~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 4

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会社はリストラに対して、辞めさせられる社員のためであるという大義名分を打ち出した。否定の声をあげられなかったわたしは、リストラ対象者の処刑人を請け負ったのだ。



頭のなかだけではなく身体中を駆けまわっていた怒りという感情は、
会社に向けられると同時に、無力な自分自身に向けられていた。
後に告げられる具体的な処刑方法について、相槌すらなく聞いているだけだった。

具体的な内容としてはじめに伝えられたのは、大義名分に則った
「自己都合」で退職を導く方法だ。あくまで本人の都合で退職するわけであり、
会社都合のリストラではないことを、言い方を変えながら数回にわたり刷り込まれた。



もう少し詳細にいうと、各自が持つ部下の中で順列をつけるよう命じられた。
下位に挙がる部下ほど、現在の仕事の適正がないということ。
ある意味、その順列づけ自体は間違いではない。
パフォーマンスの発揮度合いにおいては、優劣がついてしかるべきだ。
しかし納得いかなかったのは、20代の若者が多分に含まれていたこと。

学校で学んだ者や制作会社からの転職者を含め、能力が開花する可能性は未知数だ。適性はあるが、それを計れるほどの年月が経過していなかった。
まだまだ、これからの部下が大半を占めていたのだ。



順位の低い部下に対して、面談を実施するように命じられた。
その中で、現在の仕事への取り組み方や、パフォーマンスについて語り合う。
特にパフォーマンスについて深く考えさせることが肝だ。
取り組みに重点を置いてしまうと、やる気があることを主張されてしまう。
しかし、目的は「自己都合で退職したい」と言わせること。

つまり、やる気に満ち溢れている部下に対して、能力がない可能性を自覚させ、

自らの口から「辞めたい」と発言させることがゴールになる。


「このままこの会社にいても、仕事が少ないと気まずいよね」
「仕事が少ないのは、自分のパフォーマンスが低いからだよね」
「仕事がないまま会社にいても、時間だけが過ぎていくよ」
「一年後に転職を考えたとしたら、それまでに能力が高くなるかな?仕事がとれないのに」
「景気が悪くなっているから、後になればなるほど転職が厳しいと思うよ」
などの具体的なトーク例が、講師である取締役から語られる。
「ここで注意して欲しいのは、『評価されない』という言い切ることが禁止なこと」
「言うのであれば『評価されないと、私は思うよ』と主観であることを強調してください」
唖然とする。

「(会社が)評価しない」「(会社が)辞めさせることになるだろう」などの、
会社に責任がある発言はNGワードに設定された。
考えるまでもない。
問題になれば、処刑対象と執行人であるわたしの間で起きた話として処理したいのだ。
話を聞きながら、自分の部下の顔を思い浮かべていた。
中には、わたしのことを慕ってくれていた部下もいただろう。

最後に「自己都合」で退職させる期限を設定され、散会となった。重い足取りで、自分のデスクへと向かう。長時間の会議だったため、相談や決済を求める部下が待っていることだろう。処刑人となったわたしは、どのような顔で接するのだろうか。

答えはでなかった。

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