16000本のキャンドル(3)

このエントリーをはてなブックマークに追加
8


津波が防波堤を超えた。岸壁につながれた船が、あっけなく流された。

街路を濁流が走る。

家が、車が、人が、真っ黒い水に飲み込まれていく。

「子供がいます。家の中に子供がいるんです。」

あの日、僕は震源から遠く離れた名古屋にいた。

そこで、テレビを見ていた。

「誰か子供を助けて!」


家並に津波が押し寄せている。

道が壊れていく。

テレビに映る人たちは、皆、泣き、叫び、走っていた。

その光景を見ている僕は、泣くことも、叫びだすこともできず、立ち尽くしていた。


湾岸の道路を走る車を津波が追いかけていた。

高台から大勢の人が見ていた。

皆が叫んだ。

「逃げて。逃げて。」

しかし、津波は瓦礫を巻き込みながら迫り、もの凄い速さで車に追いつき、一瞬に飲み込んでしまった。


「早く、早く、早く。」

高台に逃げのびた人が、こちらだと手招く。

「上がって、上がって。」

誰も、死にたくはない。

けれども、どうやっても、どうしても、逃げることができなかった人たちが大勢いた。


あの日、僕はただテレビを見ていただけだった。

そして、映し出される津波に目を奪われるばかりだった。

3年後、何もできていない自分に気づいた。

16000本のキャンドルに初めて火を灯した。

それからは、機会あるたびに募金だけはするようになった。

けれども、それだけだ。


あの日の記憶や感情を伝えることが、絆をつなでいくことになるのならば、僕は、少しだけでも何かを書き綴りたい。

来年も、その翌年も、何度でも。


読んでよかった
このエントリーをはてなブックマークに追加
このストーリーをブログ等で紹介する

松本 晃一

肺がんに負けるもんか!

松本 晃一さんが次に書こうと思っていること

|

松本 晃一

肺がんに負けるもんか!

松本 晃一

肺がんに負けるもんか!

松本 晃一さんの他のストーリー

  • 痛い、痛い、眠い、眠い

  • 松本 晃一さんの読んでよかったストーリー

  • 水曜日の先生