独立系?ユニオン、組合との遭遇 その9
相手の手の内も自分のカードも出揃った。後はどうカードを切っていくか。まあ、こちらは労働審判でも裁判でも勝ち目があると踏んでいるので、いかに効率的にクローズするかだ。
第三回も団交はお互いに言いたいことはいい尽くしたからだろうか、又、後は数字の問題だけということもあって落ち着いたトーンで話が進んだ。
とは言え、こちらは向こうの期待値を下げさす努力をしなければいけない。
「前にも言いましたけれどうちの会社ケチで、これは彼女も良く分かっているかと思いますが。」
「それにしたって差が開きすぎていて話にならないだろう。その辺のことはちゃんと本社には話したのか。」売れない作家が問いただす様に言うのを谷啓、いや委員長は頷きながら聞いている。
(この委員長役だったら誰でも出来るな。)
「本社の上司にはちゃんと報告をしましたよ。それで自分たちがやった事が正しいと信じているのなら裁判でもなんでもすれば良いと言われました。そう言う性格の人なんです。」
ここで委員長が茶々を入れたのだが、その話が論理的に間違っている事をどうどうと宣うのでカチンときた。
「委員長。あなたの言われた事はおかしいですよ。前半が後半の理由になってなく正反対の事を言ってますよ。」
「そ、そんな事は無い。私の言った事は正しい。」と声を荒げた。
(ほ〜。こんな声も出そうと思えば出るんだ。)
しかし、この世で一番嫌いなのは論理的な矛盾である自分としてはどうしても許せなくなった。
「そんな大きな声を出さなくとも聞こえてます。でもおかしいものはおかしいのだから素直に認めないと。」
馬鹿にされたと感じたのか益々激昂して来るが、側から見るとその様は子供が駄々をこねている様。
「まあ、まあ。いいじゃ無いか。そんなのどうでも。話し合いの方が大事だろ。」と書記長が間に入る。
(自分も組合の書記長をやった事があり、会社側、組合員、組合員OBに挟まれて苦労した事が有るが、御老体にも関わらずご苦労な事だ。)
この騒ぎが却って気分転換となり、交渉は最終局面へと。
「それで本当のところどこまで出せるの? その数字を聞いたからって同意できると限った訳では無いけど。少しはこっちの顔も立ててもらえないと。」
少し本音が見えて来る。ユニオンは妥協をして早くこの案件から手を引きたいと言うのが本音だろう。
折角、サポートしてやっているのに罵倒されるし、分け前は少ないときている。
ここはユニオンにマネージャーを説得させるしかない。
「話が長くなったので、ここらで休憩としませんか。」と、提案してみる。
「いいね。じゃあ15分休憩。」書記長も同意。
マネージャーがトイレに行ったのを見計らって書記長の元に近づく。
「ちょっと良いですか。本人がいない方が良い話も有りますので。」
「うんそうだな。もう大変なんだから。」と先ほどの裏話を素早く聞いた上で、
「会社は最悪裁判でも良いと思っています。しかし、解決が早ければ良いと言うのもまた事実です。」
「だったら材料をくれないと。幾ら出させるの?」
先ほどの数字に一月分を積みました数字を答えた。
「それじゃあなあ。こっちの要求の半分にもならないじゃないか。」
「本当に本社からはここまでと言われているのですが、ユニオンの顔を立てて後一月分。」
書記長は黙ったままだ。一呼吸置いて委員長の方を見ながらこう言った。
「よし、まとまるかどうか保証できないが話はして見る。」
売れない作家の様に見えた書記長だがなかなか頼もしく見えて来る。
休息時間を延長して別の場所で話をして来ると言う。
(何とかなだめてくれよ。)後ろ姿を拝む様に見送った。
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