500円ビニール傘のいい話
捉え方次第で、世界の見方は変わるものだ。
これは、そんな話。
私はまれに趣味で外国人観光客に東京を案内している。
先日案内したのは、ポーランド人の男女4人組。
日本のローカルバー、即ち居酒屋に興味があるというので、
早速、有楽町のガード下の飲み屋街へ連れて行った。
ちょうど混み合う時間帯で、呼び込みが声をかけている。
「へい、らっしゃい、らっしゃい」としきりに、手をパチンとならしている。
どうやら外人さんたちは、私に出会う前、浅草へ寄ってきたらしい。
その様子を見た彼らは、興味深そうに私に尋ねた。
「あれは、お寺で手を合わせて祈る慣わしと同じなのですか?」と。
いや、あれはまた別で、あれは単なる呼び込みだよと説明すると、
納得いった様子でうなづいていた。
居酒屋でひとしきり刺身や日本酒を堪能した後、
店を出ると小ぶりの雨が降っていた。
安手の500円のビニール傘を差している人をあちこちで見かける。
すると、案内していた一人が感動した様子でビニール傘を見ているではないか。
「どうしたの?」
「日本人は本当にすばらしい!」
「え? どうして?」
「あの透明の傘は、雨の日でもちゃんと景色を愛でるための日本人の工夫なんだろ?」
絶対違う!と内心思ったが、それは言わないでおいた。
彼らの素敵な勘違いをそっと、そのままにしておきたかったからだ。
以来、ビニール傘を見るたびに、
あれは雨の日でも世界の美しさと向き合うための道具なんだと思うことにしている。
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