平成14年韓国留学日記:温かいビビンバ

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日韓ワールドカップが終わった。熱気で溢れかえっていた大学周辺も夏休みに入ると蛻の殻だ。そんなにサッカーファンでも無い僕がここ数ヶ月ワールドカップ一色で夏休みの計画も立て損ねてしまった。イヤ、そもそも就活プレッシャーから逃れたかったのだろう。毎日サッカー祭りを言い訳に酒に溺れてみた。

ずいぶんと寂しくなった大学周辺をブラリブラリと歩く。なんだか次第に怠くなり、くしゃみをする。頭がぼーっとする。筋に寒気が走る。夏風邪地雷でも踏んだのだろうか。急速に体調が悪くなる。

「何か食べねば!」

そう思ったのだが・・・・。どこの飲食店も夏休みは通常営業をしていない。夏休みは大学周辺のあらゆる商店にとっても長い休日なのだ。行きつけの飲食店は全滅。ブラブラと歩きなれない道を歩くと普段は入らぬだろう小汚い飲食店が目に入った。

自分
あそこで食べよう。

ガラガラと古い店の門を開けた。小汚いと思っていたが中に入ると決して汚いわけでは無く年期の入った飲食店だった。20人くらい入る小さな定食屋。節電なのか窓から入る日差しで店内は少々暗かった。手書きのメニューが壁に貼られていた。まあ、いわゆる韓国風定食屋だな。キムチチゲ、カルビスープ、ビビンバ、ユッケジャン、豆腐鍋。。。。決めた!

店の中には誰もいないようだが、僕が座ると椅子の音に反応し厨房から店の人が顔を出す。無愛想だ。「私は婚期を逃しましたけどまだ諦めていません」という雰囲気を感じさせるミドルなお姉さんが出てきた。しかしながら本当に無愛想だな。


店の人
何にしますか?
自分
ユッケジャンスープをお願いします。
店の人
はい。


店を見回した所、客はボクだけ。カタカタと調子悪い扇風機が回っていたり、ダイヤル式テレビがあったり、古ぼけた掛け時計を見ると午後3時だった。誰もいないわけだ。まあ、それにしても怠い。何やら熱も出ている気がする。その内、ドカタ風のお兄さん達が二名が店に入る。椅子の音におねぇさんがまた顔を出す。やっぱり無愛想だな。


店の人
何にします?
ドカタ兄さんA
キムチチゲ1つ!
ドカタ兄さんB
おれはスンドゥブチゲ。(豆腐鍋)
店の人
はい。
ドカタ兄さんA
あっ、マッコリ(どぶろく)も1つね!
店の人
はい。


日本ならばラーメン、餃子に「ビール一本ね!」的なノリなのだろうか。何気ない風景が面白いのも留学の楽しさなのかもしれない。無愛想なねぇさんが現れた。僕のユッケジャンスープが出来上がったようだ。韓国の飲食店は料理を頼むと付け出しのおかずが色々出てくる。小さい定食屋が多い韓国大学周辺で付け出しおかずは店選びの重要なポイントになる。キムチが種類が豊富とか、贅沢に肉系おかずが出るとか、塩辛系があるとか、セルフ目玉焼きコーナーは無料利用とか、あらゆる方法で学生の心をつかむ。

自分
ここは。。。。
ナムル系が豊富だ!

ユッケジャンのスープも出てきた。ナムルで野菜を補充し、ピリ辛ユッケジャンで体を温める!今の自分にはもってこいでは無いか!少々テンションが上がる。そして僕はそこで画期的なイノベーションを思いつく。そうだ、これだけナムルがあるんだ!

自分
ビビンバにしてしまえ!


僕はおかずをご飯にもり混ぜだした。もやし、ホウレンソウ、キムチ、ジャガイモ・・・・。しまった茶碗が少々狭いなぁ。野菜があふれ出ながらも、ボクは食った。なかなかうまい!これは、嬉しい!ビビンバを注文する事無く、僕はユッケジャンスープを注文してビビンバを食べているのだ!そう、名づけるならば「勝手にビビンバ!」。二兎を追う者は一兎をも得ずというが、ボクは一兎をおって二兎を得るぞ!


僕の気分は上々だ。


自分
アッ!


何故か、目の前で無愛想なねぇさんが睨みつけている。

ねぇさん僕をにらみつけているぞ。

なんだ、マナー違反なのか?

何をしているのだと聞かれたら僕は説明できるだろうか?


そう思った矢先だった。

無愛想ねぇ様は僕の茶碗を取り上げた。

何が起ったのだ。持ってかれたぞ。僕の勝手にビビンバが持ってかれたぞ!

残されたのはユッケジャンとおかずが盛られていた空の皿。


ぽわ~~~ん。


食べ出しで箸を止めたせいだろうか腹がなった。食べ物を奪われるってこんなに寂しくなる物なのか。僕はそんなに悪いのか?僕は次第に怒りを感じだした。何も取り上げる事ないじゃないか?体調が悪いせいだろうか、なんだかすごくすごく空しくなった。


自分
とりあえずユッケジャンだけでも食べるべきだろうか。最悪謝れば飯だけでも返してくれないだろうか。イヤ、そもそも謝る理由もないだろうに。
そうだ、僕はビビンバを食べたわけではない。
飯にナムルを載せていただけではないか。

物の数分であらゆる感情が交差した。

そう思っていた時だった。無愛想ねぇさんが大きめの器をもってきた。




器にはちゃんとしたビビンバがあった。それは僕の「勝手にビビンバ」が生まれ変わった姿だった。ナムルがもっと盛られていた。そぼろや目玉焼きが乗っかっていた。おいしそうだ!

店の人
サービスです。どうぞ。


そう言っては無愛想に立ち去って行った。

僕は唖然となりながらも、ご飯にガブリついた。うまい!誰かに追われているかのように僕はモクモクと無性に食べた。なんだろう、勝手に奪われ、勝手に盛られて、なんだこの妙な気分は?でも、なんだか調子悪い自分に「元気出せ」って言われているようで、とてもうれしくて、とてもありがたくてただただ食べた。本当においしかった。気が付けば綺麗に食べきっていた。

ご飯を食べ終える頃に、厨房からおばあちゃんが出てきた。


ドカタ兄さんA
おばちゃん!こんちわ!
店の婆ちゃん
こんにちわぁ。また来てくれたんだね。足りないのあったらいってね。


おばあちゃんは僕の所にきて話かけてきた。


店のばあちゃん
学生さん、具合悪そうだねぇ~。
自分
夏風邪見たいです。
店のばあちゃん
夏休みなので実家かえらないのかい?
自分
ボクの実家は韓国じゃないんです。
店のばあちゃん
あれぇ、そうなの。それじゃあ体壊したら親御さん達が心配するよ。病気になっちゃダメだよ。
自分
ありがとうございます。ビビンパ。。。おいしかったです!ありがとうございます!
店のばあちゃん
うんうん。両親の事を思って元気で学問に励まないとね。また具合悪くなったらおいで作ってあげるよ。


なんなんだ。なんだこの感情。
僕はユッケジャン分の料金を払い。店を出た。
辺りは暗くなり始め、冷えだしていたけど先ほどの寒気はしなかった。
今日は家に帰ろう。僕はまたブラリブラリと歩き出す。

留学生活を初めて4年、韓国の大学生活は毎日祭りだった。話題は溢れていた。民主主義がどうとか、政治家がどうとか、愛がどうとか、社会がどうとか、何時も酒をたらふく飲んではあがき続ける生活だった。親の期待とか目の前まで来ている社会への扉、知らず知らず現実から目を逸らし続けては心身ともに疲れていたのだろうか。

たまたま入った飲食店で僕はずいぶんと懐かしく忘れていた「優しさ」を感じた気がした。

それはなんかすんげぇ暖かいビビンバだった。

今度は仲間を連れて行こう。


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