船員養成の訓練船で自殺未遂者、自殺者、失踪者が相次いだ

7月の一カ月という短い期間に練習船「青雲丸」で実習中の海技大学校の学生が相次いで自殺未遂、自殺、失踪とショッキングな事件を起こして話題になっている。

青雲丸は独立行政法人「海技教育機構」が所有する5隻の訓練船の一隻。

そして海技教育機構は戦前の「船員養成所」と「航海訓練所」。

航海訓練所は商船に関する学部学科の学生生徒に対して航海訓練を提供。

商船大学、商船高等専門学校、海技大学校、海上技術短期大学校、海上技術学校が訓練の対象。

日本丸他、全部で5隻の訓練船で操船などの実技を学ぶ。

船員養成所は海員学校と改称を経て2001年いち早く8つの海員学校が統合して海技教育機構へと。

2016年にこれに航海訓練所が合流して今日の海技教育機構になった。


今回事件が起こったのは機構の保有する5隻の訓練船の1隻である「青雲丸」。

1997年に竣工の総トン数5,890、全長116mで、総定員は252名。

内、実習生が180名を占める。この180名が一堂に集まれる階段式教室や6千冊の蔵書を擁する点が実習船としての特徴だが、艦船としても世界一周航海を余裕をもって行える性能を有している。

居住区も木製の家具を多用し、色調にも配慮。十分な防振・防音対策も取られている。

屋根付きの運動場や最近では女子実習生への対応として女子用トイレ、浴室等も整備されている。

実習生の部屋は2段ベットで一室6名の相部屋。


今回の事件について機構が発表している経緯によると、

(1)自殺未遂事案

7 月 13 日未明、小豆島坂手港沖に停泊中の青雲丸から、実習生が海に飛び込み自殺を図った。しかし、泳いでいるうちに陸にたどり着き、その 後、青雲丸からの通報を受けて捜索を行っていた海上保安庁職員が小豆 島の大角鼻付近を歩いていた実習生を発見した。

(2)自殺事案

7 月 21 日、神戸港に停泊中の青雲丸において、実習生がこのまま実習を継続するか非常に悩んでいる様子であったことから、家族と相談する ことを勧め、翌日、実習生は同港で下船し、一旦、帰省させた。

24 日、保護者及び本人から、青雲丸に戻り、実習を再開する旨の連絡 があったが、帰船予定であった 28 日、実習生が名古屋市内で自殺してい たことが警察からの連絡で判明した。

(3)失踪事案

7 月 30 日、名古屋港に停泊中の青雲丸において、自由時間を利用して上陸していた実習生が、保護者や他の実習生に「船を下りて失踪する」と いう趣旨のメールを送った後、行方が分からなくなった。保護者から警察 に行方不明者届が提出されているが、同実習生は現在も行方不明。


今回の訓練は約3カ月の予定で、機構のウェブに掲示されているスケジュールによると、青雲丸の事故前後の動静は次に様になっている。

7月4日 神戸港発

7月14日 神戸港着

7月18日 神戸港発

7月20日 神戸港着

7月22日 神戸港発

7月28日 名古屋港着

7月31日 名古屋港発

8月10日 函館港着

8月14日 函館港発

8月18日 神戸港着

8月23日 神戸港発

8月31日 小樽港着

9月4日 小樽港発

9月9日 横浜着予定

こうして見て見ると青雲丸は神戸港を中心に日本沿岸を行き来して練習に励んでいる。

一回に航海は最長で10日間。停泊地では3-5日過ごしている。

沿海では日本のテレビも見れるし、携帯電話も繋がる所もある。

その意味では長期間船で海の上に閉じ込められたストレスが事故の原因とは考えづらい。


実習生や教官のブログや、訓練後の感想文を見ても、パワハラによる指導は伺われず、むしろ和気あいあいとした雰囲気が伝わってくる。

教官と言っても船乗の先輩であり、自分達と同じ道に進もうとしている訓練生は後輩でもある。

事件に関わった3名は海技大学校の生徒で19-21歳。

卒業して国家試験に合格すれば外航船に乗船できる3級海技士の免許が取れる。

海技大学校は当初は船員の再教育、部員資格者(4級海技士)を職員(3級以上)に転換するのが主な目的だった。日本の船舶に外国人船員を部員として乗せる混乗の推進で要らなくなる日本人部員を職員に登用するためだった。

今では中学卒業後に入学する3年制の海上技術学校を卒業したものが入学するケースが多い。

その意味では寮生活や訓練実習には慣れているはずの3名が、乗船によるストレスでメンタル的に支障を来したとは考えづらい。


卒業生の就職先を見て見ると海運大手3社では川崎汽船に1名。その他、外航船の配乗会社、国内フェリー会社、内航船会社、官庁となっている。ざっと見ると半数近くは外航船、後の半数はそれ以外。

外航海運業は中国バブル後の景気停滞で船腹過剰の状態が続いており、船員の採用についても慎重な姿勢を取っている。

一方で内航船では運賃の低迷が外航以上に酷く、また船員の高齢化が進み産業としての存続にすら赤信号が点滅している。企業の規模も中小が大部分。

中学卒業から船乗になろうと5年位訓練に勤しんで来て、卒業、就職が目の前に見えて来て、はたこのままで良いのかとの迷いが出て来ても不思議ではないのではないだろうか。

商船大学であれば外航船や海運造船関連の企業への就職の他にも大学卒として一般の企業への就職も多い。

今回の事件に関わった学生が海技大学校の学生だったところに短期間での複数の事件の発生の原因があったのではないかと言うのが私の推論である。


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