姉として妹の夢を叶えたかっただけなのに、給食のおばちゃんからローチョコレート職人へ昇華した妹の話<2章>
「私の強み?って、なに?」
新年を迎え、雪が解けるころに給食の会社を退職することを決めた妹。
休みを利用しながら私が教える色々なことに取り組み始めた。
最初の頃は「こんな細かいことも…やるの⁉」と驚いていた妹も、取り組んで2ヶ月経つ頃には教えられた細かい作業に慣れていった。(私が指導に入ると大抵の人は「こんなことまで考えたことなかった!」と驚き、相当な脳トレになるようです)
妹のいいところがあるとしたら良くも悪くも「疑わない」ということだろう。
自分で仕事をしていこう!と思わない限り、自分を客観的に見つめて取り組む作業なんて「学生の頃の就職活動」の時以来だという人も多い。もちろん、妹だってそうだった。
自分を見つめる作業とはいっても、学生時の就職活動とはまるで違う。
学生から社会人になる時の就職活動が「有資格や定型文のようなつまらない文章を履歴書に埋めていき、面接用に暗記してきたことを棒読みする活動」だとしたら、自分自身に就職するというのはまるで反対側から自分を見つける作業。
自分を平面に書き起こすのではなく、自分を360°から見える化する作業なので作業を進めていくうちにこんな疑問が生まれてくる。
「ねぇ、ねーちゃん。私の強み?って、なに?私にもあるの?」
自分を3Dにすると影も見えてくる
大人になって転職活動をしたことがある人ならわかるだろうが、履歴書は段々書きなれていき、学生当時の意気込みも夢も、文字に込めなくなるようになってくる。
自分の持っている資格や経験してきたことを惰性のように並べ「これくらいはできるので、とりあえずあなたの会社のお給料を下さい」というためのものが履歴書に綴られている。
自分の本当の価値、受ける会社の持つ社会的価値を考えながら求人票を見ている人はほとんどいなくなる。
求人票を持ってまず確かめるのは「給与」と「週休」。
光も影も生まれない平面の履歴書と、同じく光も影も生まれない平面の求人票。雇用される側も雇用する側も雇用契約を結んで初めてお互いの側面を見ることになるので幸運な人材マッチングは起こりにくい。
自分で仕事をし、自分の雇い主が自分になった場合、こういうことが起こらない代わりに、自分自身が「なりたい自分」とマッチングしていくことが必要になる。
過去・現在・未来の自分を3D化して、見える化していくことで少しずつ自分自身を融合していく。
こういった作業は「人生の〇十年分」と向き合うため、途中息切れしてしまう人も多い。
根気強く取り組んでいる人でも「私って、ほんとに誰かに喜んでもらえる人間なのか自信がなくなってきた…」と気持ちがめげてしまうことがある。
妹も例外ではなかった。
「私、何も能がない…高卒だし、そんな頭がいいってわけでもないし、ご飯作ってるだけの人だ…」
自分のことが立体的に見えてくると、光より先に「影」が見えてくる。
これは長く生きている中で、自他ともに「マイナスポイント」を見つける癖がついてしまっているからで、いたって普通の現象。
逆に言えば「私は大した人ではない」というところに自分を留めておく方が誰しもラクチンなのである。
正確には人生を危機にさらすような「影」というものは殆どないのだが、「大した自分ではない=影」として本来マイナス面ではないものまでマイナスに捉える癖があると言ったほうがいいかもしれない。
自分の頭の中の視点や価値観をひっくり返すためには最短でも3か月はかかる。これは今まで一緒にお仕事させて頂いた脳の専門家の人たちも同様のことを言っている。
自分を変える作業は「魔法」ではない。神様がしてくれる作業でもない。
色んな作業を教えてまだ2ヶ月の妹は「自分には何もない」という影に不安を感じて、素直にそれを受け入れたので自分の光の部分に進むのがスムーズだったようにも思える。
強みと自信は比例しない
作業やノウハウを教えて3ヵ月になる頃、
と言い出した私。
「えええ、なんですとぉ~!(泣)」
いつもながら突然何かを決める私に驚く(&たじろぐ)妹。
「自分は高卒、学歴なし、ご飯を作る仕事しかしていない、何もない」
これを言い出したらキリがなく、これを言ってたところで過去が塗りかえられるわけでもない。教室案はこの言葉を妹の中から消すための一番有効な手段だと思っていた。
妹には誰にも負けない、そして誰が見てもわかりやすい「強み」が2つあった。
それは、
・美人であること
・調理の仕事しかしていなかったこと(調理師の国家資格)
の2つ。
面白いことに、ルックスのいい人は2通りいて、自分が素敵なことに気付いている人と、毎日見慣れているため全く気付いていない人がいる。妹は紛れもなく後者だった。
私の中には「美男美女最強論」というものがあり、ルックスが良い人はそれを活かすためにそのパーツを与えられて生まれてきていると子供の時より信じている。ゆえに、それを活かして仕事をしていない妹をいつか人前に出さねば!と姉として使命感にも似たような気持ちがずっとあった。
そう、1つ目の強みとは…妹のルックスそのものが「強み」!(私には無い!)
人を見た目で…というと反論されそうだが、まったく知らない人が同じものを売っていたとしたら美男美女がいるところで9割の人は買う。美貌は眺めているお客からしたらプライスレス!(なおかつ笑顔が素敵ならさらにプライスレス!)
そして、2つ目は「調理の仕事しかしてこなかった」ということ。
1つの仕事しかしたことがないという人は、「これ以外何もしたことがない」という影として捉える。だけど、周りを見渡せばよくわかる。
いまどき、1つのことだけを突き進めている人って、どれだけいる?
確かに職場を変えることはあった妹だが、1つの職種を貫き通すって誰もが出来ることじゃない。
100回の説得より、1回の実演
自信のカケラも生まれてこない妹に、何度も何度も同じことを言っていた気がする。
こんなに説得力のある事実、誰もが持っているわけじゃない!
周りを見て見ろって!
昨日までただのヤンデレが、いきなり「今日からカウンセラーです!」とか言う怖い世の中で、これほど信頼される根拠、どこにあるってんだ!
と、どんなに説明しても本人の自信に繋がることは…ない。
なぜなら、
「ローチョコレートの先生としての経験はゼロ」だからね。
妹に自信をつけてあげるために、私ができること。
それは「行動動機」を明確にして「経験する機会」を作ってあげるしかない!
少なくとも…私のしている仕事よりはずっとわかりやすく「物」という形がある分、商売にはしやすい。
100回の説得より、1回の実演。
妹は、
「私…人前で喋ったことなんてないよぅ…」
「セミナー?体験教室?手順の1から想像がつかないよぅ…」
と今にも貧血を起こしそうな顔で不安を伝えてきた。
そのために私がいる!と言ってみたものの、私が当日人前に立つわけではないので、妹の挑戦への不安を片っ端から1つずつ解消していくことを開催当日までしていった。
初めてのことをやる時の一番の壁って「経験がないこと」ではなくって「不安」。
ノウハウを持っていたってそれ自体は自信と直結していない。「不安」は血液の流れを悪くさせるし、体を委縮させる。脳も委縮させる。結果、「行動」をやめさせてしまう。
新しさと、衝撃と、感動!
私はこの3つさえ揃っていたら結果が出るって確信があったし、自分もそれをいつも大事にしていた。
でもそれ以前に、妹に子供の頃の気持ちをまず取り戻してほしかったんだよね。
「お菓子作りって、楽しいよね!」
っていう、純粋な気持ちを。
それに妹は人前に立てる子のはずだ!と信じていた。
だって保育園の時、2回も主役に抜擢されて、やってのけてるんだからね!
妹とレジュメを作り、確認後、いざローチョコレート手作り体験教室、募集!
初めての募集、いざ蓋を開けてみたら…
続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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