口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ① 決意編

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この話をするにあたって、

私がどれほどの平凡でダサい人間かを知って頂くために18歳の頃から物語を進めようと思います。

 

私はどこにでもいる普通の少年だった。

高校在学中にチャンスなく

童貞、

彼女なし、

お金なし、

車なし。

父は工業用薬品製造会社のサラリーマン、母は食品加工会社のパート、兄は空港の機内食製造会社のサラリーマン、雑種の犬、アメリカンショートヘアーだと騙されて譲り受けたトラ柄の猫。


四人家族と二匹の家庭である。


家庭の収入は推定だが、おそらく両親合わせ30万円程度であろうと思われる。

一億総中流のスローガンにビタッと当てはまったような家庭だった。

 

私は、高校はかろうじて卒業はしたものの、高校を卒業してストレートにニートになった。

大学受験も、就職活動もしなかった。


本当は、服が好きだったので、

服飾の専門学校に行きたかったのだが…


私「あのさあ、専門学校に進学したいんだけどさあ?(媚びた笑い)」

父「そんな金はない。」


一蹴であった。


それでもしつこく食い下がっていたが、最終的に父から腰の入ったフックを顔に食らい、それ以降、ふてくされて何もしなかったというのが経緯である。

 

周りの友達も様々だった。

もちろん大学に進学する友達もいれば、専門学校に進学する友達、

地元の会社に就職する友達。

そして

もともと高校には進学しておらず就職していた友達や、

すでに高校を中退して就職した友達……


そう、あまり全員パッとはしていなかった。


しかしながらこの時の私は、この世に生を受けてからベイビー時代以来のニートという、とてつもない自由を手にした気がしていた。


もう学校もない、

仕事もない、

バイトもない。(吉幾三風に)

 

ニート当初は欲望の赴くままに寝た。

そして昼過ぎに起床。

夕方になったら友達に電話して合流、

という流れが日課だった。


その当時、たまり場になっていたI君宅

(自分の部屋が有り、

親がうるさくなく、なおかつ友達の親に遭遇しなくても侵入できる良質の物件、

I君も専門学生のため暇人だった)

に毎日といっていい程足を運んでいた。

そしてたまり場でしている事といったら、

麻雀して朝、

麻雀して朝、

麻雀して朝……の繰り返し。


中国人もビックリのライフスタイルだった。


そんな無意味な日々が一か月程度続いていた。

そして麻雀中の会話といえば、


「あぁ、ほんと麻雀しかやることねえよなー。」

「ドライブでもいく?」

「行くとこないじゃん。」

「行ってもいいけどガソリン代割り勘だぞ。」

「中国人ってすげえよなー。なんで麻雀って飽きないんだろ?よく考えたよなー。」

「確かにそうだな。」


一億二千パーセントこの後の人生に影響を与えると思えない内容の会話だった。


さすがに一か月このサイクルが続くと、若干刺激を求めだした。

やはり18歳、刺激といえば女である。


「まじ暇だよー。」

「ナンパでもする?」

「お前できもしないくせに何言ってんの?」

「あ~あ~、パツキンの女が裸でいきなり襲ってきてくれないかな~。」


確実にない。

500万歩譲って襲われたとしても、実際には怖くて逃げるであろう。

ちょっぴり田舎の18歳のボーイズには、ナンパはとても重荷だった。


見ず知らずの女性にいきなり声をかける?

何を話すんですか?


とても繊細なガラスの十代には中々できる事ではなかった。


しかし、その中でも頭角を表し始めたものがでてきた。

S君である。


S「この前さぁ、Hと一緒にナンパしたんだよね。」

「本気(マジ)で!?」

S「いや~、今度の土曜日にHのアメ車でドライブ行くんだよねぇ~。」

「かわいいの!!?」

S「まぁな。中の上ってところかな。しかもギャルだよ、ギャル。(小麦色)」

「まじかよ~。行きたい!」

S「いや~、やっぱり今回は一緒にナンパしたHと行くからさー。

もしドライブからさらに仲良くなったらコンパするよ!」

「頼むぜ!」


その約束は政治家のマニフェスト同様、守られる事はなかった・・・・

 

そんな話もあり、

その頃には毎週土曜日には、友達と名古屋の中心街である栄(サカエ)という繁華街を、車でぶらつくという行動に出だした。



確実にS君の話の二匹目のドジョウを狙っていた。

ボーイズなりに何か(女)を求めて行動を起こした。

その結果が

「車で栄をぶらつく」

というガソリン代だけがかさみそうな方法であった。

そして車の窓越しに


「あのギャル超いい脚してるよ~。」

「ホットパンツ(ジーンズの短パン)たまんねぇな~。B‘Zの稲葉みたいだぞ。」

「いや、でもよく見たらあんまりかわいくねぇぞ。」

「でもあれ、絶対ナンパ待ちだよ。」


窓越しのむなしい会話だった。


欲しくて欲しくてたまらないトランペットを、ガラス越しに見つめるドイツの少年の様なボーイズ。


ナンパする勇気もなく、

ただ1パーセントの確率の逆ナンを期待して…

もしくは、

ドS+ド淫乱な女が裸でダイハードみたいに車のフロントガラスを突き破って飛び込んでくる様なハプニングを期待して・・・。


そう……期待しているだけだった。


ドラマの様な展開もなく、そしてもちろんフロントガラスも無事なまま、何事もなく夜は更けていった……。

 

実家の近くには庄内川という金八先生のオープニングに出てくるような大きい川が流れていた。




たまにたまり場から帰宅する時の、

深夜0時過ぎに、よく川の堤防に原付を止めて川の流れをただただ眺めていた。


「俺、何やってんだろ・・・。」


ため息と同時にでる言葉であった。

彼女もいない。

ケンカも強いわけじゃない。

何か特技があるわけでもない。

ルックスも中の中・・・


いや、そこは中の上と言っておきたい。



毎日毎日、たまり場と家の往復。

やる事といったら麻雀か街をぶらぶらするのみ・・・。

女を週替わりで入れ替え、女のおっぱいを揉みながらアメ車を乗りまわす…


といった中学生・高校生の頃に自分が思い描いていた18歳とは、

正反対の生活に埋もれそうになっていた。


「こんな生活がずっと続くのかな…。」


もう18歳のちょっぴり大人の階段を上りかけている少年だったので涙はでなかった。

しかし、心は涙を流していた様に思う。


「ちきしょう!」


深夜1時の静けさの中、

川は返事もせず、

ただいつもと同じ方向へ流れていくだけだった。


 

やりたい事も無いまま徐々に季節も涼しくなってきて、彼女という響きを求めるようになっていた。


「あ~、イチャイチャしてぇ!」


と一人でつぶやいてしまう程、

病み始めていた。


そんな頃、

水面下でメガトン級のプロジェクトが進行していた・・・

 

いつもの様にたまり場に集まっていた時だった


「ヘッ、ヘッ、ヘルス行かない?」


M君からの衝撃の発言だった。


ヘッ、ヘッ、ヘルスですか!?

あの甘い時間をお金で買う事ができるという?

一歩間違えば奈落の底へと落ちていくといわれる?

ヘタしたら尻の毛までもすべて抜かれてしまう様な危険な状態へと誘われてしまうという・・・


そうHEALTH!!!


たまり場が大騒ぎになった!

ハチの巣をつついた様な騒ぎだ!


「まっ、まっ、まじで?」

「びょ、病気とか大丈夫かな?」

「ヤ○ザとかでてきたらどうする?」

「それよりも高い金払ってブサイクがでてきたら・・・」


18歳のボーイズ+ちょっぴり田舎者達だった・・・。


いや!!

まだ社会へと飛び立ち始めたばかりのボーイズにとっては、そういったジャンルの世間知らずは当然の事であろう。


一方、私と言えば、

少し前に短期のアルバイトをこなしていた。


短期の夏季のアルバイトだったので期間は終了してまたニートへと戻っていた。

つまり時間、日にちともに行けない日などない。

・・資金も潤沢だ。


「いっ、いっ、行く!?」


ボーイズ!インザヘルス!!!

その日から程なくしてボーイズは動いた。

結局その話から決起したボーイズは3名!

私、いいだしっぺのM、以外とエロいIである。


3名のレジスタンス。

革命の舞台は名古屋某所の店名Pである。

もちろん入念にリサーチをしたすえのPである。

なけなしのお金をはたいて行くのだから、やはりブサイクは避けたい所である。


Pへ向かう道中……

やけに車内の空気がピリついている……

やはりみんな緊張しているのか…

もちろん私自身も緊張していた。


車で走る事30分。Pへ到着した。

名古屋駅から徒歩10分程の好立地である。


Pへ入店直前に衝撃の発言があった、


「誰から・・・・選ぶ・・・?」


えっ?

WHY?

どういう事ですか?


「三人いるって事は、優先順位決めとかないと・・・。」


私はハッとした。

ははぁ~ん、車中のピリッとしたムードはこれだったんですね。


ヘルスに行った事がある方ならおわかりになるだろうが、入店してから女の子の写真が貼ってあるアルバムを見せられる。

そして、そのアルバムを見て女の子を選ぶのだ。


今、議題にあがっている問題はアルバムの女の子を選ぶ順番である。

当然、最後の方がブサイクの確率は高いと思われる・・・。


「……ジャンケンするか。公平に。」


異議はでなかった。


誰が考えたかわからないがジャンケン…

とてもフェアだ…。


このジャンケンというシステムにより人々の争いは、全世界で2割は減少したであろう。


緊張が3人を包む・・・・・


「最初はグー!!

ジャン・ケン・ホイ!!!」


ジッ・・ジッ・・・ジーザス!!!


こんな一世一代の大勝負にあろうことか、あいこにもならずに私は敗退した。


順番は、M→I→私 である。


順番も決定した所で、いざ出陣!


「いらっしゃいませ。こちらに座ってお待ち下さい。」


せっ、せっ、せまい!

待合室がとてもせまい!

5畳程度の広さで少し使い込んだ感じのL字型ソファーが一つ、

小さいテーブルが中心に置いてあり、

所狭しと雑誌が並んでいた。


(こんな所にかわいい子が働いているのか?)


そして見渡すまでもなく先客が2名いるのに気付いた。

2人とも欲望のままにヘルスにきているとは思えないぐらいクールな態度である。


「本日はご来店ありがとうございます。ご指名ございますか?」

「いえ・・ないです。(平静ぶった低い声)」

「それでは、こちらのアルバムから女の子をお選び下さい。」


もちろん先ほどのジャンケンの順番が厳格に守られた。


私(おっ、この子かわいいな…)


M「この子お願いします。」


私(次だったら金髪のこの娘だな……)


I「この子で。」


ジーザス!!ガッデム!!


当然であるが、かわいいと思われる娘を両方ともM・Iに選ばれてしまった。

力なくアルバムをめくる私・・・。

アルバムをめくっていると・・・


「この娘、当店でNO1ですよ。」


とショートカットで、私にとってはイマイチパッとしない娘を勧められた。


「じゃあ・・この娘で・・」


初体験のヘルスで粘るほどの根性はなかった・・・。


(はぁ~、50分で16000円も払うのに…なんかパッとしねぇな……。)


もちろんその頃のボーイズには

16000円はとてつもない大金だった。


当時ベストセラーになっていた

「NOと言えない日本人」

という書籍の題名に共感をもった瞬間だった。


待つ事5分


「どうぞ。」

「・・・・・・。」


無言でMが、

まるで戦地へ赴く様な表情で静かにソファーから腰を上げ、

カーテンの奥へと消えていった。


それからまた5分程して


「どうぞ。」

「・・・・・・。」


次はIがクールぶっていたが、

明らかに緊張した様子でカーテンの奥へ消えていった。


そしてそれから10分程度経った頃だろうか、


「どうぞ。」

「・・・・・。」


これだったのか!?

ハイテンションで返事をするわけにもいかず、かと言ってもちろんキレるわけにはいかない・・・。

返事をせずに静かに立ち上がるという理由を、その時私は理解した。


そして自分もカーテンの奥へと進み、

せまい通路のちょうど中間ぐらいに差し掛かったときだった、


風俗嬢「いらっしゃいませ!」


うぉ・・・なぜ君みたいなかわいい子がこんな大人の社交場で働いているんだい?

月に帰りそびれたのかい?

それとも月へ帰る為の資金をここで内緒で貯めているのかい?)


18歳の少年には衝撃的だった。


写真映りが悪いだけで、実物はNO1に恥じないとてつもなくかわいらしい女性だった。


(こっ、こんな娘が私のMY SONを・・?信じられない・・・)


部屋へと通されるやいなや


「じゃあシャワー浴びよっか。」

「ハッ・・ハイ。」

さっき初めて会ったばかりのかわいい女の娘が・・すでに裸になっていた。

スタイルもいい・・。

逆に緊張し過ぎて私のMY SONがクールな状態になってしまっていた!


(コラコラ、お前は恰好つけなくていいんだよ?

逆に女の子は一生懸命な男の子に惹かれるってなんかのアンケートに書いてあったぞ?

どうした?いつものままのお前でいればいいんだぞ?)


・・・・駄目だった。

MY SONは親のいう事を無視し恰好をつけたままであった。


女の子「あれ?なんかダメだね?」

私「いや~、緊張しすぎてるわ。」

女の子「なんで~、緊張する事ないじゃん!」

私「実は・・・・こういう所初めてなんだよね。(それどころか童貞)」

女の子「そうなんだ~。じゃあとりあえずベッドに移動する?」


・・・・・駄目だった。


この時程親不孝な息子をもったと思った事はなかった・・。


さらに自分自身も、弱い人間であった。結局、最後まで女の子に指一本触れなかったのだ。


(触ったら嫌がるかな?)


などとそんな腑抜けた事を考えてしまっていた。


私「ゴメンネ。やっぱり緊張しすぎてるわ・・・もういいよ。」

女の子「そう?こっちもなんかゴメンネ。」


バカバカ、自分のバカヤロー!!


もっと裸を見ていたいのに・・・

もっとおっぱいを見ていたいのに・・・

チキンなハートの自分を責めた・・・。


その後、10分程度だったと思うが

まだ時間が余っていたので、

女の娘と話をする事にした。


私「なんで、ここで働いてるの?」

女の子「ちょっとね・・・・。」


さすが初心者!

楽しい会話ではなく、いきなりデリカシーのかけらもない質問!!

松坂投手並の150キロのど真ん中ストレートを投げ込んでしまった!


女の子「でも・・一か月後に私辞めるんだ。」


えっ?まじっ?

じゃあ一か月以内にまた来ないともう逢えないの?

でもまだバイト代あるし……


私「辞めちゃうんだ・・・。

じゃあ今月中に絶対また来るよ。」

女の子「本当に!?ありがとう!」


そして無情にもタイマーが鳴り響いた。


女の子「今日はありがとね!

また待ってるから!」

私「こっちこそありがとう。」


頭の回路がショートしていた。

指一本も触れてないのに…

ゴールもしていないのに…

途中で相手を気遣って早めにプレイをやめたのに…

16000円も払っているのに……


・・・私は心の底からお礼を言っていた


店の外に出たとき、

私が一番遅く入ったという事もあり、

すでにMとIは待っていた。


M「どうだった?」


私「いや~、めちゃめちゃかわいかった……。まじで。」


I「俺は……まぁまぁだったかな…。」


M「俺も……。」


残り物には福がある!!


この時ばかりは、このことわざを信じた。


それから一週間程度の間、私は恋に落ちていた…。


しかし結局は一人でヘルスに行く勇気などなく、フィニッシュも出来なかった為かイマイチ足がすすまず、

再度Pへ行くことはなかった……。

 

余談だが、その子はその後、

半年経っても風俗誌に載っていた。

大人の世界を少し学んだ私だった…。

 

Pを出た時にはすでに、

夜は長袖でも少し寒いと感じる季節になっていたのに気付いたボーイズ。


(はぁー。俺、何がしたいんだろう?

どういう大人になってるだろろ…。)

 

まったく先が読めない不安、

何かしたい事も別にない焦り、

指一本も触れなかった後悔と少し寒くなった季節のせいか、

夜の空を見上げてつぶやいていた……。



季節は秋へとさしかかろうとしていた。


そんな暮らしをしていたら、彼女なんてできるわけがなかった。

そしてついに私は見当違いの結論に達した。


「・・・車だ・・・。」


自分に彼女ができない理由を車のせいだと考えるようになっていた・・。

今の自分がその頃の自分にアドバイスできるのであれば、


「んっ?

車が君の代わりにしゃべってくれるのかい?

ドラえもんに出演していたバギー君じゃあるまいし・・・

車がないせいじゃないぞ!

恰好悪くてもいいからガムシャラに女にトライしてみなさい!!」


・・・その頃の18歳の私には気づきようもなかった。

 

その当時、私が18歳ぐらいの頃は、とにかくアメ車が流行っていた。

そう、MADE IN USA だ。

古いアメ車のとにかくでかい車が流行っていた。

アメ車でピョンピョン跳ねていれば、女達が行列を作ると勘違いしていた。


友達は、若さ故の勢いのままに、古いキャデラックを360万円のフルローンで購入するという、後先をかえりみないような、

車版バンジージャンプのような購入の仕方だった。

しかし、事実モテていたように見えた。

 

両親が車を二台持ちしているような家庭であればまだ良かったが、残念な事に我が家は車は一台だけであった……


しかも国産の大衆車であり、ゴルフ場へ行くにはベストな車だが当時のギャルにモテる要素は限りなく0の外観であった。


極めつけは、父親がフル活用していて私が乗る隙などなかった。

 

「車を買う」


その目標を達成する為に私は、

高額のアルバイトを探し始めていた。


そして髪を黒く染め、自動車部品製造工場へアルバイトとしてもぐりこんだのであった。


なぜそこを選んだかというと……


時給がとてつもなくよかったのだ。

なんと時給で1400円!!

ちょっとしたスナックのホステスさん並の時給である。

しかし、その高額の時給にはもちろん訳があった。

勤務時間が17時から日をまたいで朝の4時までなのだ。

そう、通常の人が完全に寝ている時間帯に働くからこそ与えられる、

時給1400円というご褒美だったのだ。


それでも、土、日、祝、はしっかりと休みであった。

工場はとても広かった。天井の低い体育館という感じだった。



作業内容は、

まず社員さんが機械でパイプの両端に部品を溶接し、溶接されたパイプが機械から転がってくる。

どうやら、四駆車の前輪と後輪を繋ぐパイプであるらしい。


バイトは、

その溶接して機械から転がってきたパイプを天吊りのラインに流れているパイプ用のハンガーに差し込み、

上部にキャップを付ける。

天井のラインを伝ってハンガーが工場の屋根裏に上がっていき、

塗装され、

また降りてくるという工程であった。


そのパイプが結構重い!

機械から出てくる溶接済みの鉄パイプが二本貯まった所で両手にそのパイプを持ち、鉄製のハンガーに二本セットでかけるのだが、

常に鉄アレイで筋トレをしているような状態になるのだ!


二本持って差し、

二本持って差し、

二本持って差し・・・・


これを8時間である。

途中0時にご飯休憩が1時間あるものの、その時間以外は延々とその作業である。


仕事中の行動範囲は、半径2メートル以内であった。

 

自分自身が機械の一部になった様な錯覚に陥る仕事・・・。


次々に鉄パイプが出てきてそれを両手に持ちハンガーに掛けゴムキャップをつける、その繰り返しだった。


妄想の世界へと旅立つのは当然であった。


妄想以外に自分自身の慰めと言えば、


時給1400円という事


最近俺、ちょっと胸筋がついてきたんじゃない?と胸筋の成長を見守る。


そしてバイトをした一番の理由である

MY CAR 


という理由のみが自分を支えていた。

 

そんなバイトも一か月程経った頃には慣れてきていた。


だが、仕事の終了時間が深夜4時。

友達に連絡などできる時間ではない。


すごい孤独を感じる時間だった。


友達も、勤務時間をわかっているので、平日は連絡もなくなった・・・。


その孤独感からか、

ニート時代に足を運んでいたあの堤防に、たまに足を運ぶ様になっていた。

 

季節はもう秋も終わりそうな頃だった。

そして堤防に足を運ぶ時間といえば、

仕事が終わってからの朝の4時半頃。



冬を控えた秋なのでまだ4時半といえば暗い。

暗い川はいつも通り私の方向からみて左から右へ、以前と変わらず流れていた。

肌寒いせいか、余計に周りが静かに感じた。

川を流れる水の音が、やけに鮮明に聞こえる。


遠くに見える、昼間なら交通量が多い名古屋市と地元を繋ぐ橋も車はまばら、

もちろん人なんて歩いていない。

とても一人ぼっちを感じた。


空からパツキンの女性が降ってこないかな・・・などと考えたりもした。

もちろん降ってくる訳がない。

降ってきたとしてもコンクリートの堤防だ、打ちどころが悪ければ死ぬ・・・。

 

「今日も昨日と同じだったな・・・。

 

溜息と同時に出た言葉だった


「こんな俺を好きになってくれる子なんかいるのかな・・・?」


「自殺なんかする度胸なんかないけど…自殺する人の気持ちが今ならちょっとわからんでもないな…。」


「俺って必要な人間なのかな?俺がいなくたって周りは少したったら俺がいない状態にすぐ順応するに決まってる…。

工場のラインの人がちょっと困るかもな……。」


そして堤防に座っている時によく考えた事は、

 

「人って何が目的で生きているんだろう?」

「何の為に俺は生きているんだろう?」

 

つきない自問自答。

答えのない問題だった。


そして、うっすら遠くの空が明るくなり始めていた。

 

そんな日々を送りながらも着実に目標(モテる車)に向かって貯金をしていった。


しかし、相変わらず彼女は出来ておらず、彼女ができない理由を愛車のジョルノ(50CCの原付)のせいにして、

自分をごまかしていた。


そして……

やはりそんな日々でも時は流れる……。


そんな私も12月で19歳になっていた……。


誕生日は鉄パイプと迎えた。

正確にいうと工場の食堂だった。


最低の誕生日だった。



キュートでラブリーな彼女から、


「誕生日おめでとう!

今週の土日は予定いれちゃだめだよ?

もし土日会えなかったら浮気してると思うからね?」


「おいおい、そんな訳ないだろ、マイハニー?

もし核戦争が土日に起きたとしてもお前と一緒に誕生日を祝っちゃうよ。」

 

さすがである。

鉄パイプに鍛えられた高度な妄想だった。


「そうすることで彼は自我を保ってきたのであろう」

(FBIプロファイリング担当刑事談)

 

いつも通りの平日が終わり。

いつも通りの土日が終わった。



その週だけ早送りになってほしいような最低な誕生日の週だった。

 


年末にはいつから始まったか忘れたが、地元の友達たちが、

私の実家から徒歩15分程度の場所にある神社に集まるというのが恒例行事になっていた。


さすがに周りもたった1年で劇的に変化した友達もいるわけもなかった。

そして自分も劇的に変化をしているわけではない一人であった。

 

 

「そういえば、井出は仕事なにやってるの?」

「・・・・自動車部品の工場で働いてるよ。車欲しくてさ。」

 

その時の自分にとっては、お世辞にもかっこいいと思える返答ではなかった。


明確な自分のやりたい事があるわけでもない。

崇高な目的なんてもっとない。

よくいるちょっとウブな19歳の自分がいた。


その夜、友達たちと徹夜でたわいもない話をしている間にも、たまに自分の存在理由を考えている自分がいた。

 

(また今年も去年と同じ様になっちゃうのかな?)

(人間が生きる理由ってなんなんだろう?)

 

そんな事を考えながらも、友人宅で年越しの桃鉄で熱くなっていた。

 

年明け少ししてから、いつも通り休日にたまり場へと顔をだした。


私「麻雀やる?」

I「駄目だ、麻雀やるとしても三人打ちしができねぇ・・・・。」

私「なんで?どうしたの?」

I「面子が集まらないんだよね。」

私「みんな、何やってるの?」

I「SとHはコンパ、Iは大学の飲み会、Mは仕事の先輩とコンパだってよ。」

私「まじかよー!?」


今思えばどれだけ暇人が多かったんだと思うが、結構麻雀の面子に困る事もなかったのだ。


私「誰かがうまくいったら女紹介してもらうしかねぇな・・・・。」


I「そうだな。・・・でも、誰か彼女とかできたらどうしよう?」


私「ブサイクな彼女なら許す。」


とにかく後ろ向きな会話であった。


結局、麻雀は人数が集まらない為できず、たまり場で二人はテレビを見たり音楽を聴いたり……

傍からみたら確実にホモだと思われるような過ごし方をしてその日は終了した。

 

その日の帰り道、愛車のジョルノを飛ばし、なぜか堤防へ一人で向かっていた。

その時はとりあえず家に帰りたくなかったのかも知れない。

堤防へ腰かけ、川を眺めながら考えていた・・・

 

(みんないいなー。誰かうまくいったら女紹介してくれるかな?)

(誰か彼女できたらうらやましいなぁ・・・。

でも友達の彼女の友達も悪くないな…。)

 

(・・・・・んっ?そういえば俺、なんで人に期待ばっかりしてんだろ?

自分で何も動いてない・・・。


自分がコンパを開催した事もないし、自分がナンパした事もない・・・。


彼女、彼女っていう癖に・・・。彼女が欲しい癖に何も行動してない・・。


人に期待ばかりしている。


今思えば、休日にたまり場に毎回毎回行くのだってそうだ・・・。


たまり場に集まってる友達の誰かが何かおもしろい話を持ってくるのを期待してるからだ。


そう、人に期待ばかりしている。


友達が自分の人生を面白くしてくれるのを待っているだけなんだ・・・。


人が自分の人生を面白くしてくれるのを待っててどうする!!!

自分の人生を面白くするのは自分だろ!)


19歳の自分なりの答えだった。

思えば、中学校、高校は本当に何も考えていなかったように思う。

自分なりに導きだした人生初めての納得できる答えだった。

それからも自問自答は続いた・・・。

 

(彼女・・・

女・・・。

人が生きている理由・・・。

なぜ頑張っていい車に乗ろうとしているんだ……?

…いい女とやりたいからだ……


なぜ頑張ってオシャレな服を買うんだ…?

いい女とやりたいからだ……。


なぜかっこいい仕事をしたいと思うんだ……

いい女とやりたいからだ……。


なぜ金持ちになりたいと思うんだ……

いい女とやりたいからだ……。)


19歳の自分が、

行動の97%をいい女とやるという目的の為に過ごしている事に気が付いた。


(そうだ、人に自分の人生を面白くしてもらうなんて期待するのはやめよう。

自分自身で自分の人生を面白くするんだ!

自分の人生、今一番大事なものは……

アメ車?いや違う…

ブランド物の財布?いや違う…

お金?いや違う…


結局そういう事全部を考えたうえで今、自分が一番求めているもの、興味があるもの……)


(……女。)


常日頃から自分が何気なく連呼していた単語が答えだった!

19歳の自分が今もっとも興味があり、大事だと思う事……女だった。


(女……女か……そうだよ…

俺は今いい女と付き合う、いい女とやりたいっていう事の為に今の生活を送っている。

だったら、毎週末に必すコンパするなんてセコイ事じゃない!

365日女と会うような生活をしてやる!

じゃあそういう仕事は何がある?)


以外と早く答えは出た。

 

(・・・・・・ホスト・・・?)


その年の1月に私は部品工場を辞めた。

 

 

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