【2話/ゆとり世代】母親の凶報から人生を見つめ直し、日本版マイケル・ジョーダンを発掘する男、佐藤さん。

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1989年の社会


佐藤さんは一九八九年生まれ。

昭和天皇が崩御し、「激動の昭和」と呼ばれた、日本で最も長い元号が終焉を迎えた年である。と言っても、激動から突然として平穏に切り替わることもなく、目まぐるしく変化した年だったようである。

少しだけ、時代背景を遡ってみる。

天皇崩御後、小渕恵三官房長官が新元号の記者会見で「平成」と発表しスタートした。国内政治では、この年に3人の首相が就任、2人が辞任に追いやられている。リクルート事件や消費税率導入で支持率が急降下した竹下政権、女性スキャンダルで早期辞任を余儀なくされた宇野政権から海部政権へ移行し、忙しない年だったようだ。


海を超えた国々では、中国で天安門事件が発生し、ドイツではベルリンの壁が崩壊し、12月には冷戦が終結している。現代においても、功労を称えられ超伝説的人物としてクローズアップされる著名人も多く亡くなっている。美空ひばり、手塚治虫、松田優作、松下幸之助など、多方面で時代をの象徴となった開拓者達が、元号の変化とともに姿を消している。

また、新語・流行語大賞の新語部門では「セクシャルハラスメント」が金賞を受賞している。日本初のセクハラを理由とした民事裁判が行われ、原告側の全面勝訴となった。世に蔓延していた女性に対する性的中傷が表面化した年だった。

科学文化の面でも、記録的大ヒットとなった商品の「初代」が誕生している。ソニーのハンディカム、任天堂のゲームボーイなど、どことなく”次世代感”がある。しかしなんと言っても、この年を含む1986年から1991年までは、”バブリー”な時代だ。特にこの1989年の大納会では、日経平均株価が史上最高値の3万8915円を記録している。ヒトもモノもカネも踊り狂っていたこの時代は、時代の変遷の大きな区切りとして語られる。


佐藤さんは、こういった時代の渦の中で生まれた。しかし、佐藤さんはこの時代に生まれただけで、もちろんバブリーを体感してはいない。今や斜陽産業となりつつあるタクシーを捕まえることが困難だったり、

 

厳格な信用審査を求められる現代では考えづらい緩すぎるローン審査だったり、ユニクロや100円ショップでも身銭を切る思いで財布を開ける今とは対照的な、何でもかんでも高級ブランドで身を固めることが普通だったりと、佐藤さんの世代はバブルに対して、比較的良いイメージを持っている。

事実、多くのバブル期の恩恵を享受した人は、口を揃えて「あの時はよかった」と言う。バブル時代の思い出話を意気揚々と語るのは、バブルの恩恵を受けた人達だ、全ての国民が踊り狂っていたわけではない。現代でも重労働や格差社会は問題視されるが、当時だって存在した。表面にあるのか水面にあるのかの違いらしい。

一方、佐藤さんの世代は、そういったバブル時代の勝ち組上司への対応に悩むときもある。「バブル時代に俺たちは・・・」なんて始まるものなら、耳を傾けるふりをするか、少し気構えるかどちらかだ。「具体的にどうだったのですか」や、「色々話を聞かせてください」などと純粋な好奇心で質問攻めにするか、「そうですか」と、その後に続く思い出話を、事前にシャットダウンさせるために言葉少なめに返答する。そこで「そうですか」とでも返答すると、当然、時代謳歌した世代から「面白くない奴」認定される。誰でも武勇伝を語ることは好きだ。


こうなってくると、中には突然話が飛躍して、人間としての中傷以前に、ある時代背景のせいで、こういったつまらん反応しかできないのだ、だから駄目なのだ、とこちらの言い分を全く話す間も無く、”決めつけ”に入る人もいる。


ゆとり世代突入

ある時代背景とは、”ゆとり世代”のことだ。詰め込み教育の指摘を受けて、2002年から2010年まで、新しい学習指導要領に沿って教育を受けた世代だ。佐藤さんが生まれた1989年世代は、義務教育から大まで、完全にゆとり教育に浸った1995、1996年生まれではなく、彼らが中学生の時に、学校完全週5日制が導入された半ゆとりに該当する。

教育システムの変化の中で青年期を歩んできた人の人格を判定するのは、いささか横暴な気がする。しかし、いつの時代でも、こういった世代論というべき正体不明なカテゴライズは受け入れられている。総合的に言えば、この世代は内的な部分に忠実だと言われる。バブリーの余韻すら体感し得なかった世代のため、物理的に満たされることを知らない。そのため「心が満たされる」ことを重要視する。なるほど自分と重ねてもそうかもしれない。

佐藤さんも同じだ。金銭的な欲求は無い。毎日の生活は質素だ。ほとんどの夕飯は、松屋の牛丼並盛り290円で済ます。大きな買い物もしないし、夜遊びが激しいわけでもない。それでいて、物理的に不足感を抱いているわけでは無い。そもそも、社会的地位だとか、その象徴であるようなブランドを固めたりする、見た目で判断が付くことには、興味が薄いようだ。

だからこそ、心が満たされない限りは、お金が貯まっても延々と悶々とした日々を送ることになる。では、何がそんなに満たされなかったのだろう。


 

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西嶋 タクロウ

オウンドメディアでノンフィクションを執筆しています。「人々の生活から社会を覗いてみよう」というコンセプトで、書いた内容に対して興味関心を持って頂ければ幸いです。

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