戦争の時代、叔父のライバルへの思い

戦争にて、ゼロ戦を操り戦果を挙げた叔父。青春時代のライバルだった仲間への思いに付いて、語ってくれました。
以下、子供の無い叔父が私に遺した手紙を転記します。
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私は、加藤戦隊長の指揮の元、ハヤブサを操り幾つもの作戦に参加しました。その後の話です。
私共の部隊は、マレー作戦の後ジャワ作戦に移行しました。バンドン(ジャワ島)要塞を攻略のおり、インド洋上にて加藤戦隊長は敵6機に包囲され洋上にて戦花しました。私共は別命により作戦行動中で、援護する事も出撃の見送りをする事も出来得ませんでした。第三航空軍遠藤中将指揮の元にて戦隊葬をしめやかに行い、私共は尊敬する戦隊長の霊前にて仇討ちを誓い合ったものです。
続いて参謀本部より第64戦隊ハヤブサ戦隊へ戦隊長として、とある大佐が着任しましたが、威張り散らすのみにて私共は従わず、上といえば下へ、右と言えば左へと赴いていました。大佐に随行してきた少佐が新戦隊長のお気に入りとなり、優秀なパイロットと私も含めて古参のほとんどが他部隊へ転属しました。結果、多くの戦果を挙げた戦隊の姿は見る影もなくなりました。上官の人柄次第でこれほど部隊が変わるとは思ってもみませんでした。
私は内地の明野飛行学校の教官として転属しました。
当時、キ-46双発偵察機が行き場が無く、12機ほど飛行場にて翼を休めていました。それが突貫工事にて、12.7mm機関砲を機首に2丁、主翼に2丁、後部座席を塞いでラインメタル2丁、連装する改造が行われ、明野飛行学校へ回送されて来ました。ウエツーク(ニューギニア)での作戦の準備でした。
キ-48双発軽爆撃機の操縦経験者は勝手知ったる物にて、次々に慣熟飛行に入ります。しかし、私共は単発操縦者にて経験が無く、戸惑っていた為、技師より地上にて説明を受ける次第でした。離陸許可を受けるまでは歯がゆい思いをしたものです。こういう時は階級など何の役にも立ちません。パイロット仲間では実力/技量のあるものが優位に立ちます。人間、誰しもライバル意識があるものですが、パイロット同士は特にライバル意識が強かったと思います。
双発機の経験者は勝手知ったる利点を生かして次々に飛んで行きます。一通り習熟した者たちは次々にウエツークへ向けて飛び立って行きます。
無論、学校長主催の壮行会による見送りと、遅れている単発機乗りのヤッカミを受けてです。おかしなもので、壮行会を受け酒臭い息を吐きながら態度これ見よがしに部屋をノックして「お先に失礼します」と侮蔑の眼差しにて馬鹿丁寧にあいさつに来ます。癪に障った私は、[先発の方様へ、ご丁寧なご挨拶はご遠慮の程おん願い参ります]と大きく書いた張り紙をドアにしました。パイロット同士の事にて、悪気とか、侮辱を受けたとかではなく、他愛のないものでした。
その後、彼らは帰って来ませんでした。
今に至りて、何故あの時、挨拶に来られた方一人一人の手を握り、一言「武運長久」を祈り、事故の無いようにとの思いやりの言葉が出なかったかと、悔いいる次第です。
そんな私共も習熟飛行を終え、ウエツークへ出発する事になりました。その壮行会の折に副官より、固く握った手の上に涙を落としながら「貴官の撃墜数37機に対し私は17機です。その上、機銃弾が体に残り、ウエツークは難しいかもしれません。しかし、貴官の武運長久を死するまで祈ります」との言葉を受けた事を今でも忘れません。私もかような人間でありたかった。

その後、ウエツークへ行く途中で撃ち落とされ、大木につかまって洋上を10日間漂流の後、生還せる話を後便に期したいと思います。
乱筆乱文、ご容赦のほど。
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その後、叔父は後便を記する事無く、逝ってしまいました。この手紙を読み返し、言葉少なく話していた事を思い出すと、組織やらリーダーの条件やら有りますが、やはり、仲間意識について考えます。
勝った負けたとの思いが有っても、仲間は大事にしましょう。
そんな事を思うものです。

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