学生時代、食べる物に困っていた時に触れた人の優しさ
学生時代に下宿して一人暮らしをしていた頃、学生の傍ら俳優の養成学校にも通っていた。
生活はそれなりに充実していたし学校も楽しかった、でもとにかくお金がなかった…
養成所の月謝や飲み代、遊びやらでお金を使い果たした翌月に残った食費は1ヶ月で1万円。。。
一日の食費が300円…
とにかく切り詰めた。安いお米を買って炊いた、今まで自炊した事のなかった僕が炊いた。
一パックで5袋入っている298円のインスタントラーメンを買って炊いた、
今まで自炊した事のなかった僕が炊いた。
それでもお腹がすいた、それで思いついた、パン屋さんの事を。
(この前、テレビか何かでパン屋でパンの耳はタダで貰えるみたいな事言ってたな~)
こうなったら居ても立ってもいられない。僕は下宿先のアパートに停めているマウンテンバイクに飛び乗り駅前のパン屋に自転車を走らせた。
それ程距離はないのですぐにパン屋さんに着くと何食わぬ顔で店内に入った。
大学に近いという事もあり学生が何人かいた、女の子もいる。
(パンの耳欲しい言うなんて恥ずかしいな~)
僕は若かった、うぶだった。
辺りを見渡した、さもやパンでも数個買おうかという面持で。
チョコチップメロンパンに、お!フランクフルトのパンもある!!おいしそうやな~♪という面持で。
そうこうしているうちに辺りにいたお客さんたちはさっさと買い物を済ませて店内から出ていった、他に新しいお客さんが入ってくる様子もない。
「今だ!」まるで人造人間20号のように心でつぶやき店員さんにパンの耳を貰うよう声をかけようとした。
中腰になってなにやら作業しているその人はアルバイトと思われる妙齢の美しい女性でした。
パンの耳が欲しい言うなんて恥ずかしいけどここで食い下がる訳にはいかない。
僕は意を決してその女性に声をかけた。
僕「あの…パンの耳って置いてありますか?あの、、その、、」
その女性はしばらく、はて?という表情を浮かべていたが事情を察してくれたのか、その後すぐに笑顔で
女性「ありますよ^^50円しますけどいいですか?」
僕は二つ返事でいいですよ、と答えるとその女性は工房の中に入りパンの耳を袋に入れて準備しながら店主と思われる男性と何やら話している。あ~なんか馬鹿にされてるのかな、持ち前のネガティブ思考が止まらない、走り出した列車は止まらない。
(あ~早く外に出たいよ~。)
しばらくするとその女性が出て来てどっさりパンの耳が入った袋を僕に渡してくれた。こんなに入ってるなんて!僕はその女性に感謝しつつ50円を笑顔で手渡した。
それでも恥ずかしくて僕はすぐに立ち去ろうとするとその子が無表情でカウンターからすばやく出てきた。
その子は辺りにあるチョコチップメロンパンやフランクフルトのパン、他にもおいしそうなパンを何個かすばやく袋に入れて僕に手渡した。
え?僕は唖然としていると「いいから、いいからとっときな」という仕草をして店主にバレないよう気遣ってくれたのか店外に僕をすばやく導いた、お金を払っていない僕を。
あれからもう10年以上経ちますが今でも忘れない、それは12月のクリスマスシーズンに彼女もいない飯も食えないひもじい僕の心が温まった瞬間だった。
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