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地震による大画面テレビの転倒を防止せよ!~ビエラの転倒防止スタンドの開発~

著者: パナソニック株式会社 コミュニケーションデザインセンター



左から

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社

ビジュアル・サウンドビジネスユニット

商品企画部 野村 美穂

技術センター 機構設計部 本多 和也

技術センター 機構設計部 河崎 敬

技術センター 機構設計部 川副 嘉郎


パナソニックのテレビ「ビエラ」の大画面モデルには、地震に強く倒れにくい「転倒防止スタンド」が搭載されていることをご存知でしょうか。

テレビの大画面化が進むにつれ、地震などによる転倒の危険性はますます大きくなっています。パナソニックでは、テレビがかんたんに倒れるのを防ぐ機能として、2018年から毎年、4Kモデルに転倒防止スタンドを導入し、搭載モデルの拡大を大画面テレビも含めて進めてきました。

なぜそんなに揺れに強いのか、あの薄いスタンドの中身はどういう構造になっているのか。パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社の開発担当者が語ります。


阪神淡路大震災でも倒れない!転倒防止スタンドの実証実験動画

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新モデルが発売されるたびに、阪神淡路大震災や東日本大震災の揺れを再現した実証実験を第三者機関で実施しています。



どうなってるの?転倒防止スタンドの中身


実証実験映像からもわかるように、震度6程度の地震でも倒れないというビエラの転倒防止スタンド。いったい、どのような仕組みで転倒を防ぐのでしょうか。


本多:転倒防止スタンドの底面には円形の樹脂パッドがあり、これが吸盤のような役割を果たすことで転倒を防止します。ただ、通常の吸盤と違うのは、普段はテレビ台に吸着しているわけではなく、倒れようとする力がかかった時にはじめて吸着するという構造になっているところがポイントです。この構造で、2018年に特許申請をし、2021年に取得しています(特許第6827185号)。

初代の転倒防止スタンドを開発した本多(写真右)。


スタンド底面の吸盤がテレビ台に吸着し、転倒を防止


転倒防止スタンドの仕組み

倒れようとする力がかかると吸着する、という仕組みは理解できました。では、テレビを移動させたい時に動かせなくなるのではないかという心配はないのでしょうか。


本多:ご心配なく。このスタンドにはスイッチがついていて、これをオフにすることでパッドの内部に空気が入り、吸着状態が解除されます。吸着オン/オフが、スイッチ操作でかんたんにできるという仕組みです。


吸盤部に空気の流入口に設けた弁を操作する吸着スイッチ。オフにすれば吸着機能は解除され移動が可能。


開発の原点は、お客さまにあった「テレビ転倒への不安」


業界に類を見ないという、ビエラの転倒防止スタンド。このアイデアは、いったいどこから生まれたのでしょうか。本機能の構想時から担当している、商品企画の野村にたずねました。


野村:テレビの大画面化・薄型化が進むなか、当社アンケートによると、約3割の方が転倒への不安をお持ちでした。一方、従来のビエラには転倒防止バンドを同梱しているのですが、なにも転倒対策をされていない方は4割ほどいらっしゃいました。


転倒防止バンドは、ネジを使ってテレビ台などに固定する必要があり、「テレビ台を傷つけたくない」「取り付けがめんどうだ」という声が多かったのです。また、テレビの下に敷く市販の耐震ジェルなどもありますが、「はがす時にテレビ台を傷つける」「はがしにくい」といったお声もちょうだいしました。

開発当初から商品企画を担当する野村。



「阪神淡路大震災級の地震でも倒れない」をターゲットに開発がスタート


テレビスタンドの中に、転倒を防止する機構を内蔵するというこれまでに経験のないテーマに取り組むことになったわけですが、そこにはどのような苦労があったのでしょうか。


本多:転倒防止スタンドは、社内はもちろん業界でも初めての機能でした。つまり、どのレベルまでの揺れを想定するのかという基準自体が存在しないのです。また、機能を訴求する上で、設計としてどのような基準を持てばよいのか、一から作り上げる必要がありました。さらに、「絶対倒れない」とまでは言えない機能にお客様に価値を認めていただけるのか、どのように訴求できるのかなどの声もありました。

品質部門、法務部門、営業や、商品企画、多くの部門と議論を重ねた結果、第三者機関で地震試験を実施し、阪神淡路大震災レベルまで耐えられることを実証すれば、それをエビデンスとして、転倒防止機能を訴求できるのではないかと結論づけました。そこで阪神淡路大震災レベルをターゲットに設定し、設計を進めることにしました。


川副:ターゲットとなる地震レベルが定まり、次の課題は、吸盤の面積がどれくらいならテレビの重量を支えることができるのか、でした。これについても自分たちで理論を立てて、手作り試験装置での検証、試験機関の地震試験での検証を繰り返し、スタンドデザイン内で収まる最適な面積を導き出しました。


デザイン性と機能性の両立が課題


大画面テレビのスタンドは、本来目立たずスタイリッシュに、そしてしっかりとテレビ本体を支えることが期待されます。そこに、転倒防止機能をどう組み込むのか、デザイン性と機能性にどう折り合いをつけていくかが、開発担当者の腕の見せ所といえるでしょう。この点について、初号機の開発にかかわった本多にたずねてみました。


本多:外から力がかかると吸盤が吸い付く機構のアイデアは、社内で先行開発していました。ただ、商品化には、それをどのように具体化し、デザイン性を損なうことなくスタンド内に組み込むかということは大きな課題でしたね。阪神淡路大震災の揺れに耐えるという高い性能と、スタンドとしての強度や安定性、さらにデザイン性との両立。最終的に、新機能の転倒防止を訴求するためにスイッチを前面に配置することに決定し、デザインを損ねないスイッチ構造という難題に取り組みました。

歴代の転倒防止スタンドについて解説する本多。


ビエラの転倒防止スタンドの歴史

2018年に初号機が出て以来、ビエラの転倒防止スタンドは進化を重ねています。2019年には、スイッチ部を隠すために初号機のスタンドにカバーを付けたバージョンが登場。翌2020年には、ベース部がラウンド型かつ薄型になると同時に、支柱部分も一本足のすっきりとしたデザインに進化しました。また、スイーベル(首振り)機構を搭載したバージョンも開発しました。

これらの変化のポイントについてたずねてみました。


河崎:初号機、2号機の発売以降、ご販売店様やお客様から、機能はいいがスイッチが前にあるデザインを好まない方が多いというお声をいただきました。

そこで、3号機となる2020年モデルではデザインを一新しました。基本的な原理は同じですが、より薄型の一本足デザインにし、スイッチを後ろに配置するために構造を見直しています。薄型化にはスイッチ機構を、従来のプッシュ型スイッチからスライド式スイッチへ変更したことが大きく寄与しています。このスライド方式でも特許を取得しました。さらに、一本足スタンドは、テレビに掛かる力が大きくなるため、それに耐えうる吸着パッドの改良にも取り組んでいます。


川副:大画面テレビにこそ転倒防止スタンド機能を搭載して欲しいというお声をいただいています。2022年に出た最新モデルでは、最大77V型に対応できる薄型スクエア型のスタンドを開発しました。市場全体としても大画面化が進んでおり、転倒防止機能がより求められる状況になっていると思います。


河崎:実はスタンドの前からでも吸着オンオフができます。スタンド前面に小さな穴を開け、そこから棒などで押すことでもスイッチをオフにできる構造にしています。スイッチをオンにしたい時は、クリップなどを使ってスイッチの爪を引き出すことで吸着させることができます。ちょっとした工夫ですがお客様の利便性を考えた機構です。

スタンド前面のくぼみに設けられた小さな穴を通じて、吸着操作スイッチで吸着操作をオンオフさせることも可能。



有機ELテレビを担当する河崎。


緊張感が漂う地震試験!


先述の通り、パナソニックではビエラの新モデルが登場するたびに第三者機関で地震試験を実施しています。試験では、阪神淡路大震災と東日本大震災の波形データを使い、実際の揺れを再現して転倒防止機能を確認しています。毎度行うことだとはいえ、大型テレビを激しい揺れにさらす実験会場は毎回緊張感が漂うのだそうです。


川副:大げさに言えば、映画などで見るロケットの打ち上げ現場のような緊張感があります。開発担当者にとって、「絶対に負けられない戦い」という感じで、無事に終了すると「さも当然」という顔をしていますが、内心はドキドキです。やはり、大型テレビが倒れるというのは相当なインパクトがありますから。


河崎:しかし、実は1度だけ倒れたことがあるんです。その時は動画撮影のクルーも来ていて、いつもと違う緊張感がありました。みんなでセッティングして、さあ準備完了となって揺らした瞬間ガシャーンと。相当なショックでしたね、大勢が見ている前で大型テレビが転倒する様子というのは。


川副:転倒した理由は、単純に吸着スイッチを入れ忘れていたからでした。たくさんスタッフがいて、緊張していたんだと思います。


本多:テレビが倒れるというのはショッキングなことだと、開発者一同が身を持って体験した事件でした。もちろん吸着スイッチをオンにすると無事に試験を終えられました。転倒防止スタンド機能の効果と重要性を改めて確認できた体験でした。

地震試験にて、大画面テレビが転倒した時のショックを語る河崎。


子どもの安全を守る機能として、キッズデザイン賞を受賞


ビエラの転倒防止スタンドは、2019年に「キッズデザイン賞」を受賞しています。同賞は、特定非営利活動法人キッズデザイン協議会が主催する顕彰制度で、子どもや子どもの産み育てに配慮したすべての製品・サービス・空間・活動・研究を対象としています。


川副:キッズデザイン賞に、子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン部門というものがあり、私たちの転倒防止スタンドもこれに該当するのではないかということでエントリーしました。地震だけでなく、子どもがテレビを倒してケガをするという事例は実は多いんです。東京都がその現状を報告書としてまとめていて、その中に1歳から2歳の子どもによるテレビを引っ張る力が記載されています。子供が力をかけても倒れることがないことを確認する、通称「キッズ試験」を東京都の報告書を参考にしながら確立しました。その検証データを持って「キッズデザイン賞」にエントリーし、審査委員長特別賞を受賞することができました。素晴らしい機能だと言うことを認めていただき、うれしかったですね。キッズ試験は、毎回、全モデルで実施しています。


転倒防止をパナソニックビエラの価値として掲げていく


2018年に登場した転倒防止スタンド付きのビエラ。2021年度時点で、累計出荷台数は132万台に及びます。販売店店頭で「転倒防止といえばパナソニック」との認知も進んでいるようです。手軽な操作で、大きな効果を発揮する転倒防止スタンド。最後に、この機能に対する思いをうかがいました。


本多:テレビは子どもからお年寄りまで使われる商品です。ビエラの画質・音質はもちろんおすすめですが、もうひとつ使い心地という点にもしっかりこだわっているということを転倒防止スタンドでアピールしていきたいですね。転倒防止スタンドは、お客さまの声から生まれ、お客さまのお困りごとに正面から向き合ってできた機能です。それを2018年から続けてきて、ビエラのひとつの価値になっています。ぜひこのスタンドを知っていただいて、パナソニックはお客様を大事にする会社だということをわかっていただければと思います。


河崎:テレビは家族が集うリビングの中心的存在です。テレビが大型化してきている中、倒れた時の心配、不安というのはより大きくなっています。テレビが倒れて大事な家族に危害が及ぶということがないよう、安全・安心を実現する商品や機能をこれからも開発していきたいですね。


川副:これまで、開発担当としてテレビにずっと携わってきました。最近はテレビだけではなくいろんなエンターテインメントを楽しむデバイスがありますが、やはりテレビは家族を一カ所に集める大切なツールだと思っています。もう一度、このスタンドがテレビの力を取り戻す一助になってほしいと考えています。


野村:本当に素晴らしい機能なので、一人でも多くの方に知っていただけるような活動をしていきたいですね。知っていただけたら必ず「いいね」って思っていただけると思います。

75インチ以上の大型テレビの転倒防止スタンドを説明する川副。


※ 転倒防止スタンドは、いかなる条件においても転倒・落下しないことを保証するものではありません。また、当社は、災害等によるテレビの転倒・落下に伴う損害については補償いたしかねます。使用上の注意を十分ご確認のうえ、ご使用ください。

※ 凹凸のない平らな面に設置してください。凹凸のある設置面では、吸着効果を発揮しません。また、設置面の素材、使用場所や使用環境により吸着効果が弱まる場合があります。


【関連情報】

◆パナソニック テレビ「ビエラ」商品情報サイト

https://panasonic.jp/viera/


◆有機ELビエラ LZ2000シリーズの転倒防止スタンド

https://panasonic.jp/viera/products/lz2000/installation.html







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