ただ、私を好きになりたかった❷

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次話: ただ、私を好きになりたかった③

私は結婚に絶望していたが、ただ誰かに愛されたかった。

「結婚」と云うと、我慢とか忍耐とか苦しいものだと思っていた。

それは、私の母の姿から私が想像したものだ。


両親は、考え方の相違があるらしく

ことあるごとに互いを責め立てるように言い合っていた。

お互いの考えを理解しようとすることなく

「お前はおかしい」

「あんたはおかしい」

と、言い合っている。


酒好きの父は酔っ払っては、母に無理を言って困らせる。

ある時、酔いつぶれて行きつけの飲み屋から連絡が入る。

父「今から迎えにこい」

母「ひとみ(乳飲み子)がいるんだよ!行けるわけないでしょ!何考えてるの。」

父「(低い声で)今から来い!」

怒らせると面倒だからと、私を布団に寝かせると

父のいるバーへいそいそと出かけていく。


私が小学生の頃だったか。

田舎では虫の声しか聞こえないような夜更けに

酔っ払って帰ってきた父。

「ミーヨチャーン、ミーヨチャーン」と母を大声で呼んでいる。

玄関でひっくり返っているらしく、

母が迷惑そうに出て行く。

「ラーメン作って」と父。

「何時だと思っているの?もう今日は寝て」と母。

「俺が作れと言っているんだ。黙って作れ!」

と、自分好みに細かい文句をつけながら、

夜中にラーメンを作らせる父。

何かに対する不満を家族にぶつける父の気配がする。

怒らせると面倒だからと、仕方なくキッチンで作業する母の気配がする。

父と母の様子をうかがっている私。

「はい」

と、ちょっと不機嫌そうにラーメンを差し出す母。

すると、水が勢いよく溢れるような音と瀬戸物が割れる音。

作ってもらったラーメンをひっくり返すのだ。

それから、大きな音で深夜番組をかける。

二段ベッドで寝ていた私も弟も寝たふりをして息を飲む。

何にも気がついていないふりをしているんだ。

そのうち父が母道具のように扱い始め、母が拒否をしながらも何かが始まる。

それが一番怖くて仕方なかった。


お金はあったらあっただけ使ってしまう

いい加減なやり方で人間関係を壊してしまう

酒はあるだけ呑む、暴力を振るう、、、

数え切れないほど

父が母を苦しめる姿を見てきた。

母が父を呪う姿を見てきた。


女性を従わせることで愛情を感じたい父。

従うことで愛情を表現することを回避していた母。

愛されたくない気持ちも愛したくない気持ちも切ない。

私はそのどちらも分かってあげたかった。

「結婚」には絶望していたし、どうしても夢を抱けなかったが

とにかく男性に愛されたかったし、愛したかった。

私を愛してくれる人ならどんな人でもよかったし

私が愛せる人ならどんな人でもよかった。




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ただ、私を好きになりたかった③

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