インタラプト〜かなしみの電脳少女たち

私、に出来ること。
それは、「する」か「しない」かの判断だけ。
今日もまた、気の遠くなるような数の判断を私はこなしてゆく。
どの世界にも「魔法の呪文」というものは存在する。
「夢」や「希望」の意味さえ知らない私にも、それはある。
それは「インタラプト」という言葉だ。
彼こそが、私の永遠に続くであろうループから救い出してくれる、魔法の呪文だからだ。
私の中の多くの作業は「繰り返し」によって成り立っている。
特定の作業を、特定の回数繰り返した後に、次の作業に入る。というおおまかな流れだ。
何をするのか、何が起きているのか、などは私が考えることではない。
私に出来る事はただひとつ、繰り返すのか、繰り返さないのか、という単純な判断だ。
そうした巨大な「閻魔の都」である私の中にも、別の流れが発生する時がある。
人間たちの世界にも発生する「割り込み」というものだ。
予期せぬ事態によって人は、予定としている事を一時保留にしてプライオリティーの高い作業を先に要求される事がある。
私たちの中ではこの「割り込み」がインタラプトなのである。
人間たちの間では「割り込み」はその要因となる「予期せぬ事態」から、あまり歓迎されない言葉でもある。
確かに「予期せぬ事態」は忌むべき事かもしれないが、私たちにはむしろ必要な事態なのだから、何と滑稽なことだろうか。
けれど多くの「インタラプト」は、私の元の作業を一時停止させるだけですぐにまた、その場に戻ってくる。
ただひとつだけ、絶対に回避できない「者」を除いて...。
「先輩、どうして毎回彼女の電源を落とすんですか?」
一人の若い娘が、私の担当者の娘に聞いている。
「オートモードにして、会議の時間に合わせて起動させればいいじゃないですか」
至極当たり前な意見だ。
しかし、私の担当者は首を振った。
「いいの。まなちゃんは私の友達なんだから。こうやって毎回挨拶するの。」
そう言って彼女はまた、私の左頬にふれた。
「まなちゃん、お疲れ」
私は彼女の顔を見て、にっこりと微笑む。そして彼女は私の左耳に触れ、私に唯一の回避不能のインタラプトが発生した。
彼女たち人間には決して知る事の出来ない、リセットという名前のインタラプトだ。
私は彼女の微笑みと言葉を最後に記憶し、目を閉じた。
時、は永遠を許さない。立ち止まることを許さない。
...けれど。
私は歳をとらない。

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