フレッシャーズ最初の関門「飛び込み名刺交換」の思い出④

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いよいよ、出発。


儀式を終えて、それぞれが担当エリアに繰り出していく。


私はまず、同じビルの一つ上のフロアを訪ねた。

「下の階の会社の新入社員でして~」みたいな感じで軽く挨拶。

あっさりと受け入れてもらえて、誰よりも早く、1枚目を獲得。


顔見知りやご近所さんから攻めるのは、非常に有効っぽい。


電車に乗って移動しなくてもいいという、渋谷エリアのメリットを最大限活かし、その後も隣のビル、その隣のビルという形で、着実に枚数を重ねた。


自分の会社の情報を正しく伝えることで、相手の警戒心は緩くなる。


さわやかな男性
ああ、お昼にファミマでよく会う会社の社員さんですね!
ゲーム会社のお兄さん
毎朝、ビルの前を掃除してますよね!


お局風の女性
毎年、おたくの新人さんがいらっっしゃるわよ~


そんな感じで、思っていたよりもずっと簡単に、すんなり名刺交換は進んでいく。


そうなると、効率を求める余裕すら出てくる。


・名刺を交換することができない移動時間は、もったいないので極力作らない。

・ビル間の移動は小走りで、基本的には特定のビルを避けたり飛ばしたりせず、すぐ隣のビルに入る。

・ビルに着いたら、まず最上階までエレベーターで登りきって、上から下へと非常階段で下っていく。


慣れて来たタイミングで、このようなルールを作って、実践するようになった。

当時は知らなかったが、これを巷では「ビル倒し」と言うそうな。

もちろん、そんな用語は知らなかったから、わたしは、この一連の動きのことを密かに「制圧」と呼び、ひたすら制圧を続けていった。



その日の私のプランは、会社から恵比寿方面へとひたすら制圧をしていき、目標獲得枚数40枚。


昼休憩までの2時間あまりで、早速20枚を獲得し、サンマルクカフェでチョコクロワッサンをほおばるくらいには、順調なスタートだった。


しかし、その余裕も一変。

午後になってから一気に難易度が増した。


会社から遠くなるにつれ、断られる回数が急激に増えていく。

高層ビルを上から下まで訪問したにも関わらず、1枚も名刺を獲得することができず、徒労に終わる事態も出てきた。


忙しそうなお兄さん
帰れ!お前にやる名刺なんかない!


ダンディな外国人
日本語、ワカラナーイ。


※ちなみに、この日本語ワカラナイ外国人の方には、カタコトの英語でどうにか自己紹介をして、何とか名刺をエクスチェンジしていただいたり。笑


なかなか一筋縄ではいかない。

しだいに、悔しさと、焦りがつのる。


ビル沿いをひたすら進んで、もうすぐ恵比寿駅に到達しようというところ。

とあるビルの玄関に入りかけたところで、私はある異変に気付いた。


カバンから、水滴が落ちている…。


その日は朝から結構な雨だったけれど、基本的にビル間の移動しかしていないため、雨に濡れたような心当たりはない。

恐る恐るカバンを開けると、そこにあったのは、閉めそびれたペットボトルから飲み物が溢れ出る地獄絵図。


結局、私は、これから渡す予定だった名刺の予備も完全に濡らした状態で、初日の名刺交換の中止を余儀なくされた。


そして、ジャケットのポケットに入れた、名刺入れの中で無事だった名刺数枚を、泣きたい気持ちで何とか配り終え、失意のまま会社に戻った。


初日獲得枚数28枚。

目標達成まで、あと52枚。←ヤバい!


かなりブルーな気持ちで初日を終え、ぐったりと帰宅する。

その晩は、まだ引越しの荷物が片付かない狭苦しい部屋に、湿った名刺を並べて、ドライヤーの風を当てながら明かした。


こぼしたのがお茶ではなくて、お水でよかった。

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フレッシャーズ最初の関門「飛び込み名刺交換」の思い出⑤

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