東芝の2016年度有価証券報告書にPwCあらたが付けた限定意見を読んでみた

東芝がやっとの事で2016年度の有価証券報告書を提出。ここまで提出が遅れたのは監査法人から「お墨付き」を得るのに時間が掛かったから。しかしやっと貰ったお墨付きは、やや燻んでいる様。

東芝がPwCあらたから得たのは「限定付適正意見」と言う、それだけ見たら良いのか悪いのかが分からない評価。

この監査意見は4つに分かれる。

通常表明されるのが「無限定適正意見」。文字通り、限定することなく全てが適正との意見表明。

そして、今回の「限定付適正意見」。これは一部に不適切なところがあるが、それが財務諸表全体に対してはそれ程重要性が無く適正であるとの意見の表明。「問題があるにはあるが、財務情報を誤解させる程ではないので許し置く。」という感じだ。

これが「不適正意見」になると、適切でないところがあり、かつそれにより財務諸表全体として重要な影響がある場合には不適正としての意見が表明される。日本証券取引所の内規により、不適正意見となると上場廃止事由となるのでPwCは当初これを表明しようとしていたようだが東芝は必死に粘った。

いよいよ何が何だか分からないような状態になると「意見不表明」の烙印を押されることとなる。監査法人としても「お手上げ」ということで、通常はこれを表明される前に監査法人の交代により穏便に悪者役を降りることになる。

そんな時に指名されるのが中堅や個人事務所なのだが、東芝ほどの大企業であると監査に係るスタッフの確保や英語への対応で中々難しく、実際、東芝もこの可能性を模索したようだが相手がウンと言わなかったようだ。


さて東芝に対する意見表明に戻るが、PwCが問題にしているのは東芝の子会社となっていたウェスチングハウス社が2015年度にS&W社を買収した際に買収価値を公正な価格で計上する必要があり、S&W社の請負っていた工事のコスト超過に対する引当金についてすべての入手可能な情報に基づく合理的な仮定を使って適時かつ適切に見積もって計上すべきだったのにこれを行わず、翌2016年度に既に破産法を申請して東芝の連結決算を外れた「非継続事業」に属する損失として6,500億円超の損失を計上したことを前決算期の財務諸表に影響を与えるものとして指摘している。

簡単に言うと、前の年に損が出ることは分かり切っていたのにとぼけて、今期になって連結から外したところでこんだけ損が出そうですと言ったって信用できないよ、と言うこと。


ここで注意すべきところは、PwCはタイミングを問題としながらも、そのような結論を下した経営の体制についての言及を最小限にしていること。

何故、ここが重要かというと、もしも経営の体制に問題があるのであれば、本件に限らずあらゆる数字やプロセスに信用が置けないということになり、その体制で作られた財務諸表も信用に値しないということになってしまう。

そうなると先の分類での「不適正意見」または「意見非表明」のいずれかに該当することになる。

ウェスチングハウスからの内部通報でトップマネージメントの不正への関与がPwCには寄せられていたようであるが、そうなると問題が無いと証明されるか、適切な改善策が取られない限り、他の選択はないはずだ。


それにも拘わらず「限定付適正」という合格点を付けてしまったPwCには東芝同様に大きな責任が課されたと言えよう。


PS. 一応、アメリカ合衆国ワシントン州公認会計士(ライセンス取得済)です。





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