ヘタレ貧乏、起業する 第10話:目覚め。

前話: ヘタレ貧乏、起業する 第9話:店長。
自分で決めたことなのに、
誰かに背中を押してもらわないと動けない人もいる。
押してもらうんじゃなく、
誰かの背中を押せる人になりたい。
僕はこの時、そう思った。

ヘタレ貧乏、起業する 第10話:目覚め。

ぼんやり生きていく中にも、どこかで次の夢になるものを僕は探していた。人間は単純だ。一度夢を持ち、失うと、また同じものが欲しくなる。恐ろしいのは、自殺願望がある訳ではないはずなのに、この頃の僕は「死んでもいいかな」と日々思っていたことだ。
ビルの屋上に行く機会があると、「一歩踏み出して落ちてみたらどうなるだろう?」などとおかしな考えが浮かび、本当に落ちてしまいそうになったこともある。たまに聞く話しだが、こういうことは本当にある。
多分、「生きていても仕方ない」という思いと、「生きていることを確かめたい」という深層心理にある感情がこういう思考を作ってしまうんじゃないかと思う。これをうっかり踏み込みすぎた人が、結果として自殺してしまうのかもしれない。当然そんな勇気はなく、土色の顔をした結城隆行はただ働く。いつものように休憩のため、事務所の扉を開けるとなにやら店長が他のバイトに説教をしていた。

なにについて話していたのかは覚えていないが、僕の人生はここで大きく変わる。
狭い事務所だったので、僕は嫌々ながら仕方なく二人の隣に座り、聞き耳を立てていた。

その時店長がおそらく自分の夢にぐだぐだしていたバイト君に対して会話の流れで

店長
だから自分で決めたことは頑張らなきゃダメなんだよ!
と言った。
僕は、それを聞きながらぽけーっと他人事のように上の空な顔をしていたと思う。
でも次の瞬間、店長は僕の方を向いて


店長
だからお前も頑張らなきゃダメなんだよ!

と言った。
その言葉は体中を駆け巡り、多分、人生で一番の衝撃だった。
至極当たり前で、人生で何度聞いたか解らないくらいのありきたりな言葉。きっと、誰かにその当たり前のことを言ってもらいたかったのかもしれない。

自分で決めたことを頑張る。
そんなシンプルで当然のことができてなかった自分が悔しくて、トイレで泣いた。そしてその時、決めたことは絶対に諦めないでやり抜くことを便器に誓った。僕はいったいその日までなにをやっていたのだろう。バイトをして、食って、寝る。たまに、酒を飲む。
それ以外に、なにをやっていたのだろう。
きっと死んでいたんだ。
今、その時の記憶がほとんどないのは、いじめから人間嫌いになり、ゲームセンターでコインゲームに明け暮れる日々を繰り返していたあの日々の記憶がないのは、僕が死んでいたからだ。同じことをただ繰り返すだけのロボットのような人間だったからだ。
自分で考え、挑戦することから逃げていたから。ひとりではなにもできないと決めつけていたから。今よりも素晴らしい自分や感動に出会いたいと思いながらも、そこへ向かう途中に見え隠れする様々なリスクを恐れていたから。
だから、クニという相棒の才能を言い訳にして、誰かとやれば、誰かがいれば・・・と、自分もがんばる「フリ」をしていただけなんだと思う。

僕はこの日から人生が変わった。
僕はこの日から休むということを忘れた。

こんな真面目な話しの後に○んこをして、バイト仲間に扉を開けられたことは言わない方がいいのだろうか。
つづく。

著者の結城 隆行さんに人生相談を申込む

著者の結城 隆行さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。