クロスウィンド六本木やくざスタジオ事件:

 その昔、クロスウィンド(Crosswind)というバンドでキーボードを弾いてました。その頃のお話です。

●クロスウィンドは、こんなサウンドだったりして...


(この文章は1998年頃に自前ホームページのエッセイコーナー用に書かれたものを加筆訂正しています)


 まあ、バンドマンも長くやってると色々な目に遭う。ちょうどクロスウィンドが3枚目のアルバムをレコーディングする直前の1979年1月、最終リハーサルという事で1日中使える練習スタジオを探していた。そうしたらキティレコードの方で「麻布のアオイスタジオのすぐそばに売りに出てるスタジオがあって、それをキティで買うかどうか検討しているので、スタジオの広さとか音の漏れ具合とか、内部の状態とかをリハのついでにチェックして欲しい」ということになり、これはちょうど良い!ってんで何も知らずに出向いたのだ。


 場所はちょうど麻布にあるアオイスタジオから首都高をはさんだ反対側の道沿いで、場所的には六本木から歩いても行けるし、ちょうどいいかな?って感じ。


 で、スタジオの前に楽器車を停めると地下のスタジオに入る入り口がバリケードのようにベニヤ板で封鎖されていた。まあ、閉鎖中のスタジオだしこんなこともあるかいな?と周りを調べてみたところ、ドラムのそうる透氏のボーヤが裏口を発見したので、そこから楽器類を運び込む事になった。


 楽器を下ろして中に入ってみると、メインのスタジオには映写室も付いていて、コマーシャルや映画のタイミング合わせも可能な設備になっており、小さい部屋にはMA機材(映像と音を合わせるためのスタジオ設備)も設置され、小編成のコマーシャルなら音に関する全行程が制作可能のようだった。


 ところがメインのスタジオを抜けてバリケードの作られた入り口の方に行ってみると、階段下のロビーに布団が敷いてあり、明らかに誰かが寝泊りしたような様子...なんだろう?と不思議に思いながら楽器をセッティングしていると、いきなり子連れパンチパーマヤクザのオジサンが「あれー?ここ誰もいないはずなんすけどねー?」(この部分巻き舌で読むと感じが出ます)、とスタジオに入って来た。みんな焦って「いや、このスタジオを買いたいという人に頼まれて、試しに音だししに来たんですけど」と恐る恐る答えると「あ、そうすか?」と言って確認しに電話しに行った。みんなで「何が起こったんだ?」と顔を見合わせていると、「わかりました。後で上の方の者が来ますんでよろしく」(ここも巻き舌で読んでね!)と言って出て行ってしまった。


 というわけで、みんなおかしい???と言う気持ちになり想像してみたんだけど、たぶんスタジオの借金が返せなくなったスタジオオーナーが夜逃げし、それが戻って来た時のために下っぱの人がスタジオに泊まり込んでオーナーをとっつかまえる、という事だろうという話になった。そう思ってスタジオの周囲を取り巻く回廊のようになった事務スペースの机を見てみると、帳簿が開いたままになり、その周囲には頭痛薬が散乱している!私たちの脳裏には、経営難に陥ったオーナーが債権者からの電話に頭痛薬を飲みながら必死で対応してたけど、ついに万策尽きて「逃げろ!」ってことですべてほっぽりだして夜逃げする、そんな風景がありありと浮かび上がってきた。。


 とにかくレコーディングも近いし楽器もセッティングしちゃったんで、練習はしようという話になりしばし練習してたんだけど、しばらくしたら黒のスーツにネクタイをしてガッシリした体格の上級ヤクザのおじさんが入ってきて「ここを管理してる者です。よろしく」と挨拶しに来た。みんな「うーん、これからどうなっちまうんだ?」ということになり、その場から逃げ出すべく「すいません!ちょっと食事に行ってきまーす!」と外に出て喫茶店に逃げ込み、キティに電話して状況を説明したんだけどらちが開かず、とりあえず練習だけはして早急に逃げ出そう、という結論に達した。



 なんとかその場をしのぎ、その後1〜2時間練習して楽器をかたずけていると床に「***氏葬儀」(***は忘れちゃったけどスタジオの名前だった)と書かれたカセットテープが落ちているのを発見。というわけでみんなで想像したのは、経営危機のスタジオでオーナーが死亡、スタジオ経営を受け継いだ人(頭痛持ち)が帳簿を開いてみると会計はメチャメチャなのが発覚しそのまま逃走、債権者がヤーサンを頼んでスタジオにはっていた、という状況でした。



 とにかく早く帰ろう!という事になったんだけど、その上級ヤクザの人がそうる透氏に話かけてきてしまった!ところが幸いにも話の話題が正月に放映されたラグビーの話に行き透君が話に乗ったところ、すっかり打ち解けてしまい「いやーうちの息子もラグビーをやっててねえ」なんつー感じで和気靄々になってしまったのだ。



 結局、最後には名刺までもらって「新宿で何か困ったことがあったら、電話して下さい」と言われたのだった。残念ながら今のところ新宿で困った事態に遭遇していないので誰も電話してないみたいだ。その後しばらくは、みんな「俺、新宿じゃ色々顔きくから...」などとうそぶいていたのでした。



 バンドをやってるとヤクザな人と知合ったりトラブルになったりすることがあるんだけど、そんなときメンバーの中に旬なスポーツの話題に長けた奴がいたり、やたら酒に強いやつがいたり、どスケベな奴がいたりすると結構その手の人たちと打ち解けてしまってタダ酒飲ませてくれたりして得だったりする(お酒に興味ない私にはあんま関係ないんだけど、話聞いてると結構おもしろいのである!)。



 やはりバンドマンたるもの常に豊富な話題を提供できるよう日頃の心がけが大切だ。


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