独立系?ユニオン、組合との遭遇 その10

前話: 独立系?ユニオン、組合との遭遇 その9

こちらのカードは切った。あとは売れない作家、いやユニオンの書記長の肩に交渉の行く末は掛かっている。

あのユニオンからの団交要求のファックスが届いてから、かれそれ2ヶ月ほどが過ぎていた。

真夏の暑さは残暑となり続いていたが、それでも日が暮れた後は随分と涼しくなってきていて秋の訪れを感じさせていた。

どれ位待っただろうか。足跡が外から聞こえて来る。

ドアの開く音がする。

「やあ、待たせてすまんね。何しろそちらが渋いんで。」

反論する事なく次の言葉を待った。

「先ずは席に座らせてくれ。」

ユニオン側三人、会社側三人がいつもの様に平行に並んで座った。

心臓がドキドキとなる音が聞こえるのでは無いかと言うくらいに早なっている。

「結論から言うと提案を飲むことにした。本人は色々と言いたいこともある様だが、早期決着を図りたいとの意向もある。よって解決金は合意書にサインして1ヶ月以内に支払われると言うのが条件だ。」

すかさず人事部長が「支払い時期は問題有りません。合意書は文案をお送りしますから見てください。至って標準的な物なので治す余地が却って無いかと思いますが。」と返した。

呆気ない幕切れだった。

(数年先のどうなるか分からない裁判の結果より目の前の金を選んだな)

そうであってもこれ以上会社も自分も煩わせられないかと思うと自然に口元が緩んで来る。

(まだ気を抜いたらダメだ。前回の同意のことを思い出してみろ。)

「それでは合意書の文書を確認頂いたら次回は調印ということでハンコを持参ください。」

人事部長がマネージャーに念を押す。

(情け無いユニオン執行部だけど最後には何とかなったな)

昨日の敵は今日の友では無いが少しは親近感が湧いてきた気がする。


本件はこれで終わりとなり、マネージャーは会社を去った。

ふと、(自分は本当に正しいことをしたのだろうか?)との思いだ浮かんで来る事もあったが忙しさと時の経過で記憶は薄れていった。

尚、後日談としてこのユニオンをウエブで探したのだが跡形なく地球上から消滅してしまったかの如くその存在がたしかめられなかった。

(あの二人、売れない作家と谷啓は今頃何をしているのだろうか?)

そんな思いも又、明日からの激務の中で揺すられて薄まって行ってしまうのだろうけど。



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