”人生はこれで〇〇〇〇”4度目の美大受験に失敗した男が脇道を猛進して彫刻家になり20年後に悟ったこと

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先日、職場でバイトの子が大学受験に失敗したと言って落ち込んでいた。建築内装を学ぶために大学を受験したが、全て失敗に終わったのだという。

悲しげな彼の後ろ姿が、昔の自分とダブって見えた。少しでも彼を元気付けたいと思い、4度目の美大受験に失敗したタケシという男の、その後の人生と20年後の様子について話すことにする。

 

 

完全な敗北

 

肌寒いボロアパートの一室で一人、最悪に憂鬱な気持ちで21歳の春を迎えようとしている男がいた。それがタケシだ。

 

当時の彼はアートとナンパが好きで、内向的かつ社交的でもある少し自信過剰な若者だった。彫刻家になる事を夢見て国公立美大を目指し、名古屋でバイトを掛け持ちしながら予備校に通い、三浪までして4度目の受験に挑むも全滅。完全な敗北を味わう。

その時はさすがに落ち込んで少しノイローゼ気味になり、壊れて開かなくなった窓を見つめて、ただ時を過ごしていた。


 

南の島へ飛ぶ

 

それから半年後、彼は南の島の瑠璃色の海の底にいた。

水はどこまでも透き通っていて、サンゴや色とりどりの熱帯魚に囲まれていた。空を仰げば、海底から地上と太陽が揺らいで見える。海の中には、広大な別世界がどこまでも広がっていることに気付く。

 

受験に失敗してから、しばらく徹底的に落ち込んだ後、タケシは沖縄に飛んでいた。

理由などない。もちろん現地に知り合いなど誰一人いない。

しかし、敗北したまま実家に戻ればきっと腐ってしまうだろうし、これ以上浪人を続ける意味も無いと思ったので、このまま名古屋に留まる理由もない。

幸い体だけは健康だったので、10万程の全財産を握りしめ、いくらかの衣服をリュックに詰めて、美しい空と海を求めて一人沖縄へ向かった。

 

空港から那覇市中心部まで歩いて向かう途中で、ママチャリを購入。ビーチで野宿したり安宿に泊まったりしつつ、沖縄本島を4日間でほぼ一周する。ついでに宮古島と石垣島までママチャリで回る。

那覇に戻ってふと気が付くと、財布の中には540円しかなく、驚くべきことにそれが全財産であった。携帯電話さえ持っていなかった。

何とかアポを取り、恩納村のリゾートホテルまでチャリで面接に向かう。観光シーズン直前であったので即採用となり、そのまま従業員寮に転がり込み、やっと飯とベッドにありつく

 

半年間、恩納村のリゾートホテルのビーチハウスでぼちぼち働きながら、朝から晩まで目の前に広がる海を見て過ごす。特に夕日が水平線に沈んだ後の空の色は、朱から紫のグラデーションになり格別に美しい。また、沖縄の人々がとても優しく温かかったので、タケシの心の傷はまもなく完全に癒される。

のんびりと過ぎる時間の流れに身を任せて、ただ海と空を眺めながら、美大に行かなくては彫刻家になれないのかと自問自答していた。

 

その後、那覇で1年半ほどバーテンをしながら、休みの日には慶良間諸島沖でダイビングを楽しんだり、離島に小旅行に出かけたりする。その頃出会った女性は、海外を一人で旅することが大好きなカメラマンだった。彼女の話を聞いているうちに、外国がとても身近なものに思えてくる。そして海外へ行きブロンズ彫刻の工房で働き技術を身に着けて、いつか自分の作品を作ろうと決めた。

 

沖縄から上京して2年間、週七でバイトを二つ掛け持ちしつつ金を貯め、英語を基礎から学び、カナダで働きながら語学留学するためにワーキングホリディビザを取り、着々と準備を進めた。その時期にバイト先で出会った彼女とは、約2年の超長距離恋愛を経て後に結婚することになる。

 

 

4年後ワーホリでカナダに渡る

 

窓から入ってくる木々の清涼な空気を吸いながら、彼はカナディアンハウスの半地下室で、金髪の子供達を高い高いしていた。

 

数週間前にバンクーバーに到着。空港からダウンタウンに向かうバスの中で運転手にどこで降りるのかと聞かれるも、ネイティブの英語がほとんど聞き取れず、ダウンタウンと連呼しつつ彼に地図を見せたら、ちゃんとホステルの前で降ろしてくれた。

 

それからカナダ人宅の地下を間借りして、語学学校に通った後カフェでバイトをしつつ、最も興味を持っていたブロンズ彫刻の市民教室を見つけて受講する。そこで講師をしていたジョン・ギという彫刻家と出会い、彼のアトリエに通い詰めるうちに、いつの間にか弟子になっていた。

 

カナダで生活した一年半の間に、様々な国の友人達と触れ合い泣き笑いを共にする。また、カナダの大陸横断鉄道の旅や、ブリティッシュ・コロンビア州を旅する中で、雄大な自然の中で多民族が仲良く共存している様子を見て、まさに理想の世界だと思った。

 

彫刻の修行を終えてからは、狂ったように自分の作品制作に没頭し、その年末にはバンクーバーで師匠と共同展を開催。さらに8年後にはジョン・ギを日本に招き、横浜で2度目の共同展を開催する。

 

 

6年後スパッと結婚

 

結婚は勢いとタイミングだ。

愛し合う二人が、結婚したいという気持ちになった時がその時だと思う。仕事や社会的地位や貯金が無いなどと余計なことを考えている間に、一番大切な気持ちが冷めてチャンスを逃してしまう。できちゃった結婚もご縁だろう。

 

全てが灰色の町、マイナス20度近い極寒の中でも、彼のいる高層マンションの一室は何だかとても温かく感じる。

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