天才とは一般的に常識の外にいる者である。浪人時代の鹿児島の天才、赤崎という男

「二階から落ちたら怪我をする」、「裸でジョギングをすると捕まる」など。どれも事実である。これらの事実はいちいち確認などしなくても、私たちは理解をして生活をしている。二階から飛び降りたから、怪我をすることを学ぶのではない。私たちにはこれらを理解する知性があるのだ。赤ん坊でさえこの知性は多少なりとも身につけているだろう。でなければ、自由を得た好奇心旺盛な子供達はいっせいに「I can fly」のクスリをキメた窪塚チルドレンになってしまう。

赤崎という生き物がいる。鹿児島出身の鹿児島君に代ゼミで初めて友達になった鹿児島産の生き物だ。代ゼミの医学部コースに通っていた。いってしまえば、エリート予備軍だ。

しかし僕は赤崎(学名:ホモ.アカサキ.ピテクス)を見たときに笑わずにはいられなかった。ガンダムのようなカクカクと動くO脚の二本の歩行駆動部分、笑うセールスマンのように大きい口、「んなんなっだが」と不思議なぬめったい言語を発する声帯、言葉ではこの面白さを伝えられないところがなんとももどかしい。


どんだけ奇妙かというと、小学校の入学式でその面白い風貌から急遽、サクラクラスという自分のペースで勉強をすることができる必要以上に陽気なクラスにドラフト1位でスカウトされたのだ。(次の日に血相を変えた母親がなんとかそのスカウトを断ったらしい。そしてそんなかれは現在防衛医大生である。当時のスカウトマンがもっとがんばっていればなと今更ながらとても残念に思う)


そんな赤崎という生き物はなんともまあどうしよもないやつで、鹿児島にいる親からの月の仕送りを入金されたその日に使い切っては後悔してをしっかり毎月繰り返したり、鹿児島君のパーマを見て、テンパのくせにパーマをあてたりしていた。ちなみにテンパ×パーマはしっかりと大惨事を生み、彼のあだ名は桃太郎電鉄の「ボンビー」になったりもした。そのくせ自信家で口癖が高校を卒業したくせに「俺が一番だから、天才だから」であった。


ボンビーは小学校時代のスカウトマンの腕を実証するかのようにしっかりと知性がなかった。考えればわかることではなく、考えなくてもわかることを平気でするバカ界のアベレージヒッターだった。浪人時代の夏、ボンビー(学名:ホモ.アカサキ.ピテクス)は英単語に好奇心を持ち夢中だった。ボンビーのしゃべる日本語の単語は「鹿児島弁」+「どくどくの滑舌の悪さ」+「んなんなっだが」というなんとも荒い三つのフィルターでろ過されるので人間には通じないことを彼はうすうす気づいていたみたいだ。

「非効率」
そしてそんなボンビーの英単語の勉強法はひたすら単語帳を見ることだった。寮の自分の部屋にこもり、予備校の授業にも出ず単語帳をみる。寮の友人の話によるとページをめくるとき以外全く動かないらしい。そしてそれを丸二日間不眠不休でし、丸二日間寝るという生活をしていたようだ。その姿は単語の鬼、いや修羅。受験生の鏡であるすごい集中力だ。と同時に僕のボンビーはもしかしたらやっぱりあれ系の人じゃないかという疑問が確信に変わってうれしく思ったりした。しかしボンビーが予備校に来ないのはいささか刺激にかけなと思ったり思わなかったりしている頃、彼は予備校に現れて、一周間続けた「二日集中、二日寝る勉強」についてこう語った。




「んなんなっだが、二日目は頭が痛い」彼は科学者が失敗した時のように頭をかきむしりながら、そういった。


「んなんなっだが、二日目は頭痛いから効率が悪いかも知んない」ブレイクタイムなしに彼の台詞が続き、僕たちの頭も痛くなった。「かも」なのである。こんだけして「かも知れない」。科学者は言うだろう「100回やって同じ結果だとしても、101回目は違う結果かもしれない。だから絶対なんて存在しない」。科学の実験の世界では許される、しかし実際の生活で100回も失敗を繰り返すやつはいない。だいたいやる前から失敗は避け、失敗したらもう繰り返さないようにするのだ。

「考えなくてもわかる」
そんな患者の症状はこのコロンブス級の発見と予備校講師の「トイレなどに単語表をはり、毎日英単語を少し眺める。少しなら負担にならない」というお言葉により収まった。そして患者はさっそく寮の自分の部屋中に英単語ターゲット1800をばらして一枚一枚貼ってた。のりで。


「なんでのりではちゃたんだよ。バカ」

「んなんなっだが、セロハンテープなかったからだ」

僕はいつもここでキャッチボールをやめてしまう。もともと僕は大暴投を取りにいくほど元気な方ではないし、もう患者があれの人だろうと納得してたからだ。できあがった部屋は寮の隣人の話によると心霊雑誌に出てくるお札だらけの部屋にそっくりな、なんとも受験戦争の戦士らしい勉強部屋に模様替えされていたらしい。そしてある日患者は気づいた。


「んなんなっだが、これじゃあ裏のページが見れない」できあがった部屋をみて患者は呟いた。


「うん、これじゃあ単語900しかないな」隣人が呟いた。

この時やっと患者はのりで貼ったことを後悔したらしい

僕たちはこの話を聞いてただ静かに、小学校時代にボンビーをスカウトした名も無きスカウトマンに、立派にメジャリーガーの片鱗を見せている彼の勇姿をみしたいとおもった。

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