【11】パニック障害と診断された私が飛行機に乗って海を渡り、海外で4年暮らしてみた話。

【11.まだ帰れない】


仕事仲間であり、仲良しの友達だと思っていた人と絶縁状態となり、しばらく落ち込んだけれど、周りの友人に あなたが間違ってたわけじゃない、と励まされ、私のワーホリ生活は滞りなく順調に過ぎていった。

長く働くにつれ、任せてもらえる仕事は増え、ただのクリーナーだった私は、気づけばレセプションを任され、リッキーもマネージャーも不在の時は宿とカフェバーの経理までやっていた。
最終的には、レセプションとカフェバーでの調理やコーヒーメーカーのバリスタ、接客、苦情処理なんかもしていた。

ワーホリだった仕事仲間は、皆旅立ってゆき、私はNZ人の中で唯一の外国人スタッフとなっていた。
そんな私にも、この職場を離れる時がくる。
あっという間に一年が経ち、私のワーホリビザも残り1ヶ月を切った。

結局私は丸一年ここで働き、ワーホリスタッフでは異例の昇給までしてもらった。
そして私はまた、人生の岐路に立っていた。


日本へ帰国するか
それとも残るか…
答えはとっくに決まっていた。


NZに残りたい。

このままでは帰れない。


私の英語力は飛躍的に伸びていたし、もし今ここで
大阪では毎日カーニバルなんだろ?
といわれたら、すぐに誤解を解いてあげられるし、
コーヒー屋で買ったもの全部を
ここで飲むか?
と聞かれたら、そんなわけないだろ!とすぐに切り返せる。


でもまだ帰れない。
25歳を過ぎて日本社会から離脱し、時間とお金をかけて海外へ来てしまったからには手ぶらで帰るわけにはいかなかった。

せめて、日本に帰った時に胸を張れるようになるまでは帰らないと決めた。


早速ビザを切り替えるための申請をして、パスポートをイミグレーションに送った。

何度かイミグレーションから電話があり、追加の書類も出して審査の結果を待った。

私が申請したのはただの観光ビザ。
本来日本人には必要のないビザだが、私はNZでの滞在が長すぎて、とにかく滞在許可が必要になったため観光ビザを申請していた。


長い審査期間を経て私のパスポートが返送されてきた。


ビザは降りなかった。



15日以内にNZから退去しなさい という手紙と、さらにもう一通。





次回NZに入国するときは、フル健康診断書を提出の上、観光ビザを再度申請すること。



あり得ない条件の提示だった。

私はワーホリの申請時にフル健康診断を提出していたし、一度提出した健康診断は2年は有効のはずだ。

さらに私は日本国籍の日本人。
90日以内の観光入国の日本人にはビザは必要がない。


それでも私にはそれらが課せられた。
イミグレーションに確認のメールを送ると、日本人でもあなたは入国にビザが必須です!と宣言された。
そしてその上、それは永久に変わることのない条件だとまで言われてしまった。
何度もビザを切り替え、ワーキング "ホリデー" でビザの限り働き、それでもまだNZに居たいと公式に表明してしまった私の意思は、不法滞在予備軍とみなされてしまったのだった。


仕方が無い。
NZを出るしかない。
法を犯すわけにもいかない。

でも、まだ帰れない…



そして私が取得したのは、オーストラリアのワーキングホリデービザだった。


隣国のオーストラリアは、もちろん英語圏で、経済はNZより格段にいい。
そしてオーストラリアは、ワーキングホリデーで最長2年間滞在できる。

迷うことなくオーストラリアいきを決めた。
オーストラリアのワーホリビザは、1週間足らずで発行された。

We hope you will enjoy your stay in Australia 
オーストラリアでの滞在を楽しんで頂けることを祈っています。

オーストラリア移民局からの歓迎の一文に、NZ移民局に一蹴された私の心は弾んだ。


無事にオーストラリアのビザを取得し、周囲の友人たちへお別れの挨拶に回った。

特に親しかった友人の一人、NZ人のCは自分のフラットでディナーを作ってくれた。
現地就職した日本人の彼女がいたCは、いつも彼女と一緒に会いに来てくれていた。
でもその日はなぜか彼女の姿がない。

食事が終わると、カウチでビールを飲みながらCが話し始める。


今日は彼女には遠慮してもらったんだ。
彼女が居るとリサは英語を話さなくなるからね。
僕はリサと話したかったんだ。
彼女は完璧に英語を話すから、確かにリサが話さなくても彼女が訳してくれる。
僕はそれでも構わないけどね。
日本語も勉強したいし。
でもそれじゃあ君は一体何をしにここへ来たの?
英語を勉強しにきたのなら話さないと意味がない。
そして僕はNZ人だからね、格好の相手じゃない。
勘違いしないで、英語を話さないのがダメと言ってるわけじゃない。
でも、もし君が彼女に引け目を感じているならそれは間違いだよ。

だってリサの英語は十分上手だから!
何を言ってるのかちゃんと全部わかるから。
だから自信を持って欲しい。
それにもうすぐオーストラリアに行くんでしょう?
今、NZ生活が長くなってきて日本人の友達もどんどん減って寂しい思いをしていると思う。
でも、それこそが本当に君にとっていい環境なんじゃないのかな?
オーストラリアに行ったら、きっと最初は今よりもっと孤独で辛いだろう。
でもそういう時こそきっと人は成長するんだ。
がんばっておいでよ。僕たちはいつもここに居るから。
本当に辛くて苦しくて耐えきれなくなったらいつでも帰っておいで。

全部Cには見透かされていた。
私はCの彼女がいる時には絶対に英語を話さなかった。
日本人同士で英語で話すのも何だか気持ち悪かったし、彼女の英語が完璧すぎて自分に自信が持てなかった。
それをCは思いっきり覆しにかかって来た。
そしてすべてがCの言う通りだった。

すぐにシドニー行きの最安チケットを予約し、ビザが切れる前日の早朝に2年弱住んだ小さな町を出た。
バスに乗る私を何人かの友達が見送ってくれた。

中でも特に仲良くしていた仕事仲間のNZ人Jは、最後に物凄くきついハグをして、 I love you と言って泣いてくれた。
外国人にとってのアイラブユーは、日本人が思うほど簡単な言葉ではない。
彼らは滅多にアイラブユーなんて他人には言わない。
本当に愛している家族や恋人、友人にだけ惜しみなく使うのが本当のアイラブユー。
もし、出会って間もない人や街のパブやクラブで出会った人に即アイラブユーなんて言われたら、そこには99%下心があると思って間違いないだろう。
真剣に付き合っている恋人にすら、真剣に付き合っているからこそ簡単には言えない言葉なのだ。

さて、オークランド空港に到着し、翌早朝の飛行機で私はとうとうNZを出国した。


今思えば、ここからが本当の意味でのワーホリの始まりだったのではないかと思う。


オーストラリアで私を待ち受けていたのは、友人Cが言っていたとおりの

孤独で辛い日々だった。

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