IBMで一番びっくりしたこと

以前の職場で「一番」ではないかもしれず、面白い話かどうか私には明言できませんが、以下書いてみます。

私が一人前の営業として活動できるようになったのは、1990年の入社後、丸三年ほど経過した後でした。1993年からということになります。その頃は製造業の中でも装置産業と言われる、石油、化学、鉄鋼、紙パルプ・ガラス・ゴム・セメントといった重厚長大産業を担当する部門に所属していました。

地味な業界で一見斜陽産業のようにも見えますが、実態としては参入障壁が大きく法規制等にも保護されており、あまり競合が激しくないため堅実な名門企業、というお客様が多かった時代でした。

ただしその後、1995年頃から各種の自由化が行われるようになり、急速に競合、国内及びグローバルでの競合が始まりました。その結果、製紙会社、セメント会社、石油元売会社などの合併、合従連衡が行われるようになったことは皆様もご記憶かと思います。国内の業界一位と二位が合併しても、グローバルではトップ10にも入らないケースも多くありました。通産省の保護に守られ、安住していたことが企業の競争力を弱めていたのです。今なお続く日本のガラパゴス体質が顕在化し始めた時代でした。

新米営業の私はお客様のプライドの高さにいつも驚かされていましたが、お客様や先輩にご指導をいただきながら何とか一人前の営業となれたこともあり、給料は安く超ハードワークの日々でしたが意欲的に仕事に取り組んでいました。当時のIBM箱崎は不夜城と言われていました。

さてここまでは時代背景で、以下が本文です。


この頃私は石油業界を担当する営業部に所属しており、年末に上司に呼ばれてある指示を受けました。

そして翌年から私はある特殊法人を担当することになりました。特殊法人というのはご存知のように法律によって設立される法人で通常は上位の省庁の出先機関のような性格を持っています。XX公社、公団、事業団というような名前が多いですね。

しばらくお客様とお付き合いするうちに分かってきたことで、私が驚いたこと、というのはそのお客様の予算の使い方でした。

幕張にあったその法人では当時でも珍しいことにIBMのスーパーコンピュータを導入していました。

当時は今となっては懐かしいベクトル型スパコンが全盛で、現在のようなスカラー並列処理スパコンが誕生しかけていた時代です。そのお客様ではIBM製水冷(笑)メインフレームにベクトルプロセッサーを付加したやや特殊な形式のスパコンをご利用でした(書いていて懐かし過ぎます)。性能面では当時でも既に陳腐化していましたが、汎用機ベースのためプログラミングのし易さが特徴でした。


さて、そのお客様では、当時でも比較的低性能のスパコンに対し、膨大なレンタル費用をIBMに支払っていました。

詳しくは書けませんが、非常に高価なものです。それを割高なレンタル料金(通常2年分の費用で買取できる)で利用していたにもかかわらず、広大なマシンルームの片隅に設置されたマシンの利用者は事実上、ある研究者一名だけ。利用目的はあるソルバープログラム一種類だけ。それも稼働率としては非常に低いものでした。

つまりある研究者の一研究テーマのためだけに膨大な予算を費やしていたのです。もちろん研究のアウトプットでROIが成立していれば良いのですが、私から見ても壮大な無駄と思えました。この予算の元は勿論税金です。

私は何故このような浪費がまかり通っているのかが疑問でしたが、前任の営業からの引継ぎ挨拶を済ませるとすぐに分かりました。このシステムを管理しているのは課長一名、担当者一名の二人だけです。そして課長というのは通産省から出向してきているキャリア官僚で、必ず確実に2年で交代します。従って何も分かっておらず、二年間の任期中、前例を踏襲するのみなのです。勿論予算の制約などはありません。一度確保された予算はかならず翌年も与えられますし、予算を余らせることは論外で、使い切ることが使命なのです。

簡単に書きましたが、私が驚いたこと、というのは上記の特殊法人、官庁の体質と予算運用の実態、という訳です。要約すると税金を元とする予算が殆ど使われないスパコンのために毎年膨大に浪費されていて、それが何等問題視されていないということでした。

私は驚き、内心怒りを覚えましたが、勿論業者であるIBM側から「予算の無駄だからやめましょう」というような提案をする訳はありません。

上記の研究者、課長、担当者(特殊法人の社員ではなく外注さん一名のみ)となるべく仲良く、現状維持でおいしいビジネスをいただくことが私のそのお客様における営業戦略(笑)でした。


上記の状態は永くは続かず、私の担当していた間に結局このスパコンもどきは撤去されることになるのですが、その話はまた別の機会とさせていただきます。このお客様では他の「面白い」エピソードもありましたが、簡単に言うと、いづれも税金を湯水のごとく浪費する、というものでした。現在に至るまで、私が官僚が嫌いで、税金を払いたくないと思うようになったのは、この時代の後、ということになります。

以上、とりとめの無い話ですが投稿させていただきます。

ストーリーをお読みいただき、ありがとうございます。ご覧いただいているサイト「STORYS.JP」は、誰もが自分らしいストーリーを歩めるきっかけ作りを目指しています。もし今のあなたが人生でうまくいかないことがあれば、STORYS.JP編集部に相談してみませんか? 次のバナーから人生相談を無料でお申し込みいただけます。

著者の富田 誠さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。