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人の数だけ、物語がある

収録種数最多約1600種! いつか、“魚の図鑑を作りたい”――ぶれない情熱が掴んだ夢

著者: 株式会社 学研ホールディングス

Gakkenが生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱です。Gakken公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を、「インサイド・ストーリー」として紹介。今回は『学研の図鑑LIVE 魚 新版』の改訂に抜擢された、無類の“魚好き”を公言する図鑑編集部の高田竜です。


個性派が集まる学研・図鑑編集部のなかでも、彼ほどまっすぐに夢を叶えた編集者はいない。幼いころから魚が好きで、親に買ってもらった愛読書『学研の魚図鑑』は、ボロボロになるまで読み、海や川で魚の観察に明け暮れ、大学院では海洋生態学を修めた。


「履歴書から最終面接まで“魚の図鑑を作りたいです”としか言ってませんでした」――学研の入社試験でも、魚が好きという一心を貫いた。

そんな高田が、夢を叶えた。編集を担当した『学研の図鑑LIVE 魚 新版』がついに完成を迎えるのである。

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■魚の世界は“多様性”に満ちている。このおもしろさを知ってほしい

 毎年、数百種もの新種が発見されているという魚。『学研の図鑑LIVE 魚 新版』の収録種数は、旧版を300種ほど上回った約1600種を掲載、ページのすみずみまで高田の熱意とアイデアが光る渾身の1冊に仕上がった。


「新版でもっとも大切にしたのは、魚の世界の“多様性”です。魚って、わかっているだけで3万5千種以上と多種多様です。全部載せたいという気持ちはありましたが、やはり限界があります。最初に読む人たちに、情報もわかりやすく伝えられ、多様性も感じてもらえるのに最適だと考える数に厳選し、収録種を約1600としました」


魚の生態の違いを紹介するために、まずは“見せ方”から再設計。 通常の学習図鑑なら“○○科”まで入れるのが一般的だが、新版では、解説のある魚のデータ部に“○○科○○属”までの分類を記載。旧版や、類似の子ども向け魚類図鑑を見回しても、分類を“属”まで細分化して記載した図鑑は今回が初だという。


「クマノミっていうと、イソギンチャクの近くで暮らしているイメージですよね?でも、クマノミが属する“スズメダイ科”のみんながイソギンチャクと暮らすわけではないんです。スズメダイ科にはクマノミ属やスズメダイ属などがいて、イソギンチャクと暮らしているのはクマノミ属。スズメダイ属はサンゴ礁などで、群れをなして暮らしています。科は同じでも、属によって見た目や生態が違うことがあるんです。だからこれまでひと括りで紹介されていた“属”の分類も、分けて示しています」



■細部の特徴がわかる、幼魚と成魚の見た目比べができるのも図鑑ならでは

 さらに写真も、それぞれの種間の“違い”がわかりやすくなるよう細部まで工夫を施している。


「インパクトをねらうと、さまざまな角度やポーズの写真をのせたくなりますが、基本の魚の形は、やはり横からの見た目です。水族館でも、正面よりも横からの姿をみることのほうが多いのではないでしょうか。

また、採用する標本写真も、種による違いをみせるために細かい部分にこだわっています。たとえば、それぞれのひれを広げた状態にしたり、からだの線の位置や形にこだわったりと、魚の分類において非常に大事な要素が比べたときにわかることを第一に考えました」

ふだん見慣れている魚にも、新たな発見があるかもしれない。


 

 また新版では、同種でも性別や成長段階によって見た目に違いのある魚についても積極的に取り上げている。


「ベラの仲間で、“オビテンスモドキ”という魚がいるのですが、この幼魚の姿は、成魚の時とはまるで違うんです。幼魚は漂う枯れ葉に擬態しているような見た目なんですが、成魚は全く違う姿をしています。こうした成長過程における違いもおもしろいですよね」


▲誌面左下が「オビテンスモドキ」。


■総監修は魚類分類学のトップランナー・本村教授。30人以上の研究者が監修・執筆

 

 新版の総監修には、鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之教授を迎えた。高田によれば、今回目指した“魚の多様性”を展開するためには「この方しかいない」と心に決めていたという。


「多種を掲載し多様性を示すという点で、監修者は、それぞれの魚の分類ができるエキスパートでなければなりませんでした。

 そこで、魚類分類学の専門家である本村先生にご相談しました。先生とは、多様性についての考えや、どう表現していくかの方向性、魚のおもしろいと思う観点が近かったことも大きいです。先にお話した、成長過程の違いが独特なオビテンスモドキのおもしろさを伝えたいという気持ちも一緒でした。“幼生から成魚までを絶対に載せましょう!”と、先生と意気投合したんです」


 さらに、今回の紙面づくりには、もうひとつこだわりがある。30名以上の研究者が監修・執筆に関わっているという点だ。


「通常、図鑑の“執筆”は、ライターや編集者が中心です。しかし今回の新版のテーマである『多様性』には、“研究者の声”が必要だと考えていました。研究者の方々は魚を熟知し、知りうる情報がより多く、また最新の研究情報にも通じています。最先端の情報が見える、いままでにない、深く、そして多角的な目線での解説になっていると思います」


■“調べる”だけではない、飼育、釣り、料理…6つの楽しみ方とは

▲プライベートの釣りで、なんとマグロ(キハダ)を釣り上げたこともあるそう。


今では自宅の6つの水槽で魚を飼育し、月に何度も釣りに行くことがあるという生粋の魚好きである高田。幼少期から祖父母の家近くの海で魚と触れ合っていたが、特に父の海外赴任によりインドネシアで過ごした中学生の頃の影響が大きいという。

「住んでいたジャカルタには鑑賞魚店が集まる通りがあって、ズラッと100店舗以上も熱帯魚屋さんが並んでいるんです。カラフルでいろんな形の魚がいっぱいの光景に圧倒されて、その影響で本格的な魚の飼育を始めました。両親も協力してくれて、大きな古代魚の仲間を飼ってみるなど、最終的には水槽9つで飼育していました。今よりも多いですね(笑)」


その後、高校生の頃にはダイビングのライセンスを取得し、どんどん魚の世界にのめりこんでいった。


高田は自身の体験から、魚好きな人は、魚を通していろいろな遊びや趣味が広がっている人が多いと考え、魚の楽しみ方の多様性にも目を向けた。新版の目玉のひとつ“アクティビティページ”だ。

通常の図鑑では“飼育”と“観察”のみを取り上げているものも多い。


「“飼育”と“観察”も紹介していますが、魚の楽しみ方は多彩です。たとえば、“釣り”もそうだし、小さい子なら保護者といっしょに“磯遊び”。“漁”や“料理”とか、“研究”というのもあります。また、“水族館”という楽しみ方もありますよね。アクティビティページでは、これら6つのテーマを14ページにわたり書きおろしています。読み物としてもおもしろいのですが、やっぱりこれを見て、実際に体験してもらえたらうれしいですね」


水族館については、付属のDVDでもその楽しみ方を紹介している。個性豊かな3つの水族館すべて綿密に取材した、貴重なオリジナル映像だ。


「新江ノ島水族館では、世界初のシラスの展示を取り上げました。カタクチイワシの幼魚であるシラスと、そこから少し育ったもの、さらに成魚のカタクチイワシの群れを追いました。また、沼津港深海水族館では、めったにお目にかかることのない、“シーラカンスの冷凍標本”の裏側を取材しています」


さらに、沖縄美ら海水族館では、大型水槽で飼育されているジンベエザメのエサやりを撮影。現地まで足を運ばないと見られない貴重な映像をたっぷり詰め込んだ。


▲「ジンベエザメのエサやり」の一場面


そのほかにも、種は全然違うのに、お互いに助け合っている「テッポウエビとハゼの共生」。トビウオやテッポウウオの生態など、レアな映像や魚の面白い技などが紹介されている。


「“多様性”という意味では、多くの人がイメージよりはるかに多くのバリエーションがあります。子どもたちには、みんな違っていておもしろい!という感覚をリアルに感じ取ってもらいたいなと思っています」


■図鑑はあたらしい世界を広げる「鍵」。その扉をあける子どもを応援したい

 

 高田はなぜ、“多様性”にこだわったのだろうか。


「やはり、“違うことがおもしろい”からだと思います。違いがあるなかで、しっかりとそれが相互に関係性を持ち、生態系をつくり上げているところは、子どもの頃から見ていても飽きないし、本当におもしろい部分です。


僕は、大学院で海洋生態学を学んでいました。津波の後の干潟生態系の経年変化を探っていたんです。たった一種の生物が現れることで環境には何かしらの影響がある。それぞれが役割をもち相互に関係しあって、生き物・環境のバランスが保たれているんです。だから、多様性を図鑑で伝えたいんです」


また、情報量にもこだわった理由は。


「たくさんの魚の種類を入れることや、魚の生態の詳しいところ・ささいなところまでいれることで、さまざまな発見や疑問を感じる余地が生まれると思う。『学研の図鑑LIVE 魚 新版』では、とにかくたくさん情報を入れて、子どもたちの新たな興味のきっかけを与えられればと考えています。それぞれの感じ方、捉え方で、楽しんでもらいたいと思っています」


一冊の魚図鑑への出会いがきっかけで、可能性の扉を開いた少年は、成年になってその夢を叶えた。時間がめぐり、今度は高田のつくった図鑑が、世界のどこかでワクワクしながら読みふける、子どもたちのもつ新しい可能性の扉を開いていく鍵となる。


「みんな違ってみんないい」。そんなメッセージをこの図鑑で受け取った子どもたちが、20年後にどんな扉をあけているだろうか。これは学研の図鑑編集者が密かに抱く、“タイムマシン”としての楽しみでもある。


(取材・文=吉田順 撮影=多田 悟 編集=櫻井 奈緒子)


クリエーター・プロフィール

高田竜(たかた・りょう)


千葉県出身。小中学校を東南アジアで過ごす。大学院にて海洋生態学を専攻し、2014年学研教育出版(現・Gakken)に入社。学習教材チームなどを経て、2020年より図鑑チームに配属。




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