LNGで走る船が増えていく

トヨタが複数の船会社に液化天然ガス(LNG)を燃料にする自動車運搬船の建造を打診している。この背景にあるのが国際的な排気規制の船舶への適用。

このルールを決めたのは国際海事機関(IMO)。

海洋における安全確保や汚染防止などの国際的なルールを条約として発している。

この条約は加盟国において批准、国内法で具体的な取扱い、罰則が決まられることになる。

今回、規制が強化されたのは船舶の排気に含まれる硫黄酸化物(SOX)。

従来はこれが3.5%まで含まれることが認められていたが2020年以降は0.5%と七分の一に。

船腹過剰による新造船発注量減に悩む造船業界では新規発注増への期待が高まっているようだ。

但し、海運会社による対策は未だこれからの様。

選択肢としては、

①低硫黄分の燃料に転換

②排気から硫黄分を除去するスクラバーの設置

③LNG炊きのエンジンの搭載

が、考えられる。

①の低硫黄分の燃料への転換は現在船舶で種に使用されているC重油に低硫黄のA重油を混ぜるもの。

従来も船舶の発電用エンジンに使われていたが、問題は量の確保と値段。

この混合燃料にすると燃料費は1.3から1.5倍になる。

船舶の運航上、この燃料費は大きな割合を占めるのでインパクトは大きい。

②のスクラバーは、出て来た排気ガスを水で洗浄する方法と固体式の吸着剤、消石灰に吸着させる方法がある。

この方式の問題点は設置のコスト、設置のスペース、重量。

既存船に対する対策の一つと考えられるが、長期間において船をドックで休ませなければならないと船主に二の足を踏ませる要素がある。

③のLNG炊きのエンジンの搭載は新造船への適用になる。

実はLNGを燃料とする船舶は既に多数存在している。

それはLNG 運搬船。

日本郵船のデータによれば2016年3月末で世界で700隻近く(共有船は夫々の共有者で1隻と数える)が運航されており、日本船主・商社が240隻で輸送キャパシティーでは約2割合を占めている。

このLNG船は積み地で冷却されて液体とされた天然ガスを積んで揚げ地まで航行するが、時間が経つにつれて積み荷の液化天然ガスが蒸発してガスになってしまう。

このガスを燃料としている。

天然ガスの主成分はメタン、そしてエタン。

地上で液体する際に硫黄分等の不純物は除去されている。

よって燃やした際に出るものは水蒸気と二酸化炭素のみ。

極めてクリーンだ。

問題点はやはりコスト増。一隻あたり10数億円増加すると言われている。

あとは燃料の確保。冷凍設備のある保管庫が必要でどこでも確保出来るわけではない。

そこで今回トヨタは関係する戦車である川崎汽船やトヨフジ海運を発注者にして複数の隻数を一括して造船所に注文することによって建造費を下げようとしている。

同船型効果と言って造船は学習曲線が大きな産業で、資材の大量発注と相まってコスト減が見込める。

燃料の確保についても最近ヨーロッパではLNGの補給船が登場。

更には自動車運搬船は寄る港が限られているので燃料基地の設置が容易と言える。


トヨタが今回の対策に取り込んだ理由としては、自動車会社として常に環境問題に晒されてきたということの他に、揚げ地で規制違反に問われた際のサプライチェーンの停止を怖れたことがあるかと思う。

特にアメリカにおいては規制違反の船舶は入港が許されず、場合によってはその場で対策を施すことが求められることが予想される。

その様な様々ことを考慮した上での合計2千億円の投資であろう。


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