400以上の自治体に導入される母子手帳アプリ『母子モ』、誕生から現在までの軌跡
母子手帳アプリ『母子モ』は、2015年からスタートした、母子の健康データをスマートフォンやタブレットで簡単に記録・管理できる電子母子手帳サービスです。
現在では400以上の自治体で導入され、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、自治体と子育て世帯をつなぐツールとしてさらに注目されています。
コロナ、デジタル庁の発足…社会の著しい環境変化が起こっているなか、令和時代にはどのような子育て環境が必要とされているのでしょうか?
第1弾となる今回は、『母子モ』を運用・開発するエムティーアイ ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業統括部 統括部長である宮本大樹に、サービス誕生のきっかけや開発時の苦労、そしてこれからの子育てに求められるものについて聞きました。
行政でのデータ活用の必要性が高まるなか、スモールスタートした『母子モ』
―2015年からサービスがスタートしましたが、開発のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
宮本:
2014年に総務省が実施した「平成25年度ICT街づくり推進事業」のひとつで、千葉県柏市で実施された、公民学連携による“柏の葉スマートシティプロジェクト”に参画したことがきっかけです。
産官学でスマートシティを活用して、ICT化の取組みが何かできないか?と考えたところ、誰もが使用している紙の母子健康手帳を電子化するというアイデアが生まれました。
当時は、まだ社内でもサービス化する前で、まずはトライアルとして行政のICT化を小規模から開始し、実証から得られた知見をもとに、本格的にサービス化の検討を進めていきました。
サービスが開始した2015年は、「地方創生元年」とされ、国として今後の地方創生の取組み方針が定められたタイミングでした。安心して結婚・妊娠・出産・子育て出来る社会を達成していると考える人の割合を40%以上にするという基本目標が掲げられて、“妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援”や“子ども・子育て支援の充実”が挙げられました。
また、2011年の東日本大震災で発生した津波の影響により、母子健康手帳を紛失した妊産婦を対象に、2009年4月から運用されていた「いーはとーぶ」(岩手県周産期医療情報ネットワークシステム)に記録・保管されたデータに母子の健康情報を残すことができたことをきっかけに、デジタルを活用したデータの記録に対する認識が高まりつつあったと思います。
行政と住民が求めるギャップに苦戦…。本当に使われるサービス誕生までの軌跡
―『母子モ』を開発していく中で、どのような点がハードルになったのでしょうか?
当社は、基本的にB to C(C=Consumer)の消費者向けサービスを提供してきました。しかし『母子モ』は、B to G to C(G=Government)なので、行政を対象としたサービスならではの苦労がかなりありましたね・・・。
自治体(行政)が求めていることと、子育て世帯(消費者)が求めていることにもギャップがあるので、双方のバランスのとり方に苦労しました。今でも、日々苦労している点です。(笑)
自治体(行政)は、「情報を子育て世帯に届けたい!」という思いが強かったため、当初はその要望を優先して「自治体の子育て情報」が目立つデザインにしていました。しかし、実際に運用してみると、住民が使いやすいサービスデザインとは乖離がありました。我々は女性の健康情報サービス『ルナルナ』や、『music.jp』などのエンターテインメントコンテンツなどを開発・運用しているので、実際に利用するユーザーのニーズに沿ったアプリを目指していますが、導入いただく自治体の要望も取り入れ、双方がより便利で使いやすいサービスにしていく必要があり、その擦り合わせにとても苦労しました。
また、紙の母子健康手帳の内容の中から、電子化するべき項目を取捨選択することにも悩みました。実際に子育てしている人へのヒアリングと、母子健康手帳を何度も読み込みながら挑戦する毎日でしたね。(笑)
入れ込むコンテンツの取捨選択だけではなく、離れて住む祖父母へ子どもの成長の様子を知らせる「ファミリー共有機能」を新たに追加するなど、紙にはないデジタル化ならではのメリットが感じられるサービス開発を行ってきました。
このような関係各所と調整しながらサービスを開発・改良し続けた結果、子どもの成長(妊娠週数や生まれてからの月日)が一目でわかり、予防接種スケジューリング機能がキラーコンテンツとなった、今では約400の自治体で導入されている『母子モ』が誕生しました。
予防接種スケジューリング機能は、接種数が多く紙だと管理がしづらい赤ちゃんの予防接種の予定日を、自動で管理しプッシュ通知で知らせしてくれるため、子育て世帯から高い評価をいただいています。
“誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化”実現の難しさ
―他にはどのような行政向けサービスならではの難しさがありましたか?
宮本:
令和2年12月に閣議決定された、「デジタルガバメント実行計画」の「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」 というビジョンに従ってサービスを提供していく難しさを痛感しています。
でも、“誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化”のもつ意味は、対象範囲はすべてということなので、スマホを持つすべての人が使えるサービスにする必要があるんです。
アプリの場合は、スマートフォンのOSのバージョンによって、利用できる範囲が異なります。例えば、機能を入れると、Aさんは使えない、でも違う機能を入れると、Bさんは使えない、という事象が、開発上多発します。しかし、ビジョンの実現のためにはAさんもBさんも使えるサービスにしなければならない。
また、行政による様々な手続きなど、本当はすべてオンラインにすればもっと簡単なのかもしれません。しかし、“誰一人取り残さない”ためには、オンラインだと対応できない人もいます。
“誰でも使えるサービス”は、スピード感に欠けたり、どこか不便な側面な点が出てきてしまうことが多く、行政サービスをとして提供する『母子モ』としても、課題点ですね。
このようなせめぎ合いがある中で、3年後、5年後、10年後がどういう社会になっているのかイメージし、現在できる最適な形でサービス設計することが本当に難しいのですが、『母子モ』はその難しさを解決しながら挑戦を続けていきたいと思っています。
苦しい戦いではありますが、よりよいサービスを提供するべく、日々開発を進めています。
一気通貫型の子育て支援が求められる社会に
―サービス開始から6年、どのような変化があったのでしょうか?
宮本:
サービスが開始した2015年から、子育てに関わる様々な法律が施行されていきました。
【子育てを取り巻く時代の流れ
】
2015年 子ども・子育て支援新制度が施行
└認定こども園をはじめとする小規模保育が充実するなど、地域に合った子育て支援が広がり始める
2016年 児童虐待防止対策の強化を図るための「児童福祉法等の一部を改正する法律」成立
└2022年5月に施行予定
2018年 「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(以下、「成育基本法」)が施行
2021年 「母子保健法の一部を改正する法律」で、産後ケアの充実の重要性が注目
「成育基本法」は、妊娠・出産・子育てまで切れ目のない支援を目的としている、“子どもの権利”が言語化され、孤立育児などの現代抱えている問題解決にもつながる新たな法律です。
成育基本法の施行をきっかけに、全国の自治体では一気通貫型のサポートを実施することを目的とした子育て支援包括支援センターが開設され、切れ目のない支援ができる体制が整ってきています。
『母子モ』も、妊娠期から子育て期まで一貫してサポートできるサービスとして提供しており、成育基本法の“切れ目ない支援”という理念は、当初から念頭に置いていますね。
法改正により、自治体の子育て支援事業も変わっていくため、常にその変化に合わせて自治体や住民をサポートするサービスへと進化できるよう、対応しながら運用を進めています。
次回インタビューは、新型コロナウイルス感染が子育て世帯にもたらす影響や、子育てに関わる行政のデジタル化について伺います。
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