社会にもっと、”逃げ”のグラデーションを。逃げBar White Outのものがたり。
逃げる、とは何でしょうか?
すべての動植物にある本能ですが、人間だけがそれをネガティブなことと捉えています。
「人は死んだら星になる」といいますが、逃げようと思うときはまさに自らの命や人生を星の視点から俯瞰した時に覚悟が決まるのだと思います。いつ死ぬか分からないのにこんなとこで消耗している場合じゃない、と。
しかし雑多な情報、意識が有象無象に吹雪く現代の都市では、星の視点から自分を見つめるにはあまりに視界が悪いです。そんなホワイトアウトした都市から一時的に逃げ込める山小屋のような役割として、シンキングサンクチュアリとして、逃げBar White Outは2019年12月に、コロナ禍の始まりと共に横浜に店をオープンしました。
ここは見渡す限り真っ白な、できる限りの情報を排除した空間。
店内ではスマホを切り、時計もありません。
真っ白な空間と光に包まれ、何者でもない自分に帰っていき、星の視点から自らを見つめ直します。
店内の棺桶に入り、より深く内面を観察することもできます。
店は逃げたいことがある当事者に1日店長として入ってもらい「発達障害当事者の集まる場」や「場面緘黙を啓蒙する場」など様々な課題からの逃げ場として現在18名の店長と共に18通りの逃げ方を共有できる逃げ場になりました。
社会には逃げのグラデーションが足りなかった
こんにちは。逃げBar逃主(とうしゅ)のアメミヤと申します。
僕は逃げBarをオープンする前、現代の駆け込み寺をコンセプトにしたシェアハウスの管理人をしていました。3人1部屋のボロボロの家に住みながら、家出とかDVとか様々な事情で逃げてきた人がやってきては夜遅くまで話を聞く生活をしばらく続けていました。
その時に「シェルターに行くのは嫌だけど今の場所から逃げたくて、ここ(シェアハウス)がちょうどよかった」という人が多くて、この世の逃げ場にはまだまだグラデーションが足りないんだなと思いました。
開業年の前年2018年、未成年の自殺者数が78年以降最悪の数値となりました。そしてそのうち3割が学校の問題と言われています。(参照:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40160830Y9A110C1CR0000/)
小学生の時は学校と家庭だけが世界だったように、日本しか知らなければ日本だけが世界のように、世界は自らの意識の範囲でできていて、ゆえにその世界のルールは時折絶対のものと思ってしまい、自死しか逃げ道がないと考えてしまうことがあります。
社会にはシェルターや福祉相談所や自殺防止ホットラインなど様々な逃げ道が用意されていますが、そこに辿り着く前に、あるいはそれらの選択肢を選べない人たちに向けて、カフェやバーのような気軽さで、特に深刻でもない些細な事情で、逃げてこれる場が必要なのではと思っていました。
オンラインで趣味趣向の合う人をフォローしたり、友達同士で繋がることはできても、フィルターバブルよろしく価値観は広がりづらい構造にあります。ですがフィジカルな世界はまだAIによるサジェストも少ない混沌系であり「お隣に異なりがある状態」です。
僕はこの混沌系で年代も考え方も生活背景も異なる人たちと偶発的に、ある種のアクシデントのように出会ってしまう機会こそが価値観や生きるレンジを広げていくことになるのではと考えました。
そしてそれが「逃げたい」という共通の文脈上で1つの場で混じり合うことができたら、互いに共感性を持ちながら生きるレンジを拡張しあえるのではないかと思うのです。
もうどうしようもなく変わらないと思ってしまっている世界じゃない、もう1つの世界を感じられるような異空間を、異文化を、異場所を、誰でも気軽にふらっと入れる駅近の路面店、Cafe&Barのような形態でつくりたくて、横浜市営地下鉄の三ツ沢下町駅から徒歩1分、1階の路面店「逃げBar White Out」が生まれました。
逃げBarができること
逃げBarは前述のように高止まりする自殺者数を減らすために、逃げるということをもっと当たり前の選択肢にするために、遍く人々の3rdプレイスとして場を開き続けています。
Barといってもメニューの8割以上はノンアルコールなので、未成年でも立ち入り注文することができます。バーなんだけど未成年もOKというところに大人と子供の境界を絶妙に越境する感覚があり、それぞれが異なりに出会える環境となっているように思います。
逃げBarの関係人口は非常に多様です。撮影のためスペースレンタルをされるカメラマンやモデル、コスプレイヤーの方々もいれば、月1のDJイベントにだけ顔をだす音楽好きな方もいて、社会福祉に関わる方や障害を抱える当事者の方もいらっしゃれば、家出やDV、性的マイノリティ、生活苦、過労、様々なご事情で逃げにいらっしゃる方もいます。
(model- @mikietakei_arts photo- @katie_slow_)
バーなので当たり前の多様性とも言えますが、ここは逃げBarです。逃げるというキーワードだけが場に存在して、そのキーワードが人それぞれの弱い一面を曝け出しすきっかけになります。人は強さよりも弱さを共有する方が、優しく繋がることができます。ここでは弱さを分かち合いやさしく繋がるダイバーシティができるのです。
周りの人が誰でいようと、あなたが誰であろうと、逃げ場においてそれは何も関係がないことです。何者でもない、ただ逃げたい、それだけで人は人と心を通わせることができます。それが、大事なのです。
近所の高校生が偶然店に迷い込んできて、在廊していたパフォーミングアーティストに衝撃を受けて帰っていったこともありました。内向的で引き盛りがちな人がDJイベントに迷い込み、音に乗せて体を動かす楽しさに目覚めたこともありました。コスプレイヤーの投稿経由で店を知った人が入棺体験をしにきて「もう少し生きてみよう」と残していったこともありました。
こうして計画的に偶発的に価値観のレンジを広げ、繋がり、多様な逃げ方を知る、生き方を知ることができれば、いざ死にたいほど苦しいことが起きても、その逃げ方を試すことができるかもしれないし、まずは逃げBarに行ってリセットしてみようと思えるかもしれません。
逃げBarでやっていくこと
逃げBarという概念を通して「逃げること」をもっと雑に、適当に捉えてほしいと思っています。
特に深刻な事情がなくても、逃げることがどうしても必要な時があります。
「もう少しやばくなったら逃げよう」「身体が悪くなったら逃げよう」ではないのです。
その前に逃げなくちゃ。
少しでも危機を感じることがあれば、頭では認知できなくても身体に違和感が出たら、その時点で水を飲むように逃げていいのです。
前に進んでも後ろに進んでも、どれだけ登ってどれだけ落ちたって、世界は拡張されていきます。どこに進むべきかなんて、人類何万年の歴史の中で誰1人証明できていないし、きっと分かりません。
諸行無常、盛者必衰の理の中でただただ動き続けること、バイオリズムそのものが命を規定し、世界を世界たらしめているのではと思います。
逃げることは恥でもなければ後退でもない、退化でなければ負けでもない。僕らを僕らたらしめる行為として尊重して、普通に選択できる選択肢としてパブリックとリレーションしていく役割を逃げBarは持っています。
今は世界が真っ黒にしか見えないかもしれないけど、いつだって世界は真っ白で、選択肢は無限にあることを感じられる真っ白な空間にしたいという想いを込めて「White Out」という名前をつけました。
逃げBarの現状とこれから
この3年間一切利益を出さず逃げBarを開き続けてきた中で、2022年も変わらずコロナ禍の影響を受け、客足は遠のく一方で仕入れ原価や光熱費は上がり続け、国からの補助金も打ち切られ、室内でのイベント開催も危ぶまれ、経営状況でいうと年間で-134,120円の赤字でした。
そこで逃げBarでは今年の存続を決める場として、クラウドファンディングを実施中です。目標金額を達成すれば2024年3月までは少なくとも存続、未達成であれば2023年3月末で閉店となります。
逃げBarでは昨年からこのやり方で店を続けていて、年初のクラウドファンディングで逃げBarを知っていただいた皆さんに、ジャッジメントをしていただいています。求められる限りは存続し、求められていなければ潔く場を閉じます。
以下、昨年のクラウドファンディングに支援していただいた皆さんからの応援メッセージです。
「福祉サービスでもなく、ふらっと立ち寄って逃げれる居場所。こういう居場所が、地域には本当の意味で求められていると感じます。応援しています!」-momiko_ko
「逃げる場を作るところから逃げないやつがいることでどれほど救われる人がいることか 少しだけど熱量おくります!」
-CHIKAO
「何気ない逃げ場が出来る事は、相談支援窓口が出来る事より重要だと思うので。応援してます。」-motoshima
「どうか存続できますよう…!美しいあの場所が残りますように!」 -unica0927
「はっきりとしない生きづらさを抱えて過ごしていた中、偶然この場所にたどり着きました。遠方から少しだけ、支援させてください。いつか、逃げに行きます。」 - Amomirki
「逃げBARは本当に素敵な心の拠り所となる場所です!誰でも逃げられるように、ずっと存在していて欲しい。」-yukari_colaborator
「ギリギリになるまで何もご支援できなくてごめんなさい。逃げbarは黒い社会の荒波に揉まれていた私を浄化し、心から癒して背中を押してくれました。海の向こうから応援しています!また会いに行けるよう頑張ってください!」-yurietty729
逃げBarはクラウドファンディングの支援によって、逃げBarを逃し続けてくれる人たちのお陰で、逃げ場として開き続けることができています。
今年のクラウドファンディングは2023年3月14日(ホワイトデイ)に終了します。
現状まだ達成に至っておらず、存続が不確かです。
まだこの場を知らない多くの人に情報が届くことを願っています。
そして新たな逃げの選択肢が始まります
今回つくるのは「場」ではなく「講」です。
日本史の授業でなんとなく聞き覚えがある方がいるかもしれません。江戸時代あたりに流行ったとされる、あれです。
逃げ切るために集う現代の”講”「逃避講」を結成します。
逃げBarを営む中で、生まれた仮説があります。
それは、人はどこに逃げるかよりも誰にどう逃がされるかが重要だということ。
逃げBarにはさまざまな事情で逃げにいらっしゃる方々がいます。「今日も仕事疲れた〜」という軽い息抜きから「生きづらくて仕方ない」という切迫したものまで。
この真っ白な「場」は軽傷〜中傷までなら空間の力で「逃げの自己免疫」を活性化させ、逃げられる力があるのですが、1人の力じゃ逃げられないようなケースや、そもそも逃げBarに気軽にいけない距離にいる人もまた存在します。
そこで今回、リアルな場ではなくオンラインの講として相互共助の集まりをつくることで、場に来れない人にも逃げの機会を広げられればと思いました。
逃げBarの1日店長たちは自分で逃げ場を開きつつ、別の店長の日には自分が逃げに行くというような共助コミュニティにもなりつつあるのですが、時には誰かを逃し、時には自分が逃げる、このバイオリズムがもっとオープンでダイナミックな形で発展していけると非常に健全なのではと思い、至ったのが講(正確には代参講や旅費無尽講の類)でした。
そして未来を予測できない僕らにとって、逃げたいことがいつ顔を現すかは分かりません。そのため「逃げたくなった時に逃げられるリスクヘッジ」としても「講」は機能し得ると考えます。
それではここから逃避講の具体的な活動内容についてです。
まず基本的な機能としてはオンライン(Slackをイメージ)上を拠点として、全国どこからでも参加できる逃げ場を作りたいと考えています。
逃げたい時に逃げたいと言うだけの場、解決したい悩みがあれば投げてみる場、おすすめの逃げ場を聞いたり、教えたりする場、日常的に起こりうる逃げたい気持ちに対して、オンラインで相互にケアできるコミュニティという側面がまず1つあります。
そして下記がメインの活動内容となります。
「逃げ参り」という旅を企画します。
詳細は講に集まった方々みんなで決めていこうと思うのですが、基本的には下記のようなイメージです。
数ヶ月毎に行われる代表制の旅です。
・講内で集めた予算を旅の予算として分割し、数ヶ月毎に代表に選ばれた人にその予算を使い、皆に代わって逃げてもらいます。
旅の行き先を本人は知りません。
・旅の行き先やプランは代表以外の全員で決めます。どうしたらその人が逃げられるのかをみんなで考え、旅を贈るのです。
代表は投票、交代制で選ばれます。
・代表が選ばれる投票日までに、逃げたいことが起きた方、ある方はSlackのチャンネルに投稿し、投票数が多い(より逼迫した課題だと感じられている)人が逃げにいける仕組みにしようと思っています。そして逃げにいける回数は年に1人1回までで、最終的には全員に順番が回ってくるようにしたいです。
逃がされるだけじゃなくて、誰かを逃す体験が、自らの逃げにも繋がると思うのです。
逃避講は逃げ参りを行う性質上、一定の人数が必要と考えています。
なので募集締め切り日の3月15日23時までに30名の講員が集まっていることを逃避講結成の条件としました。
逃避講の詳細は下記の記事にまとめておりますので、興味関心が少しでも出てきた方は一度覗いてみてください。
まとめ
逃げBar White Outは逃げることを当たり前にできる選択肢としてパブリックとリレーションしていくために、常に新たな逃げのアプローチを開発し、場と機会を開き、関わる人々との因と縁により紡がれていく物語です。
これだけの長文をここまで読んでいただいた皆様とは、既にただならぬご縁を感じざるを得ません。どうか実際に繋がっていけることを、心より楽しみにしています。近所の公園に散歩しにいくような気持ちで、ふらっと逃げにいらしてください。
逃げたいことから逃げ切れますように。
それでは。
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逃げBar White Out
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筆者
逃主
アメミヤユウについては逃げBarで撮影していただいた下記インタビュー映像をどうぞ。
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