四日市高校の生徒の気持ち

 四日市高校の生徒の気持ち


 私の塾の高校生クラスの半数は、四日市高校の生徒だ。ここ「いなべ市」の公立中学校からだと、毎年一学年で3人か4人(100人くらいの生徒数で)しか合格できない高校です。

 つまり、中学校の時は賢い子あつかいを受ける子たち。ところが、四日市高校はそういう子の集まりだから(一学年360人)ちょっとサボると、すぐにビリになるわけです。ほとんど横一線に並んだ学力の子が大半だから、当然です。

 入学して、まず言うのは

「中学校と全然ちがう。アホなことを言う子がいない」

 ということ。騒いだり、教師にケンカを売ったりする子がいない。徘徊したり、大声をあげる子もいない。要するに、デキスギ君のような生徒が多いわけです。勉強をしていても、尊敬こそされ“ガリ勉”みたいな扱いも受けない。

 しかし、しばらくすると気づくんです。

「大変なことになった」

 授業スピードは速いし、平均点も高い。食べて、寝て、風呂に入る以外はすべて勉強しているはずなのに、平均点さえも取れない。まさかの、追試。まさかの、18点。

「まさか、私はクラスの劣等性?」

 ということに気づくわけです。

 それで、5分あれば単語を覚える。良い塾や予備校はないか探し始める。上位にいる子の使っている参考書や問題集を調べる。集中できる場所はないか探す。とにかく、成績を上げる方法を模索し、猛烈に勉強を始める。

 そうなると、気づくんです。

「A先生は嫌いだけど、慶応を卒業したのは認める」

 っていう感じ。バカにしていた人が、実は結構スゴイ人だと気づく。

 私が英検1級を持っていたり、京大二次試験で英語8割、7割の得点であることは、ホームページに公開してありますが、中学生の子はほとんど関心がない。受験に真剣に取り組まない子も興味を示さない。

 しかし、四日市高校の子たちは違うんですね。真剣に勉強し始めると、英検1級の難しさ、京大二次の難しさが分かるから。英検は、三重県だと毎年1人か2人しか合格できないし、京大に合格できるのは四日市高校でも上位の2番以内くらい。

 そのレベルに達することの難しさが分かる子は、私の塾に来てくれる。だから、結果的に「高校生の半数が四日市高校の生徒」になってしまったんです。

 ところで、皆さんは晴れた日の空を見たら「青空」と言いますよね。何のためらいもなく。それと同じで、進学校の生徒は「私は賢い」と思っています。空が青いのと同じ、事実ですもんね。

 ただ、同時に「もっとスゴイ奴もいるけれど」という事実も知っているんです。毎日、すごい子と席を並べて授業を受けているのだから当たり前のこと。

 ちょっと、想像してみて下さい。

 もし、1÷5=0.2 という数式を教室の全員が理解できなかったと想像して欲しい。あなたは、

「なんで、こんな簡単な問題が分からないんだろう?」

 と、不思議に思いませんか?四日市高校の生徒の子たちは、中学校の時はみんな同級生に対してそう感じていたそうです。ところが、高校に来たら、そういう生徒が一人もいない。

 そして、そのうち四日市高校の生徒の知的レベルや生活態度が当たり前に感じ始める。つまり、難解な微分積分ができて当たり前となってくる。その時、

「私は大したことないけど、大多数の人は、そんな初歩さえ理解できないんだ」

 と気づくわけです。

   注意して欲しいのですが、彼らは他の生徒をバカにしているのではないんですよ。空が青いという事実を口にするのと同じように、大多数の生徒が理解できないという事実を口にしているだけです。

 ところが、空が青いと言っても誰も怒らないけれど、「キミはこれが理解できない」と言うと多くの人が怒るわけです。だから、めんどうくさいので、彼らの多くは他の生徒から距離をとり始めることが多い。

 それだけではないんですけどね。他にも、時間に厳しい生活をしているので、待ち合わせの時間に30分も遅れてくるとか、逆に30分も早く来る子とは、生活のリズムが合わないので近づかなくなるんです。

「私は、変人と思われています」

 とは、よく彼ら(彼女ら)が口にする言葉です。

 私も、酒を飲まないし、ゴルフもしない。だから、同年代の人が

「飲みに行こうぜ」

 とか

「ゴルフに行こうぜ」

 と行っても、ついていかない。そんなことしているより、ベクトルや数列の問題を解いている方が楽しいのだけれど、理解はしてもらえない。

 だから、四日市高校の生徒たちの気持ちが分かるし、向こうも

「この先生は分かっている」

 と思ってくれるようなんです。

 「ガリレオ」の湯川先生と内海刑事の会話を見てみよう。

福: わからないなぁ…例えば君が、犬のウンチだとしよう。
柴: はいっ?
福: 犬のウンチだから臭くてたまらない。なのにそれを目の前にして、なぜ臭いのか

   を考え続けるやつがいるか?処理するか、その場から逃げ出すか。とにかく、

   犬のウンチにまともに取り合うのは時間の無駄だ。
柴: …つまり…あたしは犬のウンチ…
福: そうだ。何度も言わせるな。
柴: このどす黒い感情はどうしたらいいの。
福: 感情に興味はない。今日のテーマは、突然頭が燃えたことを別のアプローチか

   ら考えてみようということだ。
柴: んぅぅぅムカつく…
福: つまりそれは自然発生的なものか、それとも人工的なものなのか…

 湯川先生は、内海刑事をバカにしているのだろうか?たぶん、違う。ただ、事実を論理的に考えているだけだ。内海刑事はバカにされていると感じるだろうけれど、湯川先生には悪意はないわけだ。

 受験に追われている受験生は、誰かがどう感じたかを推測する時間の余裕がないので、湯川先生の話は痛快なんです。共感と言ってもいい。タレントが不倫しただの、野球選手が活躍しただの、どうでもいいんです。

 だから、そういうことに夢中な同級生とは距離を置くしかないんです。

 微積分、確率、ベクトル、数列なんて、趣味の世界です。みんなが同じ趣味を持つ必要なんかありません。

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