これから肺がんを生き抜いていく人たちのために(4)

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「5年生存率」とは、診断から5年経過後に生存している患者の比率。数多くのがん患者の平均的な数値であり、確率として推測するものだから、患者の余命を決定づけるものではない。あくまでも統計的に導き出されたものだ。けれでも、そうと頭ではわかってはいても、がんの告知を受けた瞬間からは、とても気になる生々しい数値になる。

病期によって余命は大きく変わる。

ステージがⅠ期でも腫瘍が3センチ未満と小さければⅠA期とされ、5年生存率は90パーセント。3センチを超え、5センチ以下で転移がないⅠB期は70パーセント前後。一方、前後リンパ節への転移があったり腫瘍が5センチを超えるⅡ期になると50パーセント前後に下がり、ステージがⅢ期以降になると外科手術が難しくなり、放射線治療などを行っても20パーセント台だとされる。

僕はⅠB期の患者として、その5年生存率を実証している一人だ。

無論、個人差もある。だから、再発や転移がないことを祈りつつ、今できることをやるしかない。たとえば、ストレスをためこまないようにすることや、食べ物のバランスに気をつかい野菜を多く摂ること。何があっても悲観的にならず、いつだって前向きであること。そして、免疫力を高めること。

それに、経口抗がん剤「UFT」を朝昼晩と二年間飲み続けること。

ステージⅠB期では、生存率は10パーセント程度改善することが明らかになっていて、標準治療として服用することが推奨されている。成長の早い細胞にダメージを与えるようにつくられているために、がん細胞以外にも胃腸の粘膜や血液をつくる骨髄細胞などの正常細胞へダメージを与える可能性があるという。

「手術後に服用すれば効果があります。副作用もありますから、途中で飲むことをやめてしまう人もいます。飲みますか?」

術後、一ヶ月を過ぎて主治医に聞かれたとき、僕は、

「飲みます。」

一時、間をおいて答えた。

「飲みます。できることは、全部やろうと決めました。」

5年生存率が10パーセントも延びるのであれば、僕にとっては命の薬だ。

毎食後に飲む。朝食後に2錠、昼食後にも2錠、夕食後には1錠。

点滴や注射によってなど静脈に直接注入する抗がん剤とは違って、飲み薬のUFTは副作用が軽い。それでも飲み始めて一ヶ月もしない内に口内炎ができた。2、3日痛くて不快だと思っている内になくなって、またすぐに別の場所に別の口内炎ができた。3週間ほどその状態が続いたが、それからは出なくなった。

その代わりに下痢がひどくなった。下痢止めを処方してもらい断続的に飲んだ。

頭皮に湿疹ができた。かゆみ止めを処方してもらった。

足の爪が変色した。

右足の人差し指、中指、小指の三本が、急に紫色になっていた。

どうしようかと思いながらもそのままにしていたら、しばらくして中指の爪の上側がぽろりと剥げるようにとれた。人差し指と小指も同じように剥げ落ちて右足が白い爪に戻ると、今度は左足の爪が同じように変色した。親指は左右共に大きな爪の半分が紫色になっている。UFTの副作用として、爪に色素沈着が現れたということらしい。

午後から夕方にかけて、軽い吐き気がして気持ちが悪くなったり、食欲がなくなったりもした。

それでも僕の場合は経口抗がん剤の副作用よりも、術後の外科的な痛みのほうがずっと激しかった。

胸に何かが突き刺さったままになっているのではないか、外科医が肺の中にハサミを置き忘れたのではないかと思うほど、退院して日常生活に戻ってもずっしりと鈍く重く痛かった。痛み止めを毎食後に3ヶ月ほど服用した。だから、UFTを飲み始めたとき副作用を気にとめることもなかった。

その頃、たくさんの薬を飲んでいた。

一番多いときには、7種類の薬を食後に服用していた。そのためか、ずっと体がだるかった。ずっとマスクをしていたので、親しい人たちが心配してくれた。

僕は隠すこともないと思って、

「肺がんになったですよ」

正直に言うと、皆、一様に驚いた。

肺がんは、死に至る病だという先入観が強い昭和生まれの世代だからだと思う。

患者会にボランティアとして参加している市民病院の医師が言っていた。

「どのようなステージであれ、一ヶ月、生き抜いてください。」

とても心の熱い医師だ。

「一ヶ月、生き抜いてくださいよ。一ヶ月、生き抜けば、その間にまた医学は進歩するんです。新しい治療方法が出てくるんですからね。」


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