健康保険についてそろそろ真面目に考えるべき時

あなたが風邪をひいて病院に行って診察を受けるとする。窓口で処方箋と共に1,500円を払ったとすると一般的には3割負担なので医療費総額は5,000円。差額の3,500円は健康保険組合等が負担することになる。

使う方は自分の財布から1,500円しか支出していないからドラックストアで市販の風邪薬を買うよりもお得な感じがするが、5,000円を一旦支払うようにして後で差額を還付するようになったら随分と支出が減るのではないかと思う。因みに、アメリカの保険はこの方法。

実は健康保険の見直しは2年に一回が原則。

ところがこの原則が崩される事態が今年起きて新聞を賑わさせた。

そう当初皮膚がんに効くとして承認された小野薬品の「オプシーボ」。

体重により使用量が異なって来るが、当初の薬価は年間3,500万円。

郊外に一戸建ての家が買える値段だ。

これは当初はメラノーマという悪性皮膚腫瘍という患者数の少ない症例にだけ承認が下りた為。

ところがこの薬が肺がんの一種である非小細胞肺がんにも効果が認められたことから、もしもその患者の半数5万人がオプシーボを使用すると年間で1兆7500億円もかかる事態となった。

有効な治療方法が見つかること事態は朗報だが、高額な医療費負担は我が国の保険財政を崩壊させてしまう。

そこで本来なら2年ごとに行われる薬価改定が急遽行われることになり、半額になることになった。


高額な医療費の原因は薬剤だけでは無い。

医療機器の分野でも最先端の技術を利用した重粒子線治療は入院費等を除いた技術料で平均3百万円、陽子線治療も約260万円掛かる。

但し、これらは先進医療に指定されているので患者はこれらの技術料は全額負担しなければならないが、入院費等は通常の場合と同じ様に3割負担すれば済むことになっている。

先進医療は未だ薬事承認が取れていない、または薬事承認は取れているけれど健康保険の対象になっていない治療方法を、それぞれの出口に向かって検討する為に行われる。

よって保険適用となるとこれらの高額な医療機器による手術の技術料も7割が健康保険がカバーすることになる。

例えば、ロボット手術のダビンチでは胃がんの先進医療が行われているが、ここでの目標は腹腔鏡に比べて術後合併症を半分にするというもの。元々、内視鏡での合併症率は6.4%。

であるからこれを3.2%にするということになる。

費用の目安は入院費等は約63万円。ダビンチの技術料が約113万円で合計約176百万円。

患者負担は入院費等は保険適用があるので約19万円、ダビンチの技術料はメーカが50万円負担するので差額の約63万円、合計で約82万円が自己負担となる。実際には更に入院費等部分には高額医療費制度が適用できるので総額は約72万円となる。保険負担は約50万円。

一方で腹腔鏡手術で胃の2/3を切除してリンパ郭清する場合、費用は全部で約130万円。

全て保険適用なので患者負担は約39万円。高額医療費制度後は約9万円。逆に言うと保険が約120万円負担していることになる。

もしもダビンチが保険適用となるとどうなるのか?

これは保険の点数が幾らになるかで違いが出てくる。

腹腔鏡とのコストの差額が丸々貰えれば個人負担は高額医療費制度を適用した後は約9万円だが、保険負担は約170万円と50万円も多くなってしまう。

合併症が半分に減少して再入院する人が減ることによるコスト減、大雑把に再手術で200百万円掛かったとして3.2%の減少だとダビンチ手術をした全ての患者にならすと約7万円のコスト減に相当、これだけだと50万円のコスト増は正当化されない。

所得減だとか社会的な影響と膨らましても苦しいところだ。

これは一つの例だが、患者の立場では良い医療機器でも保険財政の観点では慎重な議論と検討がなされる必要がある事が分かる。

コスト増の原因が高額な医療機器の価格に有るとして、韓国では政府と国内メーカが協力して腹腔鏡手術と同等の価格になる様な安価な医療機器を開発。承認が最近下りた。

この様な国際的な動きにも着目した保険点数の合理的で公平な設定を期待したい。



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