3 年前に心が疲弊し、そして荒廃した話

3 年前の 2010 年 7 月 20 日の日記より。
---
知らなかったワケではない。
今日 7/20 のお昼が、マンション全体の断水期間であったことを。

その日 (といっても今日なんだけれど) の僕は、朝イチのビデオ会議を自宅で済ませ、後輩から届いたバウムクーヘンを頬張り、遅めの出勤までの時間を優雅に過ごしていた。
午後の打ち合わせの時間から逆算し、絶妙なタイミングでシャワーを浴び始める。(1)

さて、極めてどうでも良い情報だとは思うが、僕はお風呂に入ると、まず髪の毛から洗い始める。今日ももちろん、そうだ。(2)
また、庶民派の方ならわかってもらえるハズなんだけれど、シャンプーの残量が少なくなってポンプ方式では出にくくなった場合、容器のフタを開けて、直接シャンプー液を手にとる。その際に、どろっと想定以上のシャンプー液が出てしまうことはよくあるミスだと思う。
いつもなら、手際よく使わない分の液だけボトルに戻すエコ男子な僕だけれど、なぜか今日は戻さずに、3日分はあろうシャンプー液を泡立て、ワイルドに頭にぶっかけたのである。(3)

この (1)、(2)、(3) と、断水が組み合わさった時、僕の心は疲弊し、荒廃し、僕は滅亡した。

シャワーの勢いが弱かったことには、始めから気づいていた。以前にもそのようなことはあったし、まぁ多少ストレスだけど気にするようなことでもない。
(3) に記したように、僕は規定量の 3 倍にも及ぶシャンプー原液を利用して、いつもの 3 倍の泡を頭の上で爆発させていた。
その泡の膨張が、最高潮に達したとき、シャワーの水が突然止まったのだ。
この時はまだ、事態の深刻さを飲み込めていなかったように思う。えー、なんだよ、めんどくせー、という感じで、何度か蛇口を開閉して、出水がないことを確認する。今日は台所か洗面台でアタマを流さないといけないのか。そう思って、びしょびしょのまま、キッチンと洗面所をまわり、絶望的な気分でお風呂場に戻ってきた。
確実に我が家は断水している。そしていつ終わるかどうかも、今の自分には把握しようがない。1 時間後には、クライアントとの打ち合わせが入っているというのに、自分は、泡まみれの頭で、全裸で、そして水を入手することができないでいる。

ここにきてようやく焦り始め、トイレの水のことを思い出す。トイレのタンクには緊急用に水が幾分か貯めてあると聞くし、トイレの水もお風呂の水も、イメージの問題を取り除けば何ら変わりはないはずだ。試しにトイレの洗浄ボタンを押すと、水が流れた!いける!と思い、コップを準備して再度洗浄ボタンを押す。が、出ない。何度も洗浄ボタンを連打するも、出ない。きゅる、とか情けない音を発するだけである。
頭からはシャンプーの液が顔に流れ落ち、猛烈に目にしみる。しかしながら水もなく、手も泡だらけの僕には為す術がなかった。
他に我が家の水分は!? と考えてはみたものの、生憎、冷蔵庫の水も切らしたばかり。あとはマッコリとオレンジジュースがあるだけ。さすがにそれはないなと諦めた僕には、トイレの便器に溜まった 2 リットル程度の水分以外、残されていないようだった。
なんとなく、便器にいつも使っているコップを突っ込むのも忍びなく、ちょうど洗面所にあったダウニーの空容器のフタを利用し、それで水をすくった。
ようやくトイレのものとはいえ、水にありつけた僕は、勢い良くそれを頭からかぶる。
寒い。
東京は気温 32℃。当然クーラーをつけていた部屋は、全裸で水を求めて歩きまわった僕には冷え過ぎていた。
さらにトイレの水をかぶったことで、真夏にも関わらず僕は東京の街でひとり凍える羽目になった。
しかし、トイレの水をかぶり、寒さに打ち震える劣悪な環境であっても、人間は数分すると慣れてくるもの。今日は外部との打ち合わせが 2 本あるし、その後は友達のバースデイ・イブのお祝いだ。このまま、体を洗うのも可能じゃないか。そのような欲が出てきてしまったのである。
当社比 3 倍の無駄に多い泡の乗った頭をなんとか洗い終えた僕は、その欲求に従い、体を洗い始めた。
まだトイレの水は半分以上残っているし、なんだかんだ、時間的にもタクシーに乗ればまだ間に合う。そう思っていた時期が、僕にもありました。
洗い流す段階に入り、あることに気がついた。
僕は一般的な男性と比較し、体毛は薄い方である。とはいえ、平均より薄くはあるが、男性であるし、あるべきところには、ある。
そのあるべきところにある体毛部分の泡が、水で流せば流すほど増殖するのだ。毛の部分についた泡を少量の水でゴシゴシやると、余計泡立ったりする、あの現象だ。
これは焦った。40分後にはクライアントとの打ち合わせが予定されている中、僕はまだ在宅で、全裸で、股間の泡は増加の一途を辿っており、そしてトイレの水は底をつきかけていた。
顔も洗いたかったし、これ以上、トイレの水を使い切るワケにはいかなかった僕は、泡を流すのではなく、切る、という方向性を見出した。
水で泡を洗い流すのではなく、チャッと泡を切る、というか、具体的な手法は説明しないけれど、まぁ絶対人には見せることができない動きで泡を切り、どうにかタオルで体を拭けるレベルにまで至った。
こうして僕は、トイレの水を頭からかぶり、凍え、最終的にはプライドを捨て、いそいそと打ち合わせに向かったのである。(遅刻した)

著者の佐藤 裕介さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。