ドブネズミが90日で社長になった物語【第4章】

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労働地獄の扉が開いた


詐欺で騙されて、僕はお金が必要になったので副業をすることにした。

会社員をしながらの副業なので、居酒屋のバイト以外思いつかなかった。


僕はすぐに知り合いのお店で働き始めた。


時給は700円。

この副業体験こそが、僕の労働人生を思い切り捻じ曲げることになった。


バイト初日。

いつも通り、朝日も出ていない早朝4時半に目覚め眠りかぶりながら出社。

ハゲかけた上司の指示をもらいながら仕事をなんとなくこなし19時に本業を終えた。


労働時間は完全にブラックだったが、その時は当たり前になっていた。


1時間後、ついにバイトの出勤時間の20時。


初めての飲食店でのバイトに僕は心を踊らせていた。


賄いのことや楽しい職場を妄想しながら車を走らせ、

一息つく暇もなくいざ出勤すると、待っていたのはまかないでもなく、楽しい職場でもない。


シンクを埋め尽くすように重ねられた汚れた皿の山だった。


皿洗いがこれほどきついなんて思ってもいなかった。


油まみれの食器をこすり、洗浄機に投げ込む。

ひたすら全力で洗い続けても、次々とホールから汚れた皿が運ばれて来る。


常に前かがみの姿勢は181センチの僕にとっては拷問のような時間だった。


それが深夜1時まで続いた。


翌日は当たり前のように早朝4時半に起きる。


朝5時から深夜の一時まで狂ったように働いた。

休憩は昼の1時間のみ。


あとは一日中、野菜と汚れた皿と向き合った。


はじめのうちは働きながら色んなことを考えた。


これが本当の労働なのか?

僕は労働するために生まれたのか?

労働だけで終わる人生なのか?

これが何十年も続くのか?

他のサラリーマンは何も感じないのか?

好きなことをする自由なんてないのか?


しかし、そんなことも月日が経つと考えられなくなる。


疲労も睡眠不足も感じなくなり、時間の感覚も失われた。

野菜と汚れた皿とアパートが僕の生活の全てだった。


こんな生活を一週間も続けた頃には、感情もなくなって機械のように働いた。

ただの歯車になっていた。


ヤニ臭い上司から怒鳴られ、おばさんから怒られ、バイトでもコキ使われる日々。


慣れない調理では指を切り、火傷もした。

そんなことはおかまいなしに、また朝は来て僕を仕事に行かせた。


会社が休みの日もバイトに入り、完全に休める日なんてスズメの涙ほどもなかった。


いつしかそんな生活が当たり前になっていた。


自分で思っている以上に精神的に追い詰められていたのかもしれない。


少ない睡眠時間にも関わらず、寝ていても皿と野菜が夢に出てくるほどだった。


僕は寝ている時間も仕事している気分になった。


まさしく、夢の24時間労働だった。

ウマいが全然笑える状況じゃなかった。


眠ろうとしても眠れない日々が続いた。

周りの同級生は大学生活を楽しんでて羨ましかった。


僕を騙した先輩を心底恨んだ時もあった。

ハゲかけた上司が将来の自分の姿だと想像するだけで胸が苦しくなった。


いつの間にか自分の時間は1秒もなかった。

おそらく、死んだ魚の目をしていただろう。


生きている理由がわからなくなり、居酒屋のバイトを辞めた。


「辞めます」と告げた時に、店長から白い目で見られた。


一度始めたことは一定期間は続けなければいけない”常識”らしい。


また僕は”常識”を破った。


だが、白い目で見られても不思議と悔しくはなかった。


常識は破ったが、自分の時間は手に入った。


自分らしい人生がちょっとだけ戻って来た気がした。


第5章に続く

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