ベルリンのベトナム寿司バーから学ぶこと

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街中を歩いているとわりかし身近にあるVietnam Sushi Bar、Thai Sushi、Vietnam cuisine & Sushi Barといった看板。日本からビジネスや観光で来た人には当然すごぶる評判が悪い。日本以外の特に欧米では結構よくあるパターンだと思う。でもここには国際ビジネスをする上での大切な要素が隠されているのではと最近感じている。

日本育ちの感覚からすると、そもそも寿司のクウォリティ以前に、フォーと握りのセットとか、タイカレーの脇に海苔巻きはありえんというわけだ。

フォーもタイ料理もインディカ米も大好物の自分自身でさえ、正直余り積極的に食べてみたいとは思わない組み合わせ。経営者は大抵の場合日本育ちではない。

僕の最近までの思考回路はこうだ。こういった料理店は本物の和食とまで言わなくても、本物を届けたいという気持ちがない。あるいは日本の現地の味を知らない味音痴か、商売だけに興味があって文化の理解が浅いいまいちな店主の展開だと。こういうのは本物が来ればいずれ淘汰されていくのだろうと。

最近はそう思わなくなった。むしろ過去の自分の考えが間違った正義感的というか、”顧客志向でない”ことに気がついてしまった。

ベルリンには数え切れないほど沢山のベトナム寿司バー、タイ寿司バーがある。つまり商売としてしっかり成り立っている。そしてこれらのレストランを経営している人たちはしっかりと顧客のニーズを研究した上で試行錯誤を繰り返し、結果こういったメニューに行き着いているのだろうと。

”顧客の欲しいものを提供する”というのはビジネスの基本というかあたりまえすぎる事実。なのにそれを無視して”本物が価値がある””うまいものは世界共通””和食は日本のココロ”といって日本のものをそのままもっていってもたぶん成功しない。

そうやって自己満足している日本人たちのすきをうまく突いて中華系の人たちや東南アジアの人たちが日本食を現地向けにアレンジし、浸透させてしまったということだと思う。

ひょっとしたらこれこそが、自分のような日本育ちが国際ビジネスで苦戦するポイントなのじゃないかと。”あるべきもの”というか”信じているもの”に囚われすぎている。

日本育ちにとって違和感があるのはわかる、がアレンジして成功していたら、お客さんが喜んでいたなら紛れもなくそれはビジネスとして成功。

逆の状況は日本にも沢山ある。代表的なのが日比谷公園などで頻繁に開催されて人気を博している、年に複数回行われる”オクトーバーフェスト”。

ドイツに合計6年程度は住んでいる自分からしてもドイツのビール文化の多様性は複雑だ。その土地地域に異なった地ビールがあり、グラスの形も色もアルコール度数も変わる。いわゆるAsahiやKIRINのようなナショナルフラッグシップが存在しない。

何より地ビールのこだわりが強い地域出身者の地元愛に付き合うのが面倒くさいので、私は最近家では永久中立国的なハイネケンを飲んでいる。ハイネケンのんでいれば ”こいつは何も知らねーな” と思われて楽だからだ。

いちど日本のビール会社からドイツ市場進出を相談され、そのことをドイツ人グループに相談した時の反応はまさに日本における”コメ”輸入的なものだった。

その話題を持ち出したのがベルリンではなく南西ドイツの田舎町だったのもあるのか、その場にいた全員に”日本のビール”がSUSHI-BEER以上の存在になることはありえない”と。完全アウェイのいまにも刺されそうな敵意を感じたのを覚えている。

日本のオクトーバーフェストは賑わっていてきっと日本で商売としては成功しているが、実際はドイツのビール文化はもっと多様で、あの1Lジョッキや白ビールと大量のソーセージを食べで騒ぐのはドイツでも南部のごく一部の文化であり、むしろベルリンなどではVeganレストランがどんどん増えソーセージ等も自称インテリ層や若者には敬遠されている。

あの1Lジョッキもベルリンで見れるとしたら観光客相手のバイエルン風ビアホールだけだ。

そもそもベルリンはビアホールより圧倒的にカフェのほうが多い。どちらかというとコーヒー文化のほうが強いのではないだろうか。ビールにしてもどちらかというと、カフェのテラスで昼から華奢なグラスでお茶するかのように静かにビールを飲んでいる。

何よりすごいのがベルリンのスーパーで79〜99セントでうっているビールを2000円+デポジットで2500円とか3000円?で売ってしかも、列をなして皆買っているところ。利益率はかなりいいだろう。

でもきっとドイツ育ちからみるとつっこみどころ満載なはず。。

それでも日比谷公園のオクトーバーフェストは皆楽しんでいる。外でビールが飲めるのは気持ちいいし、そのビールの飲み方がどこの地方のもので、なんだとか、原価がいくらとか”どうでもいい”からだ。第一そんなうんちく聞いたらビールがまずくなるし誰もドイツの地方の特色の話なんて興味ない。

実際自分もこの話を持ち出すたびに反応が冷たいのでだいぶ前から話すのをやめた。空の下で飲むビールがうまいので自分も東京にいたころはよく行っていた。うまくて楽しければ結局良くないか?

ベトナム寿司バーと同じだ。フォーと寿司が合わさるとなぜかお得でアジア料理を広く満喫できるから成り立つメニューなのであって、ベルリンのカスタマーにとって、それが日本だろうがベトナムだろうがアジア食でヘルシーで、Veganで美味しければ、大抵のベルリン人にとってどうでもいいのだ。

要はカスタマーが喜んで欲しがるものを適正な価格で提供しているから浸透するし、ビジネスとして成功する。日比谷公園のオクトーバーフェストも、ベルリンのベトナム寿司バーも全く同じだ。

当たり前すぎるんだけど、この”カスタマーが喜んでほしがるもの”を見極めるのがとてもむずかしいというのは自分がビジネスを創る側になってみてなおさら感じるようになった。

あることが切っ掛けでBenihana of Tokyo創設者のロッキー青木氏について調べたことがある。Benihanaの60年台のNYにおいての成功はビジネススクールのケースでも学んだ。

青木氏はパフォーマーだったので、どちらかと言うと静的な日本料理の提供方法がアメリカ人に受けないのを知っていてあえてアメリカ人が好む”エンターテインメント”と”パフォーマンス”を取り入れた動的な鉄板焼きスタイルを生み出したとのこと。当時の日本料理の世界からはきっとものすごい反発を受けたはずだ。本物ではない、という人も多かったようだ。

けれども、鉄板焼きパフォーマンス・スタイルが和食の浸透に及ぼした影響は守ろうとした側の功績よりずっと大きいはず。浸透すれば様々な食材貿易ビジネスも、レストランビジネスも市場が大きくなっていく。

自分たち視点の”本物”を追求するがあまり、カスタマーが何がほしいかを無視していたら結局マーケットは大きくならない。逆にマーケットが大きくなれば”本物”のニーズも増えるという。にわとりたまごというか、ジレンマというか。

結局ひとは自分が信じている物にすごく左右される。”信じているもの”はすごく厄介だ。本当に素直になって愚直に”相手が”何をほしがっているか、を見通せないときっとビジネスはうまくいかない。でもそんな一見基本に見えることが実はすごくむずかしい。

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矢野 圭一郎

東京からベルリンに移住し起業しました。日々チャレンジがある中で思いついたものを書いてみます。

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東京からベルリンに移住し起業しました。日々チャレンジがある中で思いついたものを書いてみます。

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