作業中に声を出してはいけない工務店の話。

少し前のこと、松江の飲み屋で、24歳の若者に会った。15歳で鳶になり、いろんな悪戯もしたようだが、今は工務店を経営するイッパシの社長だ。


面白い話だった。彼の会社では、どんなにベテランの鳶でも、ヘルメットに初心者マークを貼るのだという。プロの職人の自信やプライドは、えてして油断に繋がりやすく、命を落とすことになるからだ。初心者マークは、いわば鳶の初心を忘れないための決意の表れなのだろう。


もう1つ。彼の会社では作業中、「危ない!」などの危険回避を除いて、いっさい声を出してはいけないのだそうだ。意志疎通は顔の表情と身振りだけ。それゆえ、朝、昼、15時のミーティングでは全員が集中してリーダーの話に耳を傾け、自分の役割と作業段取りを理解しようとする。そしてそれが、作業の効率化を促すという好循環が生まれているのだ。


「現場に張り付いて、全部自分で考えてやってます」という彼は、とてもいい顔をしていた。日本の地方都市の若者も、捨てたもんじゃない。 

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