地下芸人を辞めて会社員になって感じたこと
『どうもありがとうございました~』
多分、僕が芸人最後のステージで放ったセリフはこれだった気がする。
基本的にこの言葉で締める”挨拶終わり”という手法は、芸人界ではスタンダードな終わり方だ。
”多分”とつけたのは、正直自分の最後のステージのことはあまり覚えていないからだ。
でも、ネタの締めをほぼ”挨拶終わり”にしていたので、きっと最後もそれだったと思う。
そんな過去を持つ僕は、陽の光を浴びることがなかった元地下芸人だ。
そして僕と同じようにその道を諦めた芸人は世の中に驚くほど存在する。
ある大手お笑い事務所では毎年200人近くの芸人が生まれ、3年以内に7割以上は辞めるとも言われているほどだ。
では、そんな夢破れた芸人たちはその後どうしているのか?
当たり前だが普通に働いている。
社会に溶け込んでなんら変わりない日常生活を送っている。
それはもちろん自分も例外ではない。
ただ、芸人の世界というのは一般のそれとは異なる世界であることは確かだ。
その感覚を持ち合わせたまま一般社会に入り込むと数々のギャップが生じることになる。
今回、僕が感じたそのギャップを実体験をもとに話していこう思う。
入社してすぐに気付いた異変
僕は所属事務所を辞めて映像制作会社に入社した。
芸人時代から趣味で撮影と編集を行っていたのでそういう会社に興味は持っていたのだ。
入社初日に会社に訪れると社員の方が現れて自分の部屋に案内してくれた。
そう言われた場所は僕のデスクだった。
泣きそうだった。
今までは”楽屋”とか”ステージ”にいた自分が憧れていた”オフィス”の”デスク”に腰を降ろしているのだから。
当時は一生社会に復帰することはないだろうと思っていたが、人生やはりどうなるかわからないと身をもって感じたのだ。
よろしくお願い致します。
僕のデスクがあるフロアには、その時3人くらいの社員の方がいたので挨拶をした。
すると、
そうなのだ、僕が会社員になって感じた芸人との最初のギャップは声のボリュームだった。
みんな声が小さいのだ。
しかし、
これは今まで周りにいた人間の声がデカかっただけで社員の方のボリュームが正常なのかもしれない。
そういえば芸人になって間もない頃、僕は常々声が出ていないと先輩芸人に言われ続けた。
『ボソボソ喋っても面白さが一個も伝わってこないぞ』と。
もしこの社員の方が芸人になるというなら今すぐこの言葉を言ってあげたかった。
それだけ芸人にとって声を張るということは基本中の基本なのだ。
だから芸人には声がデカい連中が多い。
無駄に挨拶もデカい。楽屋では『おはようございます』『お疲れ様です』が響き合っている。
そんな場所に慣れてしまったせいか今目の前にいる社員の方の声が全然聞こえないのだ。
挨拶を済ませたあと、僕は自分のデスクで必要書類を記入していた。
記入を終えてすることもなくしばらく待っているとあることに気付いた。
・・・・。
・・・・。
静か過ぎる!
これは後々わかってくることなのだが、この仕事は朝出社してPCの電源をつけて作業し、PCの電源を切って退社するまで会話をしないということが一部の人間では成り立つのだ。
しかしそんなことはこのときは知るはずもない。
今の自分には、ただキーボードを叩く音しか聞こえてこない。
僕はこの状況に恐怖を感じた。
なぜなら元芸人という職業柄、間が空きすぎることが怖いのだ。
スベって静まり返ったあの無言の時間がフラッシュバックしてくる。
だからこのシーンとしている空気が最初は絶えられなかった。
・・・と、さまぁ~ずの三村マサカズさんばりのツッコミを入れたいところだが、
ここはそういう場所ではないことに少し寂しさを感じたりもした。
会話の仕方
それから数週間の間、
社員の声が小さいこととシーンとしている空気に慣れるようにした。
しかし今度は、喋れないことへのストレスが生まれてきてしまう。
なんでみんな喋らないのか疑問だったが、あることに気付いた。
この会社ではPCで作業することが主なためPCにメッセンジャーアプリがインストールされている。
つまり、みんなメッセンジャーを使って会話をしているのだ。
素直にそう思ったわけだが、発言を記録するためにはメッセンジャーを使うことが非常に意味のあることだと教えられた。
・・・それでも喋らないのは気持ち悪い。
普段しゃべらない人は気にならないかもしれないが、僕は喋りたい方の人間なのでこのままでは気が狂いそうになるのだ。
ネットで検索すると一般男性は1日平均1万語喋らなければ脳がボケると書かれていた。
気がつけばこの会社に入社してから発言しているフレーズは
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