【3話/無意識の恐怖】母親の凶報から人生を見つめ直し、日本版マイケル・ジョーダンを発掘する男、佐藤さん。

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人生は2択。安定か、刺激か

食べる、寝る、性を満たす、運動をする、研究する、誰かに認められる、孤独を貫く、豊かな生活が可能な賃金、必要最低限の賃金、静かに安定した生活、激しく変動著しい生活。人の心が満たされる条件は、それぞれ異なる。しかし、大分類は二つだけだ。安定か、刺激か。

もちろん安定と刺激の定義は人によって異なるだろう。同じ環境に身を置いていても、安定した静かな日々か激動の日々なのか、人の持つ物差しは同じではない。それでも、遠目から見れば、両者の間には圧倒的な距離が離れている。安定を求めても刺激は手に入らないし、逆も然りだ。


佐藤さんは、今は刺激ある方向を見据えている。明確な夢ができたからだ。それでも最初からその選択を取ったわけではない。決して夢追う青年ではなく、長いこと意志の通わぬ人間だった。環境に迎合していた。ある程度は将来の計画もあり。好きなこともあった。それでも、無意識に自分のできる範囲内に収めていた。殻を破ることはしない。


「小学生、中学生、高校生、大学生。全部目の前のことだけ見てて、行動に理論がなかったんだよね。要するに計画性?それが無かった」


佐藤さんは自分の話をする時、言葉を選びながら慎重に話す。ときたま、語尾に少しばかり疑問を含めて話す時がある。この言い方をする時は、納得した言葉で締めくくった、と満足気な表情になる。それを見て私は、確信を持って話をしているように見えた。一方で、緻密にプランを立てて、その目標達成に向けた手段までも計画する佐藤さんしか知らないので、多少面食らってしまった。


「でも今、凄い計画してるよね。色々」


「いや、だからやっぱ気付いたんだよね。お母さんの病気とかで、将来のことを考えるようになって」


「それまでは一切何も考えてなかったと」


「まぁ全くってことはないかもしれないけど、視野がとにかく狭かったね」


「目の前のことだけしか見えてなかったってこと?」


「うん。バスケと英語だけ。それだけ考えてたし、それだけ行動してた。びっくりするよ本当。何も無さ過ぎて」


無意識と無計画

口角を広げてニンマリと笑う佐藤さんの表情は、自虐こそしているがどこか自信に満ちていた。自然と笑えるくらいに、今の自分は当時の自分を乗り越えた、と言っているように見える。その著しい変化に困惑した。到達地点を見定め、すべき手段を吟味し、実行しながら成功の確度を高めていく。そんな佐藤さんしか知らない私にとって、無計画な佐藤さんは想像できなかったからだ。



「どこかで何か挑戦しようとか、刺激が欲しいとか思ったことは?」


「特に無いよ。とにかく何度も言うけど目の前のことだけしか見えてなかった。気付いたら何もなかった。刺激なんて考えることすらなかったよ」


佐藤さんは断言する。当時の佐藤さんに、刺激という言葉が表に出ることはなかった。毎日を過ごすことに精一杯だった。そもそもの話だ。どちらかを選ぶ、というラインにもいなかった。その環境で生きていく。選択肢は十分にあるはずだが、無意識に地に深い根を張ってしまっている。夢を馳せることが、億劫だという意識が根底にあるならば、それは恐ろしく人生の道を閉ざしてしまっている。


しかも無自覚の中で自然にしているからこそ、対処法はいつまでも見えぬままだ。満たされぬわけではなく、満たす方向があることを認識していなかった。


そのような理由は、社会にあるのか、佐藤さんの生育環境にあるのか。

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西嶋 タクロウ

オウンドメディアでノンフィクションを執筆しています。「人々の生活から社会を覗いてみよう」というコンセプトで、書いた内容に対して興味関心を持って頂ければ幸いです。

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