ヘタレ貧乏、起業する 第9話:店長。

前話: ヘタレ貧乏、起業する 第8話:夢の終わり。
次話: ヘタレ貧乏、起業する 第10話:目覚め。
大業を成し遂げる人間には、
必ず人生の指針となる心の師が存在するもの。
どんな時でも僕が大切なことを見失わないでいられるのは、
あの人がいたからかもしれない。

ヘタレ貧乏、起業する 第9話:店長。

解散から音楽活動は完全に諦め、僕はバイトに明け暮れる日々を送っていた。
音楽を始める前はニートでもまったくなんとも思わなかったのだが、この時は逆に夢を失った喪失感からか、なにかをしていないと不安だった。自分になにかできることが他にある訳でもなく、ただ無心で働き続けていた。それで得られたお金でゲームを買い、ゲームセンターに通い、バイト仲間と飲んだくれる日々。
でも、なにをしてても真っ白。そしてそれ以上に、このまま自分はどうなってしまうんだろうという将来への不安、恐怖に常に付きまとわれている状態だった。一度夢を持つとこういう末路になるのか。これならいっそ、二度と夢なんて持たない方がいい。
そんなことも考えるようになった。
そんな中、僕はバイト先の店長にどん底に突き落とされ、そして人生を変えるキッカケをもらうことになる。この店長は今も僕の人生の指針となっていると言っても過言ではないだろう。

彼は当時、確か37歳。
お腹も出てしょっちゅう仕事をサボっており、いつもヘラヘラしながら「かったりーなー」「休ませてよ~ん!」なんて言っていて、初見ではなんだか頼りない感じだった。それでもなぜか彼の周りのスタッフ達はいつも生き生きとしており、とても慕われていた。

結城
なんでこんな人が?この店大丈夫か?

と最初は思った。
でもしばらく観察していると、仕事には並々ならぬ熱意があることを知る。僕がいた店舗は非常に離職率が高く、新入社員もアルバイトも、その9割が働き始めてから1週間以内にやめていくような職場だった。仕事そのものがキツイというのも原因としては大きいが、それ以上に店長が物凄いスピードでクビにしていくからだ。
一度遅刻した人間には「クビ、明日から来なくていいよ」と言って本当にクビにする。言い訳無用。直接的な理由がなくても仕事ができないヤツだと判断すれば、明らかに辞めて欲しそうにいびる。
これを聞いて、「そんなやつ人間的にどうなんだ!」と感じる人もいるだろう。しかし彼は間違いなく、素晴らしい「ビジネスマン」だ。お客様からクレームがあれば、どんな些細なことであろうと即座に車を走らせ、その人の自宅まで謝罪しに行く。
会社からそうしろと言われている訳でもないのに、どんなに遠かろうと謝罪に行き土下座までする。彼は基本的にいつも怒鳴り散らしているが、本気で「キレた」と感じたのは一度きりで、社員の一人が生状態のお米を出した時、


店長
これをお客様に出したのかお前は!!!

と普段を遥かに超える剣幕で怒りを見せた時、「ああ、この人は最高のサービスマンなんだ」と思った。
いつも事務所でサボっているのも、後に大量の仕事を進んで捌いていたことを知った。

飲食の店長は忙しい。月に一日の休みさえなくても、彼はそれを続け、自宅に帰ったら玄関前で倒れるように寝る、というのを繰り返していたことも仲良くなってから知った。これが保身のためだとか、出世のためだとか、そういうのは問題じゃない。
その上で、ここまで出来る人がいるだろうか?ということに僕は魅力を感じていた。きっと周りのスタッフもそんな感じだろう。僕は彼に理想のリーダー像というものを見ながら、こんなにカッコイイ人間になれるなら、飲食の店長も悪くは無いかなと思い始めていた。
そしてある日、いつものようにバイト先で調理をしていると店長からこんな言葉が。

店長
ゆうきくん、最近輝きがないよ!

と言われ、次の日には


店長
顔が土色してるよ!

と立て続けにいわれた。
土色ってなんだよ・・・

夢を失ってナイーブな僕を更なる絶望に突き落とすには十分な言葉だった。少しずつ心の変化を感じていたのも束の間、その日からまたしばらく意識を失い、記憶も途切れている。
その後の記憶が残っているのは音楽を諦めてから半年後。
僕は人間に戻ることを決意する。
つづく。

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ヘタレ貧乏、起業する 第10話:目覚め。

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