口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ③ スタートライン編

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私は非常に疲れていたせいか、起きた時はすでに21時前だった。風呂に入って髪をセットしてまたカバンを持って・・・

そうなのだ、私は親に内緒でホストを始めていた!

 

私の父親はとても昔気質な人間で、高校生の頃にピアスを開けようとした時もロケットパンチが飛んでくるような父親だった。

その理由は、

 

「男が耳に飾り物などつけるな!アフリカ人じゃあるまいし。みっともない!」

 

とピアス一つでアフリカの方をも否定するような具合だった。

とてもじゃないがホストを始めたなどとは言えなかった。

 

「女を相手に商売するなんぞ、許さん!」

 

とロケットキックが飛んでくるのが分かりきっていたからだ。

 

この日も深夜の電車に乗り店へと向かった。

まだまだ不安と緊張は大きかった。

 

店の下に到着したのは23時45分頃、5分程度店の下で待っていたらSさんがやってきた。

 

「おはようさん!」

 

私も深夜だが「おはようございます。」と挨拶を返し、Sさんが店の鍵をあけた後に、Sさんの後へ続き店へと入って行った。

私がタイムカードを押したぐらいでTさんも出勤してきた。

そして昨日と同じ様に3人でおしぼりを巻き始めた。(その他にも従業員はいたが、それは後後)

 

S「そういえば、源氏名どうする?決まった?」

私「いや、まだ決まってないです。」

T「なんかホストっぽい名前のほうがいいよね。」

私「ん~、そうですね~。」

S「じゃあ・・・K○○なんてどうだ?」

私「それ、いいですね!じゃあKにします。」

T「決まりだな!じゃあ改めてよろしくな、K。」

そんな特別なエピソードもないまま、「B」での私の名前はKになった。

 

命名直後はまだ違和感があったが、そのうちにKという名前が本名みたいに自分自身でも感じるようになっていた。

呼ばれれば、すぐ振り返る という具合に。

今思えば不思議だった。

私がホストを辞めるまでの期間で知りあった人は数知れずいたが、

同じ店のホストでも、仲のいいキャバクラ嬢も、指名してくれる風俗嬢も・・・


本名を知っている人間の方が少ない世界であった。

 


みんなそれぞれ自分以外の誰かを演じていたのかも知れない・・・・。

そういう私も本名を人に伝えた事もほとんどなかった。

そして私も相手も、本名をほとんど尋ねなかった。

 

私もホストを続けるにつれ、Kを演じるようになっていたのかもしれない。

 

お客さんがくる時間まではまだ1時間程度時間が空いていた。

空いた時間の中でSさんから、恐ろしい事を教えていただいた。

 

S「そういえばK、気を付けて。うちの店、罰金があるから。」

私「罰金・・・ですか?」

S「そう。まず15分遅刻すると3000円。

だから30分で6000円。

当日に休むって連絡して、休んだ場合は当欠で3万円。

連絡もせず無断で休んだ場合は無欠で5万円だから。」

「まじですか?!気を付けないといけないですね!」

 

その当時、私は奇跡のバカだった。


そんな破格の罰金をとるなど通常ではありえない事だ。

しかし、


ホスト未経験

地元で誰かに聞いてもわからない

スマホもない

スーツの丈は短い


などの理由でそれをまともに受け止めた。

そう、野茂投手並のフォークボールを奇跡的にきれいにミットの中に収めたのだ。

罰金をとるには一応理屈があった。

 

女の子「お店にお金を払うぐらいなら私がお金あげるから今日は仕事行かないで!」

女の子「お店遅刻したっていいじゃん、もうちょっと一緒にいてよ~。」

ホスト「今日ダルイな~。まぁいいや休みで・・。」

 

そういった事を防止する意味もあった。

 

水商売は店でお客さんが来るのではない。

人でお客さんが来るのだ。


そのお客さんを呼ぶ事ができるホストが無節操に休んでいたら店は成り立たない。

 

そうだとしても、罰金の金額や給料体系に関しては他のホストクラブでは、しっかりしている店は、もっとちゃんとしていたであろう。


ホスト業界の中でも、数か月働いたところぐらいで、「B」の色々とおかしい所がわかってくるのではあるが、そのおかしい部分は後で書くとして・・・

とりあえず罰金の話を知った私は、

 

(やっぱりネオンは厳しいな・・・。)

 

と、まだまだ大人には程遠い19歳であった。

 

昨日と同じく1時を少し過ぎた頃ぐらいにNさんが出勤。

Aさんはお客さんと同伴。

Rさんも同伴といった具合に店も忙しくなってきた。

多分どこの店でもそうだったと思うのだが、ホストは売上によって出勤時間が変わる。

 

もちろん、売上があればあるだけ出勤時間が遅くなっていく。

売上がなくても、お客さんと一緒に店にくる同伴であれば1時出勤で良かった。

半月で400万以上の売上を上げると、なんとその次の半月間自由出勤!

 

出勤する日も時間もホスト任せという、一部上場企業の代表取締役のような出勤形態であった!

 

Rさんのお客さんは昨日とは違う女性で、またもやきれいな方であった。

格好はカジュアルなドレスを着ていて、キャバクラ嬢であろうと容易に推測できた。

 

Aさんのお客さんはちょっとラフな格好をした・・・正直、地味なお客さんであった。

風俗嬢だったが、その中でも少し格好には無頓着な感じではあった。

 

私も丸椅子に座って席に着く。

やはりうまくしゃべれない。

店の従業員の人たちにもまだ溶け込めていないので当然かもしれない。

ただ他の人の会話を聞いているだけという時間は長く感じた。

自分の無力さがつくづくいやになる。

 

Rさん、Nさん、Aさんを見て、自分と同い年という事でさらに自信をなくす。

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