誘惑に負ける僕のメカニズム

僕はとても誘惑に弱い人間で、仕事中に雑誌とか読み始めるし、その雑誌を遠くに置いて、封印!とかやっても、でも今 19時47分 でキリが悪いから、20 時までは休憩しようかなーとか言って早速封印を解きにいくわけです。そうなるともちろん 20 時に仕事を開始することもなく、だらだら享楽的な夜を過ごすことになります。
短期的には僕は雑誌を読んで笑ったり素敵な写真を見て楽しんだり、幸福なわけです。しかしながら長期的には目の前の仕事をサボったために仕事が遅れ、売上は下落の一途をたどり、会社の時価総額が目減りし資産総額が激減、そのうち会社は倒産し資産も失った僕は銀座線表参道駅構内で路上生活を始めることになります。
これは何故かというと、遠くにある価値は割り引かれて頭に入ってくるからなんです。遠くの彼女より近くの女友達、みたいな話は、まさにこの生物学的割引率の賜物なんですね。
ここで、人間は「意志」の力を使います。「意志」は長期利益を大きく見せ、短期的な利益に飛びつかなように僕らを制御します。「ダメだ!今日はちゃんとアレとコレの仕事を終わらせるんだ!」と心に誓い、遠くに置いた雑誌をひょこひょこ取りにいきたくなる自分をコントロールすることで、会社の売上を向上させ株式公開し、美人と結婚して子供と犬を連れて代々木公園を散歩する的なことを成し遂げるのです。
さらに「意志」は非線形な効果をもたらします。意志の力で、例えば雑誌の誘惑に打ち勝ってその日仕事を頑張った!という成功体験は自信につながり、意志の力をさらに強化します。前、自分の意志で仕事をキチンと終えることができたんだから、今回もできるだろう。というわけですね。
逆に「今日は絶対雑誌を読んでだらだらしないぞ!」と心に誓ったにも関わらず、僕のように何時の間にやらパラパラ雑誌をめくっていると、あんなに固く決意したのに駄目だったんだから、今回も...という具合に自信を失い、また失敗し、また自信を失い、このように意志の力は猛烈な勢いで影響力を失っていきます。
でもでも、今日の話は「意志の力は誘惑に勝ち、長期的な利益を獲得するためにどうしても必要で、さらに一度崩れるとカオス的な振る舞いでネガティブスパイラルに陥るから頑張れ!」というものではないんです。
もう長くなっているので結論から言うと、意志の力が強くなればなるほど、価値の評価に非論理的なバイアスがかかるようになります。
例えば僕が強い意志で雑誌を遠ざけ仕事をこなし、小さな成功体験を得ることで意志の力は強化され、雑誌を読むことの罪悪感が大きくなります。雑誌を読むことは全く問題ないはずなのに、少しでも雑誌を読むと全てが崩れ去ってしまうのではないかという強迫観念にかられ、雑誌を全て封印しコンビニでも書籍コーナーでは目を閉じて、仕事に邁進し美人な奥さんと子供と犬を連れて代々木公園に遊びに行ったりします。
しかし、結婚から15 年目、子供も大きくなり引っ越しを検討したところで、大昔に封印したはずの雑誌を偶然発見するのです。そこには色とりどりの素敵な写真や読者投稿型の下世話なエロ記事、思わず笑ってしまう企画が掲載されており、「なんだこれ、おもしろいじゃん...」一体自分は何を得て、何を失ったのか逡巡し、あれから接することのなかった (そして昔は大好きだった) 雑誌の写真の上には、一粒の涙がこぼれ落ちるのです。
まぁなんだかよくわからないけど、人の幸福って難しいなーってことです。そういうことをキチンと考えずに短期的な娯楽は悪で、長期的な崇高っぽい理念を語って云々みたいなものを盲目的に高く評価するやつはうんこだなと思います。
#- わりと昔に書いた文章です

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