勘違いをして怒り出す人。人付き合いは皆それぞれ個性があるから難しい。裏を返せば、そう単純ではないからこそ、楽しいとも言える。


瀬戸は人付き合いに少々自信を持っていた。世渡り上手、どこにでも変わった人がいるようにどこにでもうまく人と付き合える人もいるものだ。まさに瀬戸がその才能を持ち合わせていた。瀬戸は新たな会社を前に次の会社にはどんな面白い人がいるのだろうと考えていた。


瀬戸は入社するとすぐに持ち前の明るさでいろんな人と打ち解けた。多少気難しい人もいたが、扱いを知っている瀬戸にとっては他の人と付き合うのとなんら変わりはなかった。瀬戸は得意げに皆との会話を楽しんでいた。


それは年齢や役職に捉われることなく、誰とも分け隔てなく、だ。ゲームを楽しむかのように瀬戸は人の好みを見つけていった。瀬戸にとっては人の心を開くツボを攻略することが楽しみなのである。


ただ、どういうわけか一人だけ相性の合わない人がいた。瀬戸が今までに出会ったことのないタイプの人種で、彼は自分のやり方でないと全く満足できないタイプの人であった。そして、彼は人そのものが嫌いで、一人でいるのが好きなのだという。とはいえ、数名には彼は心を開いているのだそう。


瀬戸がどんなに手を尽くしても相手に気に入られる様子は微塵もなく、煙たそうな顔をされてしまう。どうあがいても攻略できそうにない相手であった。それに、接すれば接するだけ、ますます嫌われているような気もしていた。


攻略できる自信は全く持てなかったが、瀬戸には今まで上手く渡り歩いて来たプライドがある。今回もきっと自分になら攻略できるはずだと意気込んでいた。


どう攻略してやろうか楽しみだ。

これほどの強者を前に瀬戸は意気揚々としていた。



瀬戸は毎日策を練り、粘り強く関係構築に励み続けていた。相手の関心を引き出すだけではなく、相手の思う通りにぴったりとキャラクターを合わせることもかかさなかった。瀬戸は彼の分身であるかのように行動や考えを真似することもあった。自分の思い通りにやりたい彼のことを尊重することで、心を開いてもらおうと尽くしていたのだ。


来る日も来る日も努力を重ね続けていたが、あまり効果のないように思えた。

いつもはどんな相手も攻略出来ている瀬戸だが、今回ばかりは手こずり、楽しかったはずの攻略にも少し腹立たしさを覚えていた。悔しさがこみ上げ、一時は諦めようとしたが、瀬戸のプライドが攻略することをやめさせてはくれなかった。


その後も瀬戸はものすごく努力をして相手に合わせようとした。だが、ついに瀬戸に限界がきてしまった。余計なことに気を使い過ぎて、ストレスではち切れんばかりの状態になってしまったのである。ここまで神経をすり減らした瀬戸は、思いつめるように考え事をし始めた。


私はこれまで多くの人とうまくやってきた。攻略できなかった人など、未だかつて誰一人もいない。なぜあの人だけ攻略することができないのだろうか?持てるテクニックを全て使って相手に尽くしてきたが、全く効果がない。どうしたものか。


そもそも、ここまでして相手を好きになる必要があるのだろうか。ここまでしても相手が心を開いてくれないのだから、相手に非があるのではないか。そうだ、そうに決まっている。


…いや、しかしあの人とうまくやれている人もいる。好きにならなくても良いと思うことは都合の良い言い訳に過ぎない。私は在ろう事か言い訳をして逃げ出そうとした。


相手に合わせられない自分に嫌気がさし、瀬戸は重い気持ちになった。


自分は冷たい人間なのかもしれない。

もっと他の人はいろんな人とうまく付き合えているに違いない。

瀬戸は激しい自己嫌悪に陥ってしまった。


瀬戸は持ち前の明るさで心を立て直し、再三にわたり努力をしてみたが、どんなに努力をしたところで相手との関係は変わらず、自分が疲れるだけだった。もう本当にどうしようもなかった。努力をしようにも上手くいかない。持てる策は出尽くし、やれることは全てやった。とうとう瀬戸の気力も体力も空っぽになってしまったのである。


これ以上手の施しようがないというところまできた時、瀬戸はついに心を決めた。




合わない人は合わない。


瀬戸は合わせることができない自分に嫌気を感じ、一度は自分を追い詰めたが、分かり合えない人種もいるのだと素直に認めた。認めてみると今度は驚くほど気分が爽やかになった。今まで上手く渡り歩いてきたというプライドがそのことを許してはくれないかと思っていた。しかし、なんてことはなかった。やれることは全て出し切ったという結果が自分を許してくれたのだ。


それからは無理に合わせようとせず、ほどほどの関係を保ち続けた。

それが最も良いやり方だったのである。



本物語で示した性格の持ち主に限らず、自分と性格や価値観が合わない人というのは残念ながら、一定数存在する。合わない人に合わせようとしても合わないだけだ。そういう人を前に無理して努力する必要はない。


合わせようと思えば、合わせることができるのかもしれないが、その分の精神的、肉体的負担は大きくなる。無理に合わせて自分を疲弊させてしまうくらいなら、思い切って合わせないということを選択してみることも手である。無理して合わせる必要は全くない。


そして悲しいことに相手はあなたが努力したところで気にも留めないことも多いのだ。



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