もう40年も前の、学生運動の話 第五回

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あ? あいつ、なんであそこにいるんや?

「立て看」と呼ばれる板(呼び名は後で知った)の前で、4回生がマイクを持って話し始めた。
おぉ~! 昨日の晩からの経緯とか、非常にわかりやすい! さすがは4回生である。
が・・・、しかし・・・。1回生仲間の一人が、マイクで話す4回生の横に座っている。あまつさえ、女子が差し入れに持ってきたカリントウとか袋ごと食べてるし・・・。
あれ? お前、知らんかった? あいつ、高校の頃から○○○やし。
この「○○○」には、ある有名セクトの高校部の名前が入ります。 ま。Jリーグの「ユース」みたいなもん。
いやいや。知らんかったし・・・。水泳で全日本の強化選手だったのに、なぜかドロップアウトして間違ってウチの学科に入っただけのやつだと思ってたし・・・。なるほど。ドロップアウトには、理由があったのね。
と同時に、なぜ1回生の僕たちの発言力が学科の中で大きいのか? ということも、ちょっとわかったような気がした。4回生に対しても発言力を持つ、ある狭い領域での有名人。そんなやつが、僕たちの中に紛れ込んでいたのだ。
しかも、僕たちはいつもあいつとつるんでた。そして、事情を知らない僕たちは、あいつと分け隔てなくつきあってた。(彼にとって、このことはちょっと新鮮だったらしい)
ふふふ。しめしめ。これは、いいぞ! これで、大学生活も安泰! てな風にしか、当時の僕らには考えられなかった。
今思えば、なんたるポジティブ。言い換えれば、なんたる単純。
下手をすれば、とばっちりでセクト間の抗争に巻き込まれ、危険なことになっていたかもしれないのに・・・。
でもね。神様とため口をきく1回生に、天罰はなかなか下らないのよ。

ステージには、やっぱり敵役も必要だよね

ということで、今回の騒動の一方の主役=大学側の代表者も登場!
今、十分大人になってから考えると、「なんで大学側がノコノコ出てきたんだろう?」と思ってしまう。
だって、大学側としては「学生が占拠しているスペースを取り戻す」という理屈でしょ? 袋叩きにあうのが見えているこの現場に、わざわざ出てくることはない。そう思う。
出てきたのは「学部長代理」という肩書の国文学教授。きっと電話一本で「代理」に任命され、損な役目を押し付けられたんだろうなぁと、今はわかる。
でも当時の僕たちは、そんな大人の事情は知ったこっちゃない。闘争慣れしてる各セクトの理論的発言より、自分たちのスペースを侵された怒りの鉄鎚的叫び始動である。野球でいえば、いてまえ打線爆発である。もう、ボコボコである。
おい。あの先生、教授控室の窓ばっかり見てへんか?
と。ここでまた、変な所に気付く1回生。
この場は4回生にまかせて、別働隊として行動開始。時に罵声が飛び、全学の注目が集まる広場(放送研究会は、この騒動を学内スピーカーで実況していた)を抜け出し、管理棟の中へ。さらに、外の喧騒とは裏腹にひっそりとした廊下を教授控室に向かう。
ん? あれ、誰や? 事務でもないし、先生でもないやんなぁ?
すんませ~ん。みんな外にいるのに、何してはるんですかぁ?
と、声をかけた瞬間。ビクッとしたそのオヤジは、いきなり反対側の出口に走り始める。ソファでこけそうになったり、テーブルの角で腰を打ったりしながらも、あれよあれよというまに、姿を消してしまった。
オヤジがいた窓の前に立つと、人垣の向こうの学部長代理と目が合った。一応手を振ってみたら、先生はギュっと下を向いてしまった。
裏で糸引く悪代官は取り逃がしたが、その指令系統はぶっ壊したようだ。
一応上の階のベランダとか、学部長代理とアイコンタクトが取れそうな場所には、暇そうなやつを歩哨に立てておいて。操られ学部長代理がどうなっているか、興味津々で広場に戻る。
戻ってみたら、当然のことだけど、先生のボコられ具合は増していた。だって、何聞いてもモゴモゴ言うだけで、意味不明なんだもん。
いい加減ボコボコにした後(もちろん暴力は使ってないが)、4回生は「念書」を取ると言い出した。
「ねんしょ」って、何?
僕たちの知能指数は、その程度のものだった。

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もう40年も前の、学生運動の話 第六回

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