中野の女

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私はかつて、高校受験に失敗し暗黒の男子高3年間を送った。 

更に高校3年時には大学受験の2ヶ月前に右手首骨折という失態を犯してしまい1年浪人。 

なので大学に入学した時は「失われた青春」を取り返すべく必死であった。 

まずは普通に異性と会話する。というか会話してみたい。 

その事が当時に於ける人生最大のテーマであった。 

まずは軟派なサークルに沢山入会した。

テニスサークルとかテニスサークルとかテニスサークルに。 

当時はテニスサークルに入っていれば青春を謳歌できると思っていた。 

そしてあるテニスサークルの新歓コンパにて。

  


ある女子と「へー。中野に住んでんだ。どこ? あー。野方警察署の近く?うちとめっちゃ近いやん。」 みたいな会話をした。

ただ当時の私はシャイだった為「じゃー帰り一緒に帰ろーや。」とか言えるはずもなく・・・ 

そんな感じで何の収穫もないままその新歓コンパは終わった訳であるがある晩・・・

  


一人部屋でテレビを見ていた時、けたたましく電話が鳴った。

そのコンパで「近所だね」って話してた女子からだった。

声がひどくあわてている。

  


「岩野くん、岩野くん。いますぐに来て!! お願い。はやく!!」

 とりあえずただごとではない様子だったので、彼女の家に向かった。 

彼女が玄関を開けた。

  


尋常ならざる猛烈な勢いで私は女子の部屋に招き入れられた。

 これが私が長年夢見ていた「一人暮らししてる女子の家をご訪問」の第一歩だった訳である。 

 そして彼女は「あそこ。あそこ」と言いながら台所を指さした。

  


 ゴキブリ・・・しかもちっこいやつ・・・ 

彼女は北海道出身ということでこれがゴキブリさんとの初対面だったらしい。

 後に聞いた話しだが、彼女が最初ゴキブリに遭遇した際の慌てぶりは尋常じゃ無かったらしくとにかく慌てふためいてそのテニスサークルの幹事長に

「な!!なんなんすかーー!!この変な虫はーーー!!」と電話したらしい。

幹事長が「それはたぶんゴキブリだよ。」って説明したら

「な!なんとかしてくれないと私死んでしまいます!!」と訴えたらしい。 

で。幹事長が名簿を調べて「あ。岩野が近所にいるから電話してみたら?退治してくれるかもよ。」って事で電話をしてきたらしい。

そして悲しいことに新歓コンパで「近所だね」って私と話した事はこの時に思い出したらしい。

どこまでも可哀想な男である。 

そんな経緯を知らない私は何の違和感も感じずにその小さなゴキブリを殺処分してあげた。

  


 そして「さー!これでもう大丈夫だよ!」と男前にアピールする私に

「あー良かった。私こういうのだめなのよね~~これからもお願いね。」・・だってさ。

そして 「私、お父さんから男を部屋に入れるなって言われてるから、早く帰ってね。」と。。。。

  


 そしてこの後、最初に電話を受けたテニスサークルの幹事長から「岩野とは連絡付いた?」との電話が掛かって来たらしく、その女子が「すぐに来てくれて殺してすぐに帰ってくれました~!」と報告したモンだから・・・

ちなみにその幹事長が最初に電話受けて俺の電話番号教えてこの確認の電話を入れるまでの時間が約20分だったとかで、幹事長は「正にレスキュー隊ばりの仕事だ」って電話口で大爆笑してたらしいです。

 んでその後。この話しがサークル内で広まり、当時(バブル期)よく言われていた

「彼氏でもないのに送迎のためだけに利用されるアッシー君」、

「彼氏でもないのに食事だけおごらされるメッシー君」、に続く

「彼氏でもないのにゴキブリ退治にだけ呼ばれるゴッキー君」という新しいバブリーネームを戴いた次第である。

   


ちなみに私をゴッキー君扱いしたその女子とはそれっきり会っていない。 

この事件の直後、私がそのサークルを離脱したからである。ぷんぷん!!


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