7.19

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あなたは毎日一緒に過ごす家族の遺体を、明日突然見ることが出来ますか?

人は生を受けた瞬間から死ぬことが決まっています。

今日か、明日か、5年後か10年後か。

やがて来る死はどんな人にも平等で、さまざまな理由で人は死にます。

毎日何処かで誰かの家族が死んでいる今日。

あなたは明日突然家族が遺体になったら、どうしますか?

事故が起きたのは1999年の7月19日。

北海道の短い夏のちょうど真ん中。

よく晴れた青空が広がった昼頃の出来事でした。

私はいつものように、娘を保育園へ預け仕事へ行っていました。

特に忙しくもなく、淡々と仕事にあたっていた昼過ぎのこと。

私宛に入った1本の電話。

「〇〇ちゃん電話だよ、お母さん。」

「え?母が…??なんだろ??」

娘が熱を出したなら保育園から電話がくるはず。

なんだろう?

イタズラじゃないよね…。

母はむやみに仕事中に連絡をしてくるような人では無かったので、検討もつかず電話口に出た。

「もしもし?」

「もしもし?今大丈夫?」

電話の声は紛れもなく母だった。

「うん、どしたの?」

「…ヒロキが事故った。」

「え???」

「仕事上がれる?」

「うん。わかった。行く。」

時間にして数秒の会話だった。

一瞬で嫌な予感がして、私はすぐに娘を連れて行かなければいけないと思った。

「店長すみません。旦那さんが事故を起こしたみたいで…。」

「え??マジで?大丈夫?すぐ行ってあげなさい。」

「はい、すみません。。」

すぐに着替えて階段を駆け上がった。

そこには母が車を横付けして待っていた。

助手席に乗り込み「桃果を」と短く言うと母は黙って頷いた。

数メートル離れた保育園へすぐに着き、私は先生へ事情を説明しすぐに娘を連れてきてとお願いした。

「わかりました。いま連れてきます。」

今思えば急いだってなんにも意味がなかった。

娘を待っている間に段々と現実を把握していくように呼吸が早くなり、胸騒ぎがする。

私は母に一番答えたくないであろう質問を吐き出した。

「死ん…だの…?」

母はずっと下を向いていた。

どう伝えていいか、きっと胸が潰れる思いだったに違いない。

しばらく困った顔をして、母はゆっくりと頷いた。

呼吸が早い。

しっかりしなきゃ。

ひとつ大きく息を吐いて、一瞬ぎゅっと目をつぶった。

「お待たせしました!」

先生が娘を連れてきた。

お昼寝から起こされた娘は少し不安そうだったけれど、キョロキョロと周りを見回して私も母もいることを確認するとホッとした顔をした。

「桃~、行くよ~」

私は精一杯笑っていただろうか。

頭が真っ白…というのが一番近い気がする状況だったと思う。

とにかく泣くわけでも崩れるわけでもなく、早く行かなきゃ…と。

きっと、母が居てくれたから立って歩いて旦那の元へ辿り着けたのだと思う。

娘を後部座席のチャイルドシートへ乗せ、私はまた助手席へ。

とくに混乱していたわけでもなく、淡々とどうしよう…と考えていた。

「警察が電話欲しいって。ここにかけて。」

母から電話番号を渡され、私はすぐに電話をかけた。

電話が鳴る間、なんとなくまだ死んではいなくて手術や治療を受けて頑張っているんじゃないか…そんな姿を想像していた。

「はい。滝川警察です。」

「あの、佐藤と申します。電話を折り返してほしいと聞いていて…あ、はい佐藤広樹の妻です。」

「ああ…奥様ですね。いま大丈夫ですか?」

「はい。」

「奥様、落ち着いて聞いて下さいね。旦那様なんですが、今日の〇時〇分ごろ事故を起こしてお亡くなりになったんですよ。」

「…は……い…。」

やっと。

涙がポロポロ出てきた。

小さい頃から負けず嫌いな私は納得がいかないと、我が儘が通るまで「なんで!?」と、よく母を困らせていた。

お巡りさんにも「なんで!?」と言いかけた。

『なんで死んでるの!』

そんなこと言っても無駄なのは、まだ判断ができたけど、頭がどうしても受け入れない。

納得できない。苦しい。

わかんない。

なんでこんなことになってるの?

「奥様~大丈夫ですか?」

喋れずにいる私に必死に優しく話しかけてくれるお巡りさん。

「はい…ごめんなさい…」

涙が全然止まらず、ボヤけて見える道路をじっと見つめた。

「奥様、今は辛いでしょうが落ち着いてね。今誰かと一緒ですか?」

「はい…母と病院へ向かっています…。」

「そう、では気をつけて焦らずゆっくりね。」

「はい…。」

何度か返事をし、電話を切った。

その後は一緒娘の顔を見ただけで、病院まで1時間ほどかかる道のりを無言でなにも考えず過ごした記憶した残っていない。

病院の建屋が見えてきた時、ふと我に返った。

もうすぐ会える!

遠距離恋愛をたくさんしてきた私達は幾多もこうやって過ごしてきた。

長い出張が終わり駅に着いた彼を迎えに。

仕事が終わって帰り道に待ち合わせ。

休みの日に久々に彼の家へ向かうバス。

「もうすぐ会えるな。」

「うん。早く会いたいね!」

冷たくなって待っている彼に会いに行くというのに、なぜかそんなことを思い出していた。

でも違う。

病院は暗く見え、空もくすんで見えた。

車が駐車場へ入り、また呼吸が早くなる。

急いだってなんにも意味がないのに、分かっているのに急いだ。

スヤスヤと眠る娘のシートベルトをガチャガチャと外して、両手で抱きかかえ、母にどこ?と聞いた。

母と3人で早足で歩いて向かう。

勝手に病室へ向かうつもりでいたのか、辿り着いた先に見えた部屋の入り口貼ってあった古いプレートに『霊安室』と書かれていたのを見て、心臓が大きく鳴った。

私は立ち止まった。

入りたくなかった。

叫んでどうにかなるならどうにかしたい気持ちで満タンになっていた。

記憶が曖昧だが、扉が開いて、ベッドに眠る彼と彼の家族が何人かいた。

白い布団で眠る彼。

鼻に脱脂綿が詰めてあるのを見て、もう生きてはいないことを認めさせられた。

ゆっくりと娘を母へ託し、彼の元へフラフラと駆け寄った。

血の気のない、目を閉じた彼の顔を見て私は泣き崩れてしまった。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

何度も謝って、膝をつき彼の胸の上で泣いた。

なぜ「ごめんなさい」だったのかは、長くなるので機会があれば、また改めて書くことにします。

まだほんのり体温が残っていたけれど、いつも一緒にくっついて寝ていた彼の体が固く冷たくなっていっているのを肌で感じた。

心の中で、お願い起きて。話したい。と何度も訴えた。

揺さぶっても抵抗なく人形のように揺れる彼。

どんどん死を見せつけられ、私は吐き気がした。

頭で思うより先に体が防御をしたかのように、私は霊安室を飛び出した。

来た方とは逆に走り、どこかわからない廊下の途中で動けなくなって座り込んで泣いた。

追いかけてきた彼のお母さんがすぐに私を捕まえた。

「かな!しっかりしないと!お嫁さんなんだよ!」

「いやだ…いやだ…」

消えてしまいたかった。

時間も日付もなくなって、世界が終わればいいと思った。

全てだった。

彼が私の全てだったのに。

居なくなったら息の仕方さえわからなくなるくらい、彼がいないなんて無理だった。

お願い、置いていかないで。

なんでもするから。

少しだけ時間を戻して。

戻ってきて。お願い。

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